執事王子と庭師姫
+ツンデレ王子。

葵が王女なんで当然の如く女性化してます。世界観もパラレル。
※この手の設定が苦手な方はこの場から脱兎の如く逃げましょう。
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  トリノの若様の想い出がいっぱい 2007年11月24日(土) 小ネタSS
幼少期の三人です。
執事少年のはずが気づいたらツンデレ君視点になってました。

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あれはオレが10にも満たない年の頃だったか。

オレは父であるトリノ公爵に連れられてミラノ大公家に来たものの、ヒマを持て余して一人で庭を散策していた。

ふと足を止める。
オレは眉をひそめてつぶやいた。

「……なんだあれは?」

クマのぬいぐるみの形に刈り込まれた庭木を呆れたように見やった。
格式と伝統を誇る大公家の庭園にしては、妙にミスマッチな造形だ。
それが大・中・小とりあわせてあちこちに点在するのだから、違和感もいや増すというもの。

ひときわ大きなクマの足下で、なにやら一生懸命ぴょんぴょん飛び跳ねている小さな後ろ姿に気づく。見たところ自分と同じか一つ二つ年下の少女だが、一体あそこでなにをしてるんだ?

困惑顔で眺めていると、ふいに少女がふり向いた。

水色のエプロンドレスの裾が風にふわりと揺れる。
胸には大きな水色リボン。足にはリボン飾りの付いた黒い革靴。
長い漆黒の髪は左右二つに高い位置で束ね、それぞれ両肩先に垂らしている。

不本意ながら思わず見とれてしまった。
まさに不思議の国のアリスばりの凶悪な可愛らしさである。

少女は軽やかな足取りでオレの方に駆け寄ってきた。

「あたしはアオイよ! あなたはだあれ? どこから来たの?」

姿形に負けず劣らず声も非常に可愛らしい。
少女……アオイはつま先立ちに大きな茶色の目を輝かせてオレを見上げている。
そのあまりの愛らしさに心をわしづかみにされた。

しかし心とは裏腹に、気がついたら得意の憎まれ口を叩いていた。

「――フン。サルに名乗る名前はないな」

内心頭を抱えてため息をつく。なぜ自分は好意を抱いた相手に対してこうも素っ気ない態度を取ってしまうのか。ばつの悪い思いで顔を背けた。

少ししてちらっと横目でアオイを見やって、ぎょっとする。

アオイは大粒の涙をぽろぽろとこぼしながらオレを見つめていた。

「ちょ、お前……あれくらいで泣くんじゃねえよ !?」
「…………………」
「ったく…ああ、オレが悪かったよ、これで文句ねえだろ !?」
「…………………」

あいかわらずアオイは涙目でオレの顔をにらみつけたまま、ウンともスンとも返事しない。ああもう、どうすりゃいいってんだよ?

事態が膠着状態に陥るなか、ゆったりとした声が響いた。

「どうしたんだいアオイ?」
「――ジノぉ〜!」

アオイはふらりと現れた茶色い髪の少年に駆け寄り、涙ながらに訴えた。

「うわーん! 金髪バカゴリラに虐められた〜 !!」
「んだとぉ !? よくも言いやがったなこのサル女 !?」

ついカッとなって言い返してしまう。
やれやれといった風にかぶりを振って、茶髪野郎が口を開いた。

「君はトリノ公家のサルバトーレ君……かな? アオイが迷惑かけたね。すまない」
「………ってそもそもお前誰?」

オレはぶすっとした顔で問いを投げた。
なんとなく正体の方は察しがついていたが。
オレとほぼ同年代、かつオレとほぼ同程度の家柄(これくらい直感でわかる)でここはミラノ大公の館とくれば、皆まで言わずと知れたこと。

「ああ失礼。僕はジノ・ヘルナンデス。よろしくな」

先代大公の孫息子サマは穏やかな笑顔で右手を差し出した。

はっきりいって気にくわない。
その余裕に満ちた笑みも、こちらの心を見透かすような眼差しもなにもかも。
なにより一番癪に障るのは、アオイが自分のものであると言わんばかりの小憎らしいその態度だ。

ジノの背後に隠れて、こっそりこちらを窺っているアオイとふと目が合った。
アオイは現大公の孫娘に相応しからぬしかめっ面でべーっと舌を出し、

「ふーんだ、あんたなんかだーいっキライ!」
「そりゃオレのセリフだっつーの !? このバカサル女 !!」
「サルじゃないもん! なによ、あんたこそバカゴリラのくせに〜 !!」
「ンだとてめぇ !? 泣かすぞゴラァ !?」

ジノが苦笑いして間に入った。

「はいはい。紳士と淑女がサルサル連呼しちゃダメだよ」
「黙れ。オレはてめぇが一番大嫌いだ!」
「なによ、あたしはジノが一番大好きよ!」

アオイの言葉にあらためて確信した。
やっぱりオレはジノの野郎が気にくわない。

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こいつら意外と腐れ縁みたいです。
大中小クマの刈り込み庭木(トピアリー)はアオイが渋るカリメロ親方に無理言って作らせたもの。

アオイのエプロンドレスはモロにこれ。→
ジノとジェンチの服? 英国貴族のご子息が着てるみたいなブレザーにバミューダーあたりなんじゃないかとテキトーにお茶を濁しておきます。

私信。小さい頃の執事はあんな感じです。ていうか今とさほど変わりませんね。

  姫様と落としぶた 2007年11月21日(水) 小ネタSS
あっという間に書きました。あいかわらず脳が腐ってます。

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カリメロの前にエスプレッソを置くと、ゴッツアは思い出したように口を開いた。

「そういやカリメロ。さっきアオイが厨房にやって来てな。ちょうどオレの手が空いてなかったんで、気軽に頼んだワケよ。“そこの鍋に落としぶたしといてくれ”ってな。で、あいつどうしたと思う?」

カリメロの脳裏に危険信号がピコーンと点滅した。
が、努めて冷静を装って適当に相づちを打つ。

「さぁな。また変なことでもやらかしたのかい?」
「鍋の前に立って落としぶたを床に落っことしてくれたんだよ。思いっきりガシャーンとな」

思わずカリメロは口に含んだエスプレッソを吹きそうになった。

「そ、そうか。すまねえな。ウチの見習いが不調法しちまって。アイツ庭仕事しか知らねえんだ。勘弁してやってくれ。ハハハ……」

目を泳がせながら言い繕う。
ゴッツアはそんなカリメロを楽しげに見やった。

「そうそう、面白い話を思い出したぜ。聞きたかねえか?」
「なんでえ。やぶからぼうに」
「そんな嫌そうな顔すんなよ。あれは7〜8年くらい前だったか。当然だがその頃のオレは料理人としては駆け出しでな、ミラノ一のお貴族サマの館の厨房で修行してたんだ」

それを聞いてカリメロは酢を飲んだみたいな顔になった。

「その日は晩餐会だかなにかでな、料理人は朝から息つく暇もねえくらいの大忙しさ。いい加減疲れて頭がボンヤリしてきた時、やけに下の方から声がしたんだ。“ねえねえ。なにかお手伝いしてもいい?”深く考えもせずに“そんなら鍋の落としぶたしといてくれ!”って言ったとたん、ものすごい音が響いたんで、慌ててふり返ったら驚いたね」

ゴッツアはここで言葉を切ってにんまり笑った。

「10歳くらいの女の子が鍋の前に立っててよ、真下の床には落としぶたが転がってたのさ」

“落としぶた、上手にできたでしょ?”
そう言って自慢げに胸を張る少女の姿を思い出して、ゴッツアは苦笑いを浮かべる。

「あの嬢ちゃんもつくづく進歩のないヤツだねえ。お姫様ってみんなああなのかい?」
「……いや、お嬢は特別だと思うぜ」
「あのあといかにも賢そうなお坊ちゃんが顔を出してな。ご丁寧に“アオイが邪魔したね”って頭下げて姫さん連れて行ってくれたんだが。ここだけの話、なんでまた先代大公の公子サマが他国で執事なんかやってんだ? そもそも庭師の姫さんってのも相当なもんだけどよ」
「……んなこたあオレが聞きてぇよ」

カリメロはうんざりしたようにかぶりを振った。

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カリメロは庭師の親方です。腕はイタリア一。元は先代ミラノ大公家で働いてました。
ゴッツアさんはおこめさんちと同様に料理長です。腕の方はミラノ仕込み。

私信。
まあ一応ラストは執事と庭師のハッピーエンド考えてますが、別にマルチEDでもいいんじゃないかと思ってたりもする腐った私。トリノの若様なんか不憫だしー。

  あらすじ 2007年11月16日(金) 小ネタSS
 おこめさんちの執事設定がやたらツボに入って私もちょっくら妄想してみました。もちろん王女サマでな! とことん腐ってる私の頭。


トリノの大貴族ジェンティーレ家に最近新しい庭師見習いが雇われました。名前はアオイ。年の頃は17〜8、よく笑いよく泣きよく怒るにぎやかな女の子です。なんでもミラノから来たそうです。女の子なのになぜ庭師なの?とたずねたら、「ほえ? そのほうが目立たなくていいじゃ〜ん!」。
彼女は庭の枯草で芋を焼きながらほがらかに答えてくれました。あの煙は1キロ先からも十分目立っていたと思います。とにかく彼女は人前に出たがりません。ただの人見知り? いえいえ、アオイに限ってそれはありません。思うになんらかの事情があるのでしょう。

そうそう、当家の有能極まる執事ヘルナンデスさんもミラノ出身だそうです。同郷のよしみか、アオイとはなにかと親しげにしておられます。若いメイドたちなど「あの二人はアヤシイ」とさかんに噂しておりますが、私が見るにそのような単純な間柄ではないような気がします。けどまあ彼がアオイを本当に大切に思っていることは確かですね。

ただ当家の若様ことサルバトーレ様はアオイをあまり快く思っていらっしゃらないようで。なにかと文句を付けては素っ気ない態度で接しておられます。けど勤続15年の私の目は騙せません。若様のアレはその、昨今の言葉でなんといいましたか……そう、ただのツンデレです。たとえるなら素直じゃない少年が好きな子を虐めているようなもの。それはともかく、いい加減にしないと本気で嫌われてしまいますよ。

少し前小耳に挟んだのですが、若様の婚約者であるミラノ大公家の姫君が急な病に倒れられ、明日をも知れぬ身だそうです。一度も顔を合わせたことのない政略結婚の相手とはいえ、やはり若様も心中穏やかではないでしょう。そういえばこの噂を耳にした直後にひょっこりアオイが現れましたっけ。別に関係はありませんが奇遇に思いまして。

それでは明日も早いので今宵はここまでに致します。
(トリノ公ジェンティーレ家のメイド頭コンスタンツェの日記)


妄想にまかせて一気書き。いつもこれくらい筆が速ければいいのに。

突然出奔した恋人を追っかけてトリノまでやって来たミラノのお姫様の話です。
野良着に麦わら帽子の手ぬぐいほっかむりな庭師プリンセス。可憐だ! (アホだ

例によっていらん設定がわんさかありますよ〜。
ミラノ大公家はもともとジノの家系が継いでたんだけど、いろいろあって先代で没落してアオイんちに移ります。ジノはお家再興した暁にアオイを迎えに行くつもりだったんだけど、そこへ降ってわいたのが例の縁談。アオイは相手の名前も聞かずにすたこらさっさと逃げました。逃げた先がその縁談の相手の家とも知らずに。姫様不在をミラノ側は病気と称して誤魔化してる。まあこんな感じ。