執事王子と庭師姫
+ツンデレ王子。

葵が王女なんで当然の如く女性化してます。世界観もパラレル。
※この手の設定が苦手な方はこの場から脱兎の如く逃げましょう。
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  ささやかで、いとおしいもの 2007年11月27日(火) 小ネタSS
8歳の執事と7歳の庭師です。なにこのお約束なラブラブ展開。

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「ケッコン? なにそれ?」

アオイは大きな目をぱちくりさせて首を傾げた。
弱冠七歳とはいえ、同年代の他家の少女達ならあり得ないことだが、彼女のボキャブラリーに“結婚”という熟語は存在しないらしい。

けどまあそれに関しては予想済。僕はあわてず騒がずしれっと言い換えた。

「二人いつまでも一緒にいるための魔法の呪文さ」
「ホント? ずっと一緒?」
「うん。いつもそばにいるよ」
「わーい! じゃああたし、ジノとケッコンするね!」

案の定、僕の垂らした釣り糸にアオイはいとも容易く引っかかってくれた。
得たりとばかりに内心にんまりしつつ、もっともらしい表情で続ける。

「ではお姫様、お手をどうぞ」
「ほえ? なあに?」

アオイは僕の差し出した手に自分の左手を重ねた。
その薬指にあらかじめ用意していた指輪を滑り込ませる。
一見してなんの飾りもないただの青いガラスのリング。
だが頭上に広がる空の青さをそのまま写し取ったように光り輝いている。

「うわーキレイキレイ! お空の色だね〜!」

陽の光にかざしてためつすがめつ眺めながら、アオイは輝くような笑顔で言った。

「これは約束の印。気に入ってくれると嬉しいな」
「ほえ? くれるの? わーい、ありがとうジノ! だーい好き!」

大喜びで僕に抱きついたはずみに、アオイの薬指から指輪がするりとすっぽ抜ける。
そのまま近くにある大理石の泉水盤めがけて勢いよく飛んでいき、カツンと音を立ててぶつかった。

アオイは半泣きになって僕の顔を見上げた。

「やーん、壊れちゃった !?」
「いや大丈夫。心配ないよ、この程度の衝撃くらいはね」

僕は安心させるように微笑むと、芝生に落ちた指輪を拾い上げた。
思った通り傷ひとつ見あたらない。というかそれはむしろあたりまえの話で。

なぜならこの指輪は実は青いガラスではなく、大粒のサファイア原石をくり抜いて造られたものなのだ。そこいらの石や金属ではひっかき傷すら付けられない。たとえ火にくべたとしても余裕で燃え残るだろう。まさに硬玉の名にふさわしい、ある意味ダイヤよりも最強の貴石。

生前の祖父にこれを手渡された時、正直言って呆れた。
聞けば数百年ほど昔、うちの先祖がアオイの先祖に渡すために拵えた特注品らしい。

わざわざ二つと無いサファイアの逸品を台無しにしたうえ、多大な労力と費用を投じた挙げ句、出来上がった物がただの青いガラスの指輪にしか見えないシロモノ。

うちの馬鹿先祖は一体なにを考えていたのやら。

でも今はなんとなく彼の気持ちがわかったような気がする。

指輪をアオイに手渡す。

「ほ、ホント? よかったぁ……」

アオイはほっとした表情で受け取ると、手の中の指輪を大事そうに撫でた。

彼女にとってはガラスも宝石も関係なく、大切なのはそれに込められた気持ちなのだろう。ただ高価なだけの贈り物になど見向きもしない。それが心からのものであれば、むしろ綺麗な小石や貝殻といったささやかなものにこそ喜びを覚える少女なのだから。

僕の先祖にこの指輪を渡された時、きっとアオイの先祖も彼女と同じように輝く笑顔を見せたことだろう。

一方アオイは指輪をはめた手を上下に振ってみて、眉間にシワを寄せ、

「むー、やっぱりぶかぶか〜。……そーだ!」

ポンと手を打ち、胸元から銀の鎖を引っ張り出した。
銀の鍵や指ぬきといったこまごまとした小物がジャラジャラと付いて出てくる。
生来そそっかしい彼女のこと、しょっちゅう物をなくすので、とりあえず大事な物はすべてぶら下げて持ち歩くことにしたらしい。

アオイは慣れた手つきで留め金に指輪を通してにっこり笑った。

「うん、これでもう安心ね!」

僕は雑多なガラクタとともに銀鎖の先で揺れる青い指輪に目を細めた。

ガラス細工に見せかけたサファイアの指輪は、とるに足りないささやかなものをこよなく愛した彼女の先祖のために、僕の先祖が作らせた“この世で最も素晴らしい、それでいて一見たいしたことのないもの”。
愛する彼女のために最高の物を贈りたかった彼の苦肉の策ともいえる。

それがどんなに彼女を喜ばせたかは、目の前で無邪気な笑みを浮かべるその子孫を見れば一目瞭然。

そんな彼女の姿に僕の先祖は一層のいとおしさを覚えたに違いない。
だって現にこの僕がそうだから。

僕はアオイを引きよせ軽く口づけると、耳元でささやいた。

「その指輪が君の指にぴったりはまるようになったら、君を迎えに行くよ」


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書き終えてふと思った。ジノ、こいつホントに8歳なのか?
かわりにお姫様の精神年齢が低いですが。

ヨーロッパの王侯貴族の婚約指輪ってサファイアが多いですよね。ダイヤよりむしろ定番。ま、たかが1000度で燃え尽きるダイヤなんかよりずっと貴重だよな。

  トリノの若様の想い出がいっぱい 2007年11月24日(土) 小ネタSS
幼少期の三人です。
執事少年のはずが気づいたらツンデレ君視点になってました。

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あれはオレが10にも満たない年の頃だったか。

オレは父であるトリノ公爵に連れられてミラノ大公家に来たものの、ヒマを持て余して一人で庭を散策していた。

ふと足を止める。
オレは眉をひそめてつぶやいた。

「……なんだあれは?」

クマのぬいぐるみの形に刈り込まれた庭木を呆れたように見やった。
格式と伝統を誇る大公家の庭園にしては、妙にミスマッチな造形だ。
それが大・中・小とりあわせてあちこちに点在するのだから、違和感もいや増すというもの。

ひときわ大きなクマの足下で、なにやら一生懸命ぴょんぴょん飛び跳ねている小さな後ろ姿に気づく。見たところ自分と同じか一つ二つ年下の少女だが、一体あそこでなにをしてるんだ?

困惑顔で眺めていると、ふいに少女がふり向いた。

水色のエプロンドレスの裾が風にふわりと揺れる。
胸には大きな水色リボン。足にはリボン飾りの付いた黒い革靴。
長い漆黒の髪は左右二つに高い位置で束ね、それぞれ両肩先に垂らしている。

不本意ながら思わず見とれてしまった。
まさに不思議の国のアリスばりの凶悪な可愛らしさである。

少女は軽やかな足取りでオレの方に駆け寄ってきた。

「あたしはアオイよ! あなたはだあれ? どこから来たの?」

姿形に負けず劣らず声も非常に可愛らしい。
少女……アオイはつま先立ちに大きな茶色の目を輝かせてオレを見上げている。
そのあまりの愛らしさに心をわしづかみにされた。

しかし心とは裏腹に、気がついたら得意の憎まれ口を叩いていた。

「――フン。サルに名乗る名前はないな」

内心頭を抱えてため息をつく。なぜ自分は好意を抱いた相手に対してこうも素っ気ない態度を取ってしまうのか。ばつの悪い思いで顔を背けた。

少ししてちらっと横目でアオイを見やって、ぎょっとする。

アオイは大粒の涙をぽろぽろとこぼしながらオレを見つめていた。

「ちょ、お前……あれくらいで泣くんじゃねえよ !?」
「…………………」
「ったく…ああ、オレが悪かったよ、これで文句ねえだろ !?」
「…………………」

あいかわらずアオイは涙目でオレの顔をにらみつけたまま、ウンともスンとも返事しない。ああもう、どうすりゃいいってんだよ?

事態が膠着状態に陥るなか、ゆったりとした声が響いた。

「どうしたんだいアオイ?」
「――ジノぉ〜!」

アオイはふらりと現れた茶色い髪の少年に駆け寄り、涙ながらに訴えた。

「うわーん! 金髪バカゴリラに虐められた〜 !!」
「んだとぉ !? よくも言いやがったなこのサル女 !?」

ついカッとなって言い返してしまう。
やれやれといった風にかぶりを振って、茶髪野郎が口を開いた。

「君はトリノ公家のサルバトーレ君……かな? アオイが迷惑かけたね。すまない」
「………ってそもそもお前誰?」

オレはぶすっとした顔で問いを投げた。
なんとなく正体の方は察しがついていたが。
オレとほぼ同年代、かつオレとほぼ同程度の家柄(これくらい直感でわかる)でここはミラノ大公の館とくれば、皆まで言わずと知れたこと。

「ああ失礼。僕はジノ・ヘルナンデス。よろしくな」

先代大公の孫息子サマは穏やかな笑顔で右手を差し出した。

はっきりいって気にくわない。
その余裕に満ちた笑みも、こちらの心を見透かすような眼差しもなにもかも。
なにより一番癪に障るのは、アオイが自分のものであると言わんばかりの小憎らしいその態度だ。

ジノの背後に隠れて、こっそりこちらを窺っているアオイとふと目が合った。
アオイは現大公の孫娘に相応しからぬしかめっ面でべーっと舌を出し、

「ふーんだ、あんたなんかだーいっキライ!」
「そりゃオレのセリフだっつーの !? このバカサル女 !!」
「サルじゃないもん! なによ、あんたこそバカゴリラのくせに〜 !!」
「ンだとてめぇ !? 泣かすぞゴラァ !?」

ジノが苦笑いして間に入った。

「はいはい。紳士と淑女がサルサル連呼しちゃダメだよ」
「黙れ。オレはてめぇが一番大嫌いだ!」
「なによ、あたしはジノが一番大好きよ!」

アオイの言葉にあらためて確信した。
やっぱりオレはジノの野郎が気にくわない。

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こいつら意外と腐れ縁みたいです。
大中小クマの刈り込み庭木(トピアリー)はアオイが渋るカリメロ親方に無理言って作らせたもの。

アオイのエプロンドレスはモロにこれ。→
ジノとジェンチの服? 英国貴族のご子息が着てるみたいなブレザーにバミューダーあたりなんじゃないかとテキトーにお茶を濁しておきます。

私信。小さい頃の執事はあんな感じです。ていうか今とさほど変わりませんね。

  姫様と落としぶた 2007年11月21日(水) 小ネタSS
あっという間に書きました。あいかわらず脳が腐ってます。

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カリメロの前にエスプレッソを置くと、ゴッツアは思い出したように口を開いた。

「そういやカリメロ。さっきアオイが厨房にやって来てな。ちょうどオレの手が空いてなかったんで、気軽に頼んだワケよ。“そこの鍋に落としぶたしといてくれ”ってな。で、あいつどうしたと思う?」

カリメロの脳裏に危険信号がピコーンと点滅した。
が、努めて冷静を装って適当に相づちを打つ。

「さぁな。また変なことでもやらかしたのかい?」
「鍋の前に立って落としぶたを床に落っことしてくれたんだよ。思いっきりガシャーンとな」

思わずカリメロは口に含んだエスプレッソを吹きそうになった。

「そ、そうか。すまねえな。ウチの見習いが不調法しちまって。アイツ庭仕事しか知らねえんだ。勘弁してやってくれ。ハハハ……」

目を泳がせながら言い繕う。
ゴッツアはそんなカリメロを楽しげに見やった。

「そうそう、面白い話を思い出したぜ。聞きたかねえか?」
「なんでえ。やぶからぼうに」
「そんな嫌そうな顔すんなよ。あれは7〜8年くらい前だったか。当然だがその頃のオレは料理人としては駆け出しでな、ミラノ一のお貴族サマの館の厨房で修行してたんだ」

それを聞いてカリメロは酢を飲んだみたいな顔になった。

「その日は晩餐会だかなにかでな、料理人は朝から息つく暇もねえくらいの大忙しさ。いい加減疲れて頭がボンヤリしてきた時、やけに下の方から声がしたんだ。“ねえねえ。なにかお手伝いしてもいい?”深く考えもせずに“そんなら鍋の落としぶたしといてくれ!”って言ったとたん、ものすごい音が響いたんで、慌ててふり返ったら驚いたね」

ゴッツアはここで言葉を切ってにんまり笑った。

「10歳くらいの女の子が鍋の前に立っててよ、真下の床には落としぶたが転がってたのさ」

“落としぶた、上手にできたでしょ?”
そう言って自慢げに胸を張る少女の姿を思い出して、ゴッツアは苦笑いを浮かべる。

「あの嬢ちゃんもつくづく進歩のないヤツだねえ。お姫様ってみんなああなのかい?」
「……いや、お嬢は特別だと思うぜ」
「あのあといかにも賢そうなお坊ちゃんが顔を出してな。ご丁寧に“アオイが邪魔したね”って頭下げて姫さん連れて行ってくれたんだが。ここだけの話、なんでまた先代大公の公子サマが他国で執事なんかやってんだ? そもそも庭師の姫さんってのも相当なもんだけどよ」
「……んなこたあオレが聞きてぇよ」

カリメロはうんざりしたようにかぶりを振った。

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カリメロは庭師の親方です。腕はイタリア一。元は先代ミラノ大公家で働いてました。
ゴッツアさんはおこめさんちと同様に料理長です。腕の方はミラノ仕込み。

私信。
まあ一応ラストは執事と庭師のハッピーエンド考えてますが、別にマルチEDでもいいんじゃないかと思ってたりもする腐った私。トリノの若様なんか不憫だしー。