幼少期の三人です。
執事少年のはずが気づいたらツンデレ君視点になってました。
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あれはオレが10にも満たない年の頃だったか。
オレは父であるトリノ公爵に連れられてミラノ大公家に来たものの、ヒマを持て余して一人で庭を散策していた。
ふと足を止める。
オレは眉をひそめてつぶやいた。
「……なんだあれは?」
クマのぬいぐるみの形に刈り込まれた庭木を呆れたように見やった。
格式と伝統を誇る大公家の庭園にしては、妙にミスマッチな造形だ。
それが大・中・小とりあわせてあちこちに点在するのだから、違和感もいや増すというもの。
ひときわ大きなクマの足下で、なにやら一生懸命ぴょんぴょん飛び跳ねている小さな後ろ姿に気づく。見たところ自分と同じか一つ二つ年下の少女だが、一体あそこでなにをしてるんだ?
困惑顔で眺めていると、ふいに少女がふり向いた。
水色のエプロンドレスの裾が風にふわりと揺れる。
胸には大きな水色リボン。足にはリボン飾りの付いた黒い革靴。
長い漆黒の髪は左右二つに高い位置で束ね、それぞれ両肩先に垂らしている。
不本意ながら思わず見とれてしまった。
まさに不思議の国のアリスばりの凶悪な可愛らしさである。
少女は軽やかな足取りでオレの方に駆け寄ってきた。
「あたしはアオイよ! あなたはだあれ? どこから来たの?」
姿形に負けず劣らず声も非常に可愛らしい。
少女……アオイはつま先立ちに大きな茶色の目を輝かせてオレを見上げている。
そのあまりの愛らしさに心をわしづかみにされた。
しかし心とは裏腹に、気がついたら得意の憎まれ口を叩いていた。
「――フン。サルに名乗る名前はないな」
内心頭を抱えてため息をつく。なぜ自分は好意を抱いた相手に対してこうも素っ気ない態度を取ってしまうのか。ばつの悪い思いで顔を背けた。
少ししてちらっと横目でアオイを見やって、ぎょっとする。
アオイは大粒の涙をぽろぽろとこぼしながらオレを見つめていた。
「ちょ、お前……あれくらいで泣くんじゃねえよ !?」
「…………………」
「ったく…ああ、オレが悪かったよ、これで文句ねえだろ !?」
「…………………」
あいかわらずアオイは涙目でオレの顔をにらみつけたまま、ウンともスンとも返事しない。ああもう、どうすりゃいいってんだよ?
事態が膠着状態に陥るなか、ゆったりとした声が響いた。
「どうしたんだいアオイ?」
「――ジノぉ〜!」
アオイはふらりと現れた茶色い髪の少年に駆け寄り、涙ながらに訴えた。
「うわーん! 金髪バカゴリラに虐められた〜 !!」
「んだとぉ !? よくも言いやがったなこのサル女 !?」
ついカッとなって言い返してしまう。
やれやれといった風にかぶりを振って、茶髪野郎が口を開いた。
「君はトリノ公家のサルバトーレ君……かな? アオイが迷惑かけたね。すまない」
「………ってそもそもお前誰?」
オレはぶすっとした顔で問いを投げた。
なんとなく正体の方は察しがついていたが。
オレとほぼ同年代、かつオレとほぼ同程度の家柄(これくらい直感でわかる)でここはミラノ大公の館とくれば、皆まで言わずと知れたこと。
「ああ失礼。僕はジノ・ヘルナンデス。よろしくな」
先代大公の孫息子サマは穏やかな笑顔で右手を差し出した。
はっきりいって気にくわない。
その余裕に満ちた笑みも、こちらの心を見透かすような眼差しもなにもかも。
なにより一番癪に障るのは、アオイが自分のものであると言わんばかりの小憎らしいその態度だ。
ジノの背後に隠れて、こっそりこちらを窺っているアオイとふと目が合った。
アオイは現大公の孫娘に相応しからぬしかめっ面でべーっと舌を出し、
「ふーんだ、あんたなんかだーいっキライ!」
「そりゃオレのセリフだっつーの !? このバカサル女 !!」
「サルじゃないもん! なによ、あんたこそバカゴリラのくせに〜 !!」
「ンだとてめぇ !? 泣かすぞゴラァ !?」
ジノが苦笑いして間に入った。
「はいはい。紳士と淑女がサルサル連呼しちゃダメだよ」
「黙れ。オレはてめぇが一番大嫌いだ!」
「なによ、あたしはジノが一番大好きよ!」
アオイの言葉にあらためて確信した。
やっぱりオレはジノの野郎が気にくわない。
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こいつら意外と腐れ縁みたいです。
大中小クマの刈り込み庭木(トピアリー)はアオイが渋るカリメロ親方に無理言って作らせたもの。
アオイのエプロンドレスはモロにこれ。→
■ジノとジェンチの服? 英国貴族のご子息が着てるみたいなブレザーにバミューダーあたりなんじゃないかとテキトーにお茶を濁しておきます。
私信。小さい頃の執事はあんな感じです。ていうか今とさほど変わりませんね。