■ 夢か現か | 2010.10.31 |
寝入りばなに携帯電話が鳴った。こんな時間にどこのどいつだ、ったく。 文句を言いながらサイドボードの上の携帯に手を伸ばす。 通話ボタンを押すなりコザルの罵声が飛んできた。 「聞いたよジェンティーレ! 今度という今度はもー見損なったよ!」 金切り声でまくしたてられても、なんのことやらサッパリわからない。 「は? なにいってんだお前」 「お前が年中ノンストップで発情男だとか、ユーベのアウェイユニがキチガイじみたピンク色ってとこまではギリギリ許せなくもなかったけど! さすがのオレもこればっかりは耐えられないよっ!」 「誰が発情男だ誰が! それにあのユニの色はオレ個人にゃどうしようもねえだろ!」 そう言いはしたが、実はあのアウェイユニ結構気に入ってたんでちょっと傷ついた。 それはともかく、 「つーかさっきからお前、なに怒ってんだ?」 「すっとぼけんのも大概にしなよ。あんなみっともないことしといてさ!」 「いやだからオレがなにしたって――」 オレの言葉を遮ってシンゴが叫んだ。 「あーもう信じらんない。真っ昼間から酔っぱらって素っ裸にネクタイだけしめて、トリノの大通りを走り回ったんだろ!」 「なっ、なに言ってんだてめー!? ンなことするワケねえだろ―― !?」 「今さら言い訳したってしょうがないよ。事実は事実なんだしさ……」 なんだその哀れむような口調は。 「だーかーらー、やってねえって言ってんだろこのアホザルは――!?」 いい加減腹が立って受話器ごしに怒鳴りつけた。 だがシンゴはこちらの言い分などろくすっぽ聞いちゃいない。 「マッティオもすっごい動揺してたけど、無理ないよね。なんたって裸ネクタイだもん」 「ちょっと待て。もしかしてお前にこの大嘘吹き込んだのは赤毛野郎なのか?」 「うん。マッティオも他の誰かから聞いたんだって」 あのヤロー余計な差し出口しやがって〜。 そもそも最初にでっち上げばらまいたのは、どこのどいつだ。 容疑者を頭の中で検討していたら、シンゴがとんでもないことを言い出した。 「オレも心配でどうしようかと思ってさ。みんなに相談してみたんだ」 「なっ、デマをさらに拡散すんじゃねえっ!」 「えーとねジノが言うには『ふーん、それはひどい。きっと頭の病気だね。トリノ周辺によくみられる風土病の一種さ。しばらく近寄っちゃダメだよシンゴ。変態がうつったら大変だ』だって」 ンだとてめー偽善者ヅラしてケンカ売ってんのか、この腹黒ゴールキーパー !? 「クライフォートはねえ『何を今さら。破廉恥な桃色ユニなんぞ嬉しげに着ている奴がまともであるはずがないだろ。変態とつきあっていてもろくなことがないぞ』って言ってた」 あやまれ! オレとパレルモの連中にあやまれオレンジ野郎! 「日向さんは『なにィ! 裸ネクタイだと!? ってオレも毎日裸に鎖巻いて練習してるぜ。だからあいつもなんかの特訓してんだろ。ネクタイに鉛板仕込んでるとかさ』って言うんだけどそれホント? ならちょっと見直してやっていいかもー」 ああ、わかってる……ヒューガはいい奴だ。 だがな、ちっともそれフォローになってねえよ……! 怒りにまかせて手にした携帯電話を握りつぶしそうになり、あわてて深呼吸する。 よし落ち着け自分。ここは冷静になってシンゴの誤解を解くのが先決だ。 「おいシンゴ、あのな……」 「じゃ、オレ当分そっち行けないから」 「は? 急になに言い出しやがんだお前」 ジェンティーレが声を荒らげて訊ねる。 「だってビョーキが治るまで近づいちゃダメって言うんだもん。ジノが」 「オレは病気でもなんでもねえよ! ってお前はオレとジノのどっち信じるんだ?」 「ジノに決まってんじゃん。それにクライフォートとマッティオも同じこと言ってたし〜」 シンゴはあっけらかんと答えた。無邪気な残酷さで。 「そんじゃまたね〜お大事に〜!」 「おいコラてめー言いたいこと言ってガチャ切りすんな! 少しはオレの話を聞け――!」 絶叫したとたん、はっと目が覚めた。 「なんだ、夢か――」 ほっとして大きく息を吐く。 ジェンティーレはゆっくりベッドから身を起こし、サイドテーブルの携帯を手に取った。 携帯の画面をぼんやり見つめながら、さっきの夢を思い返して大きなため息をつく。 「ったく、サイコーに最低な悪夢だったぜ」 吐き捨てるようにつぶやいたとたん、手にした携帯から着信音が流れ出した。 不意打ちまがいの衝撃に心臓が大きく跳ね上がる。 「お、驚かせんなよな、ったく……」 舌打ちしながら液晶に目をやる。ジェンティーレの表情が凍り付いた。 ディスプレイに表示された文字は“アオイシンゴ”。コザルからの電話だった。 そんなバカな。あれは夢だ。でもひょっとして。いやそんなのありっこない。 着信音をバックミュージックに、頭の中でとりとめのない思考がぐるぐると駆けめぐる。 気がつくと無意識に通話ボタンを押していた。 聞き覚えのあるにぎやかな声が室内に響き渡る。 「もーさっさと出てよね! ってオレちょっとお前に聞きたいことあるんだけど――!」 これは悪夢の続きか。それとも悪夢の始まりなのか。 さっきの夢が予知夢であれば、オレはこの先の展開を変えることができるのだろうか。 夢とも現実ともつかぬ状況にジェンティーレはめまいがしてきた。 >あとがき どーせジェンチだし運命改変なんかムリだろう。うん。 ピンクでもいいじゃない、ユーベだもの。 さてデマを流した犯人はヤス、ではなく誰でしょう。 本命ジノ様・対抗オレンジ・大穴マッティオの三択でどーぞ。 ← 戻る |