■ 太陽王女 | 2007.10.10 |
「そーだ。前から訊きたいと思ってたんだけどさー」 立て付けの悪いテーブルの端を適当に押さえながら、コンティがふと口を開いた。 「マッティオの好みの女の子ってどんなタイプ?」 「はぁ? やぶからぼうになに言ってんだお前」 マッティオはテーブルの上から呆れたようにコンティを見下ろした。 今にも落ちてきそうな天井の蛍光灯の留め具を片方の手で固定した状態で。 先日新伍が破壊した蛍光灯をコンティと二人がかりで修理中なのだが、さりげにサボるコンティのせいで実質マッティオ一人が作業しているも同然だった。 マッティオはぶすっとした表情でコンティをにらんだ。 「ムダ口叩いてるヒマあったら少しは手伝え」 「まあまあ。テキトーでいいからさ。で、美人と可愛い系どっちが好き?」 「そだな。どっちかっつーと可愛い系かな」 ていうかゴージャス美女・美少女系は実家の魔女どもだけでたくさんだ。 傍若無人に横暴な姉と妹たちを思い出して、うんざりしたようにため息をつく。 姉3人妹3人の真ん中に挟まれた唯一の男きょうだいの立場なんてシンデレラそのもので、太平洋に浮遊するミジンコ並みに軽かった。 げんなりとしたマッティオなどてんで気にする様子もなく、コンティは次の質問を投げた。 「じゃ髪の色は?」 「黒」 「瞳の色は?」 「ダークブラウンか黒」 「身長は?」 「低め」 マッティオはいささか投げやりな気分で答えていく。 さほど悩まず答えがすらすら口をついて出るのは不思議でもなんでもない。実家の姉妹たちが揃ってすらりと背の高い赤みがかった金髪碧眼なので、交際相手まで似たようなタイプはまっぴら御免だ。できれば正反対の容姿がいい。マッティオの偽りない心情だった。 コンティはちょっと考えてから、 「ふーん。可愛い系で黒髪で黒い瞳で背が低い子かあ。ってシンゴが女だったらストライクゾーンど真ん中じゃね?」 いかにもナイスアイデアを閃いたようにポンと手を打った。 マッティオは思いきりバランスを崩してテーブルから転がり落ちた。 「うんうん。だったら太陽王女だな。そう考えると結構カワイイかもしんない」 「コンティ―― !? お前正気か―― !?」 すぐそばの椅子にすがってよろよろと体を起こしながらマッティオが叫んだ。 コンティはマッティオの剣幕に驚いてきょとんとすると、 「へ? だってカワイイじゃん。明るくて料理上手な女の子ってワケだろ。見てるだけなら実害無いし。どーせ厄介ごとはぜんぶマッティオに行くもんな」 「ちょっと待てやコラ。ヒトを勝手にシンゴ被害対策委員に任命すんな」 「今だって十分そうじゃん。違うの?」 コンティは悪意のない表情でマッティオの顔をのぞき込んだ。 ぐっと言葉に詰まる。 くやしいがあんまり的を射たツッコミなので言い返せなかった。 それ以上にショックだったのは、自分の好みのタイプがまんま新伍だったことである。 しかもそれをコンティに指摘されるまで全く気づかなかった己のアホさ加減に愕然とする。 あまりの衝撃に自我が崩壊しそうだ。 そんなバカな。よりにもよってなんでまた新伍なんだ。なにかの間違いに決まってる。 とりあえず落ち着け自分。円周率でも唱えるんだ。たしか3.1415……までしか思い出せない。続きは富士山麓オウム鳴くだったか……? 無意識に問題から目を背けて現実逃避に走っていると、ふいに耳元でにぎやかな声がした。 「チャーオ! たっだいま〜! 蛍光灯買ってきたぞー!」 新伍に背後からぴょこんと飛びつかれて心臓が止まりそうになる。 「シンゴ !? ばばばバカ野郎こっち来んなひっつくな離れろ―――!」 「? どしたのマッティオ。顔赤いぞ」 「な、なんでもねーよ! だからさっさと放せ!」 コンティがニヤニヤしながら会話に割って入った。 「よぉ、お帰り。太陽王女さん」 「へ? なにそれ?」 「あはは。実はさーマッティオの好みのタイプって……」 「そ、それ以上一言も喋んじゃねえ!? お前はあっちで蛍光灯取り替えてろ!」 そう叫ぶやマッティオは、新伍からひったくった蛍光灯でコンティの頭をスパーンとはたいた。ぱったり床に倒れたコンティを見下ろしてホッと一息ついたその矢先、 「俺も聞きたいな。なんだいその太陽王女って?」 ふり向いて確認するまでもない。 一見優しげだが、まごうことなき尋問口調の声の主はジノ・ヘルナンデス。 マッティオの脳裏にチェックメイトの声が高らかにこだました。 ジャッポーネ風に言えば王手。まさしく投了。万事休す。絶体絶命。 マッティオは渋々ふり返った。 「そっ、それはだな、ジノ! たんなるお前の空耳だ!」 無駄とは知りつつ一応の努力はしてみる。 そんなマッティオの決死の努力もむなしく、新伍が無邪気な顔でのたまった。 「えー? おれも太陽王女って聞こえたよ?」 「だーッ、余計なこと言うなこのバカシンゴ!」 「なんだよー! おれのどこがバカだってんだ !?」 「お前の存在すべてがバカに決まってんだろこのバカ!」 ついにぶち切れて肩越しにふり向き、背中に張り付いたままの新伍を怒鳴りつける。 なんでこんなバカコザルがオレの好みのタイプなんだろう。 マッティオは絶望感とトホホな気持ちを足して二で割ったような心境でかぶりを振った。 >あとがき にわかにマッティオ×新伍に萌えてこしらえた短文。 うちのマッティオの好みのタイプは太陽王女だそーです。気の毒に。 時系列? はアズーリの20番世界です。 おこめさんに捧げます。 新伍が太陽王女だったら絶対ツインテールのカワイ子ちゃんだと妄想してるアホな私。 ピッチに立ってるだけでインテルの士気が一気にUP。それがイタリア人というもの。 姉ちゃんの髪型があれですし、その妹ならきっとやってくれるハズ……! ← 戻る |