■ 人魚姫 | 2007.06.02 |
アムステルダム中心部。クライフォートは公共図書館に向かって歩いていた。 にぎやかなライツェ広場を横断し、プリンセン運河にさしかかったちょうどその時、妙な視線を感じて足を止めた。 たとえ背後からだろうと、自らの半径5メートル以内に立ち入る者があれば気配でわかる。 ぶしつけなまでに純粋な好奇心に満ちた視線。 一体何者だ? 物取りの類にしてはずいぶん警戒心に欠けた所作だが。 クライフォートは訝しげに眉をひそめた。 まあいい。とりあえず警戒するに越したことはない。 そう考えてゆっくりとふり返った。 立っていたのは黒髪黒目の小柄な少年だった。年の頃は15〜6。 東洋系の顔立ちだが雰囲気からしておそらく日本人だろう。 さしずめ仲間とはぐれたツアー客といったところか。 ――いや、この顔はどこかで見た覚えが。 奇妙なデジャ・ヴが脳裏をかすめた。腕組みして考え込む。 少年はクライフォートの顔をじっと見つめると、ぱっと明るい顔になって嬉しそうに飛びついてきた。 「ジェンティーレ!」 「………は?」 さすがのクライフォートも唖然として立ちつくすしかなかった。 「……という訳だ。後は任せた」 クライフォートは今までの経緯をざっと説明するとクリスマンの肩にポンと手を置き、いつものように淡々とした命令口調で言った。 「ちょっと待てやゴラァ!? 迷子はさっさと交番に連れて行け!」 クリスマンの叫びなんか端から無視して、クライフォートは食堂のテーブルの椅子を引いて腰を下ろした。持っていた茶封筒から大量のコピー用紙を引っ張り出し、黙々と読み始める。 クリスマンは横目で紙面をのぞき込んだ。 常人にはとうてい解読不可能な筆記体で綴られた中世ラテン語が所狭しと並んでいる。余暇の古文書読解はクライフォートの趣味なので驚くにはあたらない。問題は別の箇所にある。 つまりこういうことだ。 図書館で中世古写本をコピーするのに忙しくて迷子の方は放置した。 帰りも警察署に寄るのが面倒でそのままアヤックス寮に連れ帰り、クリスマンに押しつけた。 クライフォートの人となりをイヤになるほど熟知しているクリスマンは目眩がしてきた。 放置されっぱなしの迷子君は自らの置かれた状況にぜんぜん気づいていないようで、好奇心旺盛に食堂内をあちらこちら眺めている。 そのまま放っておくのも忍びない。クリスマンは少年に右手を差し出した。 「えーと、ごめん。うちの無責任キャプテンが迷惑かけたみたいで」 「Buon giorno! Io sono Shingo Aoi. Vengo da Milano. Come si chiama?」 迷子の少年に流暢なイタリア語でまくしたてられ、クリスマンは凍りついた。 「イ、イタリア語!? お前、日本人じゃなかったのか―――!?」 「ああ。言い忘れていたが、そいつはミラノ在住の日本人だ」 クライフォートが古文書の複写に視線を落としたまま口を挟んだ。 これでも語学が達者なオランダ人のはしくれ。クリスマンは英語は母国語同様に、独仏語も日常会話程度なら問題なく操れるが、イタリア語となると全くの守備範囲外だった。 となればこの場で披露できるフレーズはこれしかない。 クリスマンは決死の覚悟で少年に向き直った。 「ア…アイ キャン ノット スピーク イタリアン アンド ジャパニーズ!」 「落ち着けクリスマン! 思いっきりジャパニーズイングリッシュ発音になってるぞ!?」 レンセンブリンクの指摘にはっと正気を取り戻す。 そうだ。ジャパニーズならウチにも規格外のばかでかいのが一匹いるじゃないか! クリスマンは藁にも縋る思いでレンセンブリンクをふり返った。 「カノーはどこだ!? 日本語通訳してくれ!」 「カノーならコーヒー豆の買い出し当番で外出中だぜ」 「なにィ!? あのヤロー、いつも肝心な時にいやがらねえっ!?」 ついカッとなって、らしくもなく地団駄踏んで絶叫してしまった。 カノーがいないとなるとこの面子で日本語が喋れるのはクライフォートのみ。 だがしかし、奴が通訳なんぞしてくれるはずがない。それはもう、確実に。 クリスマンはトホホな気分でかぶりを振った。 ふいに誰かにそっと右手を握られた。反射的に顔を上げる。 大きな黒い瞳と目が合った。 「――へ?」 不意を突かれてどぎまぎした表情のクリスマンの手のひらに、少年はアルファベットを綴り始める。始めにA、次にO、最後がI。そしてクリスマンの顔をじっと見つめた。 「………アオイ? アオイっていうのかお前の名前?」 クリスマンの言葉に少年はぱっと顔をほころばせ、何度も大きくうなずいた。 少しはにかんだ表情で嬉しそうにクリスマンを見上げる。上目遣いの視線は純粋に背の高さの違いによるものであり、決して意図的なものではないのだろうが、それでも胸の奥がきゅんとした。 落ち着け自分。目の前にいるのはいくら小さくて可愛らしくても男なんだ。 必死になって自分に言い聞かせる。 クリスマンを現実に立ち戻らせたのは外野の下世話なざわめきだった。 「うっひゃ〜、すっげーな。これって俗に言う萌えシーンってヤツ?」 「ああ。本人達は楽しそうだが、見てる方は激しく小っ恥ずかしい展開だな」 カイザーのささやきにレンセンブリンクが肩をすくめて応える。 クリスマンは顔を茹でダコのように真っ赤にしてわめいた。 「ななな、なに言ってんだお前ら〜〜〜!?」 「お前こそそいつの手、しっかり握りしめたまんまでなに言いやがる」 カイザーに指摘されて、クリスマンは弾かれたようにアオイの手を放した。 「うぉわっ!? こここ、これは不可抗力であって他意なんかこれっぽっちもないんだぞ!」 すっかりテンパってるクリスマンを横目に、レンセンブリンクがアオイの前に進み出る。 「ま、それについての真偽はともかく。お前さあ、どっかで会わなかった?」 「お前もなにいきなりナンパしてんだ?」 ちょうど台所から現れたレオン・ディックが呆れたように言って、コーヒートレーでレンセンブリンクの後頭部をはたいた。 「いやマジこいつの顔、見覚えがあるんだってば」 「ん……? 言われてみりゃそんな気がしてきた。どういうこった?」 カイザーもアオイの顔をのぞき込み、首をひねった。 ディックはそんな二人を呆れ顔で見やってから、アオイにコーヒーを差し出した。 アオイはきょとんとした顔でディックを見上げた。無言のままにこっと笑って受け取る。 それを見てクリスマンははっとした。 アオイは冒頭の挨拶から一言も発していない。 たぶんこれ以上イタリア語で喋ってもクリスマン達が混乱するだけだと判断したのだろう。小さいのにずいぶん気配りのきいた少年だ。 アオイはコーヒーカップを持って食堂のテーブルにチョコマカ歩み寄り、クライフォートのすぐ横の席に腰を下ろした。 クライフォートは周囲の騒ぎなど全くお構いなしに古文書を読みふけっている。 もちろん隣のアオイにも一顧だにしない。 アオイは頬杖をついてそんなクライフォートの様子を楽しそうに眺めている。 まるで見ているだけで幸せという風に。 レンセンブリンクが首を傾げた。 「なんだあいつ。ミョーにクライフォートに懐いてねえ?」 「そだな。不公平感バリバリだよなー。あんなんのドコがいいんだか」 カイザーもふてくされた顔で深々とうなずく。 「ひたすら黙ってシアワセそーに王子様を眺めてるってか? 人魚姫かよ。ったく」 「ハハハ。そりゃ言い得て妙だな。キャストに隣国の王女様が足りねえけどな」 そう言ってクリスマンは苦笑いする。 クライフォートが古文書から顔を上げた。 「王女? 違うな。正しくは隣国の王子だ」 「は? クライフォート、唐突になに言ってんのお前?」 「人魚の性染色体はXXのみ、つまり雌しか存在しない。一妻多夫なユルい社会だ。ゆえに繁殖期になるとこぞって陸に上がり、不特定多数の人間の男を物色する。まあ、より強く優秀な遺伝子を求めるのは生物学的に種の保存の観点において当然のことだがな」 「あ、あのさ……その講義、長くなりそう?」 クライフォートはクリスマンを冷ややかに見据えた。 「こういう性状の人魚が、王子と隣国の王女の婚姻に絶望して身投げなんかすると思うか?」 いきなり訊かれてクリスマンがうっと詰まる。クライフォートはさらに続けて、 「そもそも身投げといってもだ。人魚が海に飛び込んで死ぬのか?」 クリスマンはぽかんとした表情でクライフォートの顔をまじまじと見やる。 これには完全に意表を突かれた。言われてみればその通りじゃないか。 海はまさに人魚のホームグラウンド。 本気で死のうとしたのなら、首を吊るなり塔から飛びおりるなり、真っ当な(?)手段がいくらでもあっただろうに。 「え…っと、それじゃなんで人魚姫は海に飛び込んだんだ?」 「考えるまでもない。ちゃぶ台返しの敵前逃亡だ。端的に言うなら王子と隣国の王子の間の板挟みによる痴情のもつれが原因といったところか。大方、オレとこいつのどっちを選ぶんだ、などと二人に詰め寄られたんだろう。キリスト教伝播以前の伝承ではだいたいそういう筋書きになっている。――以上だ」 クライフォートは学会での論文発表のように淡々と締め括った。 「人間の独占欲は果てしないからな。まあ二人仲良く共有しろというのも酷な話だが」 「なんか身も蓋もない顛末だなあ……」 「現実なんて得てしてそんなものだ。異文化間コミュニケーションの困難さに関するひとつの事例ともいえるな」 クライフォートがそう言い終えるなり玄関ホールで爆発音が轟いた。「な、何事!?」と動転したクリスマンがふり返った途端、今度は食堂のドアが派手に蹴破られた。 一同(ただしクライフォート除く)が驚愕の表情で立ちつくすなか、ドアの残骸を蹴散らしてぬっと姿を現したのはアヤックスユース唯一の日本人選手、叶恭介だった。 「おう、今帰ったぜ! てかお前ら狭い食堂で顔付き合わせてなにやってんだ?」 「カノー!? ドアはちゃんと手で開けろって何度言ったら……!」 「悪ィ悪ィ。けどよ、両手がふさがってんだから仕方ねえだろ」 恭介は悪いと言いつつちっとも悪びれることなく胸を反らした。 両手に大きな紙袋、両脇にごつい麻袋を抱え、さらに背中にはエベレスト登頂装備並みのばかでかいリュックサックを背負っている。それらの袋にぎっしり詰まっているのは言わずと知れたコーヒー豆。総重量は推して知るべし。 しかし。だからといって玄関及び食堂のドアを蹴破って良いものだろうか。 否、良いはずがない。 クリスマンは自らの問いに反語調で返してため息をついた。 クライフォートが恭介にちらっと視線を走らせる。 「恭介。なんだそのバーゲン帰りのオバサンみたいな愉快ないでたちは」 「んだとぉ!? てめーが当番サボるからオレ一人で大荷物背負うはめになったんじゃねえか! ……ってなんだこのちまっとしたガキは?」 じっと自分を見つめる視線に気づいたのか、恭介がアオイを指さして訝しげにたずねた。 「カノー。その子はクライフォートが街で無責任に拾ってきた……あ、いや保護した迷子の観光客なんだ。名前はアオイ……」 「おっと、危うくド忘れするトコだったぜ! 客だ客!」 クリスマンの言葉をさえぎって、恭介が突然なにかを思いだしたようにポンと手を打った。 「街でばったり出くわしちまってさ。なんかウチ(ユース寮)に用があるんだと」 恭介の言葉に続いてゆったりとした英語が響いた。 「やあ。ノックしようにもドアが無いし、失礼は承知で勝手に上がらせてもらったよ」 茶色の髪に緑の瞳をした、物腰の柔らかい青年が蹴破られたドアをまたいで入ってくる。 それを見るなりアオイはぱっと席を立ち、彼の下に駆け寄った。 どこまでも澄み渡った南国の青い空に輝く太陽のような笑顔で。 『――ジノ!』 『よかった。やっぱりここにいたんだね、シンゴ。ホント心配したよ』 茶髪の青年は心底嬉しそうな表情でアオイを抱きしめる。 まさに親友同士の心温まる再会シーンである。 ちなみに彼らの会話はイタリア語で交わされているので、クリスマン達にはなにを言っているのやらさっぱりわからない。 だがしかし。クリスマンは嫌な胸騒ぎを感じた。 見れば見るほど奇妙な違和感が増していく。 これって本当に友情なのか? アオイはともかく茶髪のほう。こいつまさか!? むやみに追求したら精神衛生上よろしくない事実に辿り着いてしまいそうで怖い。 クリスマンはこの件に関しては敢えて触れないでおこうと固く決心した。 レンセンブリンクがふと思いだしたように声を上げた。 「ちょっと待て。もしかしてインテルユースのキーパー!?」 「ゲッ、こいつマジでヘルナンデスじゃねーか!」 クリスマンは驚きのあまり息を呑んだ。 パーフェクトキーパーの誉れ高きヘルナンデスがよもやそういう性癖の持ち主だったなんて。 ………ではなくて。 昨日アイントホーフェンで行われたインテルユースとPSVユースの親善試合の中継を思い出す。フィールドを縦横無尽に駆けめぐり、PSVのDF陣を次々と抜き去って鮮やかにハットトリックを決めるアオイの姿がクリスマンの脳裏に蘇った。 インテルの太陽王子シンゴ・アオイ。 「お前……インテルユースの20番?」 ついオランダ語でアオイにたずねてしまった。 アオイはなんと言われたかわからない様子でちょこんと首を傾げる。子犬みたいで異様に可愛らしい。切なさ乱れ撃ちというかなんというか、見ているだけで胸が熱くなってくる。 あの超攻撃的MFと目の前の可憐なイキモノが同一人物だなんてにわかに信じがたい。が、事実なのだ。事実は小説よりも奇なりとは言い得て妙である。 クライフォートが腕時計に目を走らせた。 「――23分か。案外早かったな」 そのつぶやきを耳にしたヘルナンデスが穏やかに微笑む。 「クライフォート。言いたいことはそれだけかい?」 「ああ。もう少し制限時間を短くすれば良かった」 「フフフ、いい度胸じゃないか」 ヘルナンデスは真っ向からクライフォートを見据えた。 全体的に人当たりの良い笑みを浮かべてはいるが、瞳の奥に静かな怒りをたたえている。 明らかに尋常でない雰囲気に気圧されつつ、クリスマンはおそるおそる口を挟んだ。 「えーっとあの……制限時間って何?」 言うが早いかクライフォートとヘルナンデス両者に鋭い視線で射すくめられる。 クリスマンはカタツムリの如く首を引っ込めて叫んだ。 「ごごごゴメン! もう決して訊かないから許してオネガイ!」 「やだなあ。なにをそう怯えてるんだい?」 ヘルナンデスが胡散臭い笑みを浮かべてクリスマンを見た。 だからその視線が怖いんだって。 しかしクリスマンにはそう伝える勇気など無かった。 そんなクリスマンをフンと鼻先で笑い、ヘルナンデスが口を開いた。 「君たちの理不尽なキャプテンが一方的にケンカを売ってきただけさ。ぶしつけに電話してきて開口一番、“ 20番は預かった。30分以内に引き取りに来ないと所有権を永久に放棄したとみなす ”だって? それも肝心のユース寮の所在地も明かさずにだ。全くふざけた話だと思わないか?」 なんだその誘拐まがいの脅迫電話は? クリスマンは呆れたようにクライフォートを見た。 「別に。うちの右サイドハーフを任せようと思っただけだが」 非難がましい視線などものともせず、クライフォートはしれっと言ってのける。 ヘルナンデスはしばらく無言でクライフォートをにらみつけていたが、くるりと背を向けてアオイの肩に手を置いた。 「それじゃあ俺たちはこの辺で失礼するよ。――帰るよシンゴ」 「Si. Arrivederci! A presto!」 アオイは一同をざっと見回してニコっと笑い、右手を挙げて陽気に振った。 あいかわらずなんのコトやらサッパリだが、状況と身振りからしてたぶん「さようなら」とか「またね」といった類の意味なんだろう。 クリスマンはふと思いだした。 アオイが見間違えるほどクライフォートに似ているとかいうヤツ。 「なあ。ちょっと訊いていいか。ジェンティーレって誰?」 玄関に歩き出していたヘルナンデスの足がぴたっと止まった。背を向けたまま、 「ああ、ウチの隣の州に生息してるツンデレリベロがどうかしたのかい?」 ゾッとするような冷たい声が響いた。 室内温度が一気に氷点下まで下がった気がする。 クリスマンは内心ヒィッと悲鳴を上げながら必死に首を振った。 「ななな、なんでもありませんです、ハイ!」 「そう。ならいいんだけどさ」 それ以外の答えは許さないよといわんばかりの口調で言い捨てると、ヘルナンデスはアオイを連れてさっさと出て行ってしまった。 残された一同の間になんともいえない気まずい沈黙が漂う。 ややあってレンセンブリンクがポツリとつぶやいた。 「どうやらユーベのジェンティーレが隣国の王子様らしいな」 「インテル王国とユベントス王国のお姫様争奪戦ってか。さすが南国。リアルに陰惨だぜ」 カイザーが呆れ半分、感心半分といった風にかぶりを振る。 と、その時恭介が台所からコーヒーメーカーを小脇に抱えて現れた。空いた方の手にはワッフルが盛られた皿を持っている。周囲を見回して眉をひそめた。 「なんだぁ、この辛気くさい空気は? ……って、客は?」 口元にワッフルのかけらをくっつけたまま首を傾げる。 いつのまにか姿が見えなくなったと思っていたら、こっそり台所でつまみ食いしていたらしい。 恭介はテーブルにコーヒーメーカーをぽいっと放り投げて、椅子を引いた。クライフォートの前に積み上がった古文書の複写に目を走らせ、うんざりした顔で、 「おいおいブライアン。また大昔の小難しいモン読んでんのかよ」 「いや、古いおとぎ話さ。二人の無粋な王子をあっさり捨てて逃げ出した人魚姫のな」 「ふーん、人魚姫ってそんな話だったのか。ぜんぜん知らなかったぜ」 素直に感心したようにつぶやく恭介を横目に、クリスマンは口ごもりつつたずねた。 「あの……クライフォート。海に逃げた人魚姫のその後ってどうなんだ?」 「心配ない。逃亡先の北国であまり物事にこだわらない三番目の王子と出会って、それなりに幸せに暮らしたそうだ」 「………ホントに、ホントーにそう書いてあるのか?」 「該当する箇所に付箋をつけておいた。疑うなら自分の目で確かめてみるんだな」 そういって古文書の一部をクリスマンの目の前に放り出した。 しぶしぶ目を通してみる。なんだこの複雑怪奇な筆記体は。一応アルファベットのはずだが最初の文字がなんであるかすら判読できない。はっきりいって文章を解読する以前の問題だ。 「こんなモン読めるか〜〜〜!? せめて現代語訳つけてくれ!!」 >あとがき 相互記念として櫻井綾女さんにさし上げた小説。 時系列的にはワールドユース前です。 でないといろんな箇所でつじつまが合わない。 作中の人魚姫論考はテキトーにでっち上げました。 男性版のシンデレラや眠り姫の伝承が存在するんだし、男の人魚姫や隣国の王子が登場したっていいんでないかと。いや、良くない? 喋れない人魚姫は可憐です。 喋らない葵新伍も可憐です。が、喋りだした途端に騒がしい小猿に戻ると思います。 ……人魚姫も喋りだしたら本性現すんでしょーか。沈黙は金です。 ← 戻る |