頂き物その8  『temperature』 2007.10.22

カチリ。
時計の短針は9の位置で止まった。


ダイニングキッチンに隣接する寝室の扉を開くと、部屋の主はまだ気持ちよく寝息を立てていた。
ベッドに近づいていくと、きしりきしりと床が鳴く。


ぎし、手をついたその重みでスプリングが低く抗議した。(なにせ狭いシングルベッドには、すでにでかくて重たい男が横たわっているのだ。)


そんな事まるでお構い無しで、葵新伍はそのまま頬杖をつく。そして目の前で安らかな眠りについているサルバトーレ・ジェンティーレの寝顔を無言でみつめた。


少し癖のある金色の髪はさらりと指を流れ、閉じられた瞳を鮮やかに飾る長い睫は、まるでアンティーク人形が持つ可憐な瞳のそれを思わせる。
そしてそれらを際立たせるような真っ白い肌は、触れ合えば滑らかに感触して。

夕べの、互いの肌を合わせたあの幸せな時間を少し思い出して、新伍は顔を綻ばせた。


愛しいって、きっとこんな気分。



そんな事をぼんやり考えていたちょうどその時、ジェンティーレがゆっくりと瞼を開いた。

「おはよ」
「………」
新伍が声をかけると、ぼおっと寝惚け眼のジェンティーレと視線が合う。
「よく眠れた?ごはんできてるよ」
「………」
まだ覚醒しきれない意識の中に、新伍の柔らかい微笑みが段々と入り込んでいく。
やがて、それが我が最愛のコザルなのだと認識できた時、ジェンティーレは微かに目元を緩めた。

「………シンゴ」
「ん、なに?」
ジェンティーレはただ、隣に来いと手招きするだけ。仕方なく新伍はベッドに登り、うつ伏せたままのジェンティーレの横に長座した。

するとシーツの中からジェンティーレの大きな腕がずいと伸びてきて、新伍の小さな体をそのままぐいと引き寄せる。
そして広い胸の中へすっぽりと納められてしまった。


「ちょっとお、ジェンティーレ?」
「もうひと寝入り」
まるで抱き枕のように新伍を抱き締めたまま、ジェンティーレはまた瞼を閉じた。

がっちりとホールド状態の新伍は身動きできず、もう…と、唯一自由のきく唇を尖らせる。
「せっかくジェンティーレの好きなトマトソースのリゾット作ったのにぃ」

一瞬、ぴくりと反応したジェンティーレだったが、だがしかし、腕の力を緩める事はなく。

「早く食べないと冷めちゃうぞ〜?」
「…………」
誘うように新伍が言うと、ようやくジェンティーレの腕の力が緩んだ。緩んだかと思えば、ぐっと顔を寄せて、少し意地悪そうに、笑った。

「リゾットの前に、お前食っていい?」


眼前の蒼はじっと新伍をみつめて。
その透き通るような煌きに新伍はほんの一瞬心を奪われかけたが、すぐはっと我に返る。
「なっ…何言ってんだよばかっ!!」
真っ赤になって叫ぶと、ジェンティーレは満足そうに口の端をあげた。
「なにムキになってんだ?冗談に決ってんだろ」

やっぱりガキだな、言いながら新伍の頬をぺしぺしと叩く。
叩かれた新伍はぐ〜っと悔しげに歯をくいしばり、反撃した。
「なんだよっ!自分だってすぐムキになるくせにー!!」
「なにぃ〜〜〜!?」

それから数秒程、お互い無言で相手をにらんでいたが、やがてどちらからともなく、ふっと声を洩らして、笑いあう。


ジェンティーレの笑顔は本当に優しくて、それをまじまじとみつめた新伍はふと思い出した。

この男と初めて会った、あのユース時代のピッチの上。
自分を地に這わし、サッカーについて偉そうに講釈たれてくれたこの男が、ただ憎たらしかった。悔しかった。


―――あの頃が遠い昔のようだ――――



だって今の彼は、こんなにも暖かい、優しい温もりをくれるんだもの。



(やっぱりリゾットは後で温めなおそう。)
大好きな胸に顔を埋めて、新伍は心の中でそう呟いた。





おこめさんから頂いたジェンティーレ×新伍小説。
まさに新婚バカップルな感じが身悶えするほど萌えにきます。
もういついつまでもイチャついてて下さい。

素直で余裕のある紳士の破壊力はものすごいですね!
いつもはヘタレかつツンデレなぶんより一層ステキ度が増すとゆーかなんというか。
コザルもいつもより多めに可憐です。うっとり。

おこめさん。ありがとうございました〜。

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