■ 頂き物その3 『風邪をひいた時は』 | 2007.06.20 |
ピピピピピ 「37度8分。これは正真正銘の風邪だね、シンゴ」 ベッドでう〜〜、と小さな声で唸っている新伍から体温計を受け取ったジノが冷静な口調でそう告げる。ことの始まりは練習中にいつもなら元気に動き回っている新伍の動きにどこか違和感を感じ、もしかしたら…と察したカリメロが新伍の額に自分の手を当てると熱っぽい、とのことで練習を休ませた。本人は抵抗していたのであるが、そこはインテルの表の支配者と影で呼ばれているジノが黙らせて半強制的にいっしょに早退して新伍のアパートに戻って当人を寝かせた後はジェンティーレにすぐに来い、とほぼ脅しに近い電話を入れてから買出しに出かけてきて現在に至っていた。 「薬飲むのに何か食べておかないといけないけど……何食べたい?」 「食欲ない…」 「ダメだよ、早くサッカーしたいなら栄養付けないと。…それじゃあ、適当に作ってくるからキッチン借りるからね」 そう言ってジノは1人キッチンへと向かい、1人残された新伍はぐしゅっ…っと鼻を啜ってから布団を口元にまであげてきゅっと目を瞑って、 (最悪だ……、こんな時に風邪なんて) 1日でも早くプロになるために練習したいのに身体は思うように動かないし皆心配しすぎだし…と色んなことがぐるぐると頭の中で回り出してしまい、こういう時は寝るのが1番いいというのを思い出したのでもう何も考えずに眠りの時間に入る。鼻のむずむずが気になってしまっていたが新伍が深い眠りにつくのにそう時間はかからなかった…―――――。 数時間後――― ジノが様子を見に行った時には既に新伍は眠っていて、起こすのもかわいそうだと思って自分はリビングで新伍のために買ってきたハーブティーを淹れて雑誌を読んでいるとドンドンとドアを叩く音がし、その相手が誰なのか何となくわかったジノはハァ…とため息を吐いてからドアに向かいガチャっと開けると、 「やっぱり君か……」 「人を呼び出しておいてその態度はないだろ;」 「今新伍寝てるから静かにしてよね。ま、せっかく来たんだから上がって」 そう言って隣町からわざわざここまで飛んできてくれたジェンティーレにジノがしれっとそう告げると呼び寄せた当人がなんていう態度なんだ、と言いたい所であるが相手はあのジノなのでここはグッと堪えてジェンティーレはしぶしぶながらも部屋の中へ入る。 「コザルの奴、どうなんだ?」 「あ、やっぱ心配だったんだ」 「そんなんじゃねーよ」 「そう言ってる割にはその袋の中身は?…ったく素直じゃないんだから」 苦笑しながらジェンティーレがこちらに向かって来た際に買ってきたと思われるアイスクリームがいくつか入った袋を取り上げてそれを冷凍庫の中にしまいながら、 「しかし風邪引きのシンゴにアイスクリームだなんて一体どこでどんな発想でそうなった訳?」 「いやな、コザルが前にアカイの看病しに行った時にアイスクリーム持ってったらしくてお前もそうしてほしいか…って聞いた時に即答してきたからよ」 「ふ〜〜〜ん、そんなことがあったんだ……」 新伍とジェンティーレがそんな会話をしていたのは初耳ではあったが、それ以上に納得できないのは止也の所に新伍自身がわざわざ看病に出かけていたことの方がジノ的には気にいらなかった…。 (最近大人しくなったと思っていたけどまだまだアカイは侮れないな…) 同じ日本人でイタリアでプロになる、という同じ夢を持つ新伍と止也が直接は会う回数が多くなくても他の日本のメンバーに比べたら圧倒的に交流を持っているのはわかっていたし、当時は止也が新伍に友情以上の何かしらの感情を新伍に抱いているように見えていたのだが、現在ではスウェーデンのレヴィンに気に入られながらも敵はまだまだ油断大敵のようであった。 「いっそレヴィンがアカイを拉致ってイタリアから連れ攫ってくれたらライバル減って楽になるんだけどな…」 「お前……サラリと怖いこと言うなよ;」 「ま、それは冗談としてそろそろシンゴ起こして薬飲ませないと。…ってことで起こしてあげて」 口では冗談と言ってても目が本気だぞ…、とジェンティーレはジノに心の中で突っ込みを入れつつも何だかんだで自分も新伍の様態は気になるので黙って従うことにし、立ち上がって新伍がいる寝室へ向かうと当の新伍はまだ眠っていた。 「おいコザル、起きろ」 「…っうぅ〜〜〜………」 肩を揺らしても当の新伍はなかなか起きなくて仕方ない…、と思いながらジェンティーレは新伍の頬を軽くぺしぺしと叩きながら、 「さっさと起きやがれ」 「い…たい……」 「仕方ない、てめーのために買ってきてやったアイスクリームは俺様が全部持ち帰るか」 「えっ!?アイスクリーム?!………あれ?あ、ジェンティーレ」 色気より食い気という言葉は目の前の新伍にぴったりの言葉だな、と思いながらあたふたして少し混乱気味な新伍に軽く挨拶してから新伍を連れてリビングに戻ってから新伍を机の前に座らせるとちょうどいいタイミングでジノがトレイを持ってきて、 「おまたせ。さ、熱いうちに食べて」 目の前に置かれたきのことエビのクリームリゾットのにおいに惹かれて新伍はスプーンを手にとってリゾットを掬ってそれを食べやすい熱さに冷ましてから口の中に運んだ。 「あ、おいしい……」 「よかった。とりあえずそれ食べて薬飲んだらまた暖かくして寝るんだよ?」 「うん。……あ!ジェンティーレ、俺のアイスクリームは??」 「………冷凍庫の中に入ってるから元気になったら好きなだけ食え。別に誰も取りゃしねぇから;」 「…ありがと、2人とも」 ポツリと呟くように2人にお礼を言った新伍は何か言われる前に食べかけのリゾットに手を出し始め、新伍の照れ隠しなお礼をちゃんと聞き取れた2人は一瞬目が合い、微かに顔を赤くしつつも苦笑を浮かべながら、 「早く元気になってね?」 「弱ってるお前はお前じゃないからな、さっさと治せよ!?」 性格は違うけど今の言葉で本当に心配してくれていたんだな、と思った新伍はさっさと風邪なんて治さなきゃ、と思いながら2人に心の中でもう一度お礼を言ったのだった――――。 翌日。 食べるものを食べて薬を飲んで暖かくして寝たことで新伍の風邪はすっかり治り、今日も元気にフィールドを走り回っていて、チームメイトたちは昨日の弱弱しさが嘘みたいだ…、とボヤきつつもいつもの新伍に戻ってくれてホッとしているのがジノにも伝わる。 (やっぱりシンゴはこっちの方が全然いい) 弱弱しくなって甘えてくれるのも悪くはないけど、今みたいに元気にはしゃいでいる方が全然らしくていい。そんなジノの考えに当の新伍は全然気付いていなく、 「お〜〜〜い、シンゴ!!お前に電話だぞ〜〜!!」 コーチに声をかけられて何で??と頭に?マークを浮かべている新伍の側に寄ってジノは肩を叩いて、 「とりあえず行ってきたら?」 「う〜ん、でも誰だろ??ジェンや止也なら携帯使ってくるはずなのに……あ、もしかして;」 何となくそれぞれ違った意味で嫌な予感がした2人。ジノは新伍に付いて行く、というと新伍も快く了解して2人は室内へと向かった。 (何か嫌な予感するんだよな〜…。相手がレヴィンさんじゃないこと祈ろ;) 昨日新伍が風邪を引いていたのはインテルのメンバー以外ではジェンティーレの他にも止也にはメールで説明してたのであるが、今日彼がくれたメールの内容が、 『ごめん、あの2人に新伍が風邪引いてたのバレた;』 ……なのであった;。ちなみに止也が指すあの2人、とは若林の腕を壊したクライフォートとレヴィンの破壊神コンビで、当人たちは平気で思ったことをズケズケ言うのでそれに傷ついた人間は数知れず……という経歴を持つ2人。正直関わりたくないのが本音であるが、何故か新伍と止也は彼らに気に入られていた。 しかし、ここで電話を拒否したとしてもその場凌ぎになるだけで後の方が断然怖いのもわかっていたので仕方なくすぅ〜っと深呼吸してから受付に置いてあった電話の受話器を恐る恐る取って、 「はい、もしもし?」 『風邪引いたと聞いてたがもう平気そうだな?』 受話器先の声を聞いてそれが誰のものなのかすぐにわかった新伍の顔が一気にボッと赤くなって、 「あっ…あの、今日はいったい………??」 『まだ風邪こじらせてるようだったらいいアドバイスでも送ってやろうかと思ってな。……風邪を引いた時は汗をかくのが1番いいんだ、お前の場合相手に不足はないだろうがまだ完治してなかったら俺が治してやろうかと思ったんだがな』 「いっ……いらないですからっっ、もう俺元気になったんでっっ」 『残念だ』 「何が残念なんですか、もぅ。…んじゃ、もう切りますからね?…え?……頼みますから俺でからかわないで下さいっ!!」 そう言って一方的に電話を切った新伍の顔はまだ赤く、ハーハーと呼吸を整えてからジノの方に向いて、 「練習に戻ろう、ジノ」 「だけど大丈夫?」 「うん、何とか……。さ、行こう?」 そう言って新伍はジノの手を引っ張って外へと向かい出し、ジノは転ばないように新伍に手を掴まれたまま、 (今度オランダと当たったらコテンパンに潰さなきゃね…) 新伍の反応で電話の相手がクライフォートだとすぐにわかったジノは大事なチームメイトを破壊神コンビから今後どう守ろうかと考えながら新伍といっしょに練習に戻ったのだった…――――。 END 櫻井綾女さんから頂いた相互記念小説です。 葵・ジノ・ジェンティーレ三人組でクライフォートも出たらいいなあ、という完全に私の趣味に走りまくったリクに対して、素晴らしい作品で答えて下さいました綾女さんに感謝です。 はんなりと黒いジノと傍若無人なクライフォートに挟まれると、なにやらジェンチがフツーにイイ奴に思えてしまって(←ヒドイ)激しく萌えました。 ← 戻る |