キャプテン翼J 第37話 孤独の特訓 戻る ‖ 2006.11.14

※アニメ版キャプテン翼J 第37話のレビューです。
※主な人物のセリフは色分け表示しています。
  ■ 葵新伍 ■ ジノ・ヘルナンデス ■ マッティオ ■ カリメロ ■ フランコ
  ■ ゴメス ■ サムエーレ ■バッシ監督 ■ ダリオ ■ 賀茂 ■ 実況
 その他キャラは適当に色換え


インテーナ練習場です。
新伍はボールを懸命に追いますが、あと一歩で届きません。
カリメロ特製シューズを履いてるのにここまで動けるのは驚異的だと思います。

ですがそんなこと、ゴメスやフランコが知るよしもなく、

「どうしたジャポネーゼ!」
「そんなボールにも追いつけねえのか?」
「くそぉ…ッ!」

新伍は悔しさを抑えて立ち上がり、すぐさま駆け出しました。
そんな新伍をジノが心配そうに見つめています。

「シンゴ……」

それはともかくこの練習試合、ジノは無茶苦茶ヒマなんじゃないでしょうか。
誰も彼もが新伍イジメに没頭してます。
いっそゴール前にコタツを置いて茶を飲み、ミカンを食い、マンガを読みふけってたって余裕でゴールを守れそうな予感。

ダリオコーチはやれやれという風にかぶりを振ります。
バッシ監督は無言で試合を見ています。
いまだ二人とも新伍がイジメられてることに気づいていません。
こんなフシアナ君の監督&コーチでインテーナは大丈夫なんでしょうか。

練習が終わって新伍が全身ズタボロ状態でクラブハウスに戻ってくると、監督室からなにやら相談する声が聞こえます。

「どうしたんだシンゴは。特に最近の動きは悪すぎる」
「ええ、紅白戦の時のあのプレイはまぐれだったんでは?」
「とにかくこのままの状態が続くようなら、我々も考えねば」
「そうですねぇ」

二人揃ってここまで見る目がないとは驚きです。
そろそろインテーナ上層部は、カリメロを用具係から監督にコンバートすることを真剣に考えた方がいいかもしれません。

偶然耳にした言葉に新伍はこぶしを固く握りしめます。
どんなに頑張ってもわかってもらえない悔しさと憤りがないまぜになって、ストレスゲージが限界値を越えたようです。

ジノがロッカールームの扉を開けると新伍がいました。
すでに服を着替えて帰り支度をしています。

「シンゴ。どうしたんだ、着替えたりして? 午後の自由練習には参加しないのか?」
「……うん。ちょっとね。」

なにやらヒジョーに後ろめたそうな表情で目をそらして答えると、ジノのそばをすり抜けてそそくさと部屋を後にします。
新伍の背中にジノが厳しい声で言い放ちました。

「逃げるなよシンゴ。マッティオたちのせいで満足なプレイが出来ないのはわかってる。でも、そんなことくらいでお前は挫けてしまうのか? お前の夢ってそんなもんだったのか?」
「ジノにはおれの気持ちなんてわかんないよっ!」

新伍はふり返って一言叫ぶときびすを返して出口に走ります。
もう半泣き状態です小猿。

「――シンゴ!」

ジノの制止の声もむなしく新伍は走り去ります。
いわゆるひとつの敵前逃亡です。

まんまと逃げられてしまったジノの後ろ姿に哀愁を感じます。
なんか適当に慰めときゃいいのについ相手を思って正論をぶってしまい、彼女に逆ギレされてしまった野暮な男を見ているようで。

場面が変わって新伍の下宿です。
カリメロシューズを壁に投げつけ、薄暗い部屋でひとり鬱ってます。
ケンカして泣いて帰ってお茶わかす気力もなくて、ひとり部屋に座って鼻をかんでます。
いやなんかまさにそんな雰囲気。


それはともかく、ベッド脇の壁に掛けられた変な額が気になってしかたありません。
毛筆で黒々と「心」。なんというミスマッチな室内装飾。
外人がクールだとカンチガイして嬉しそうに着てる漢字Tシャツを思い起こさせます。
ほらあるでしょう? 「犬」とか「出前一丁」とか「半魚人」とか。

さも得意げに「犬」シャツ着込んだビクトリーノを想像するだけで涙がこぼれます。
お願いだから鼻で笑わず、なるたけ優しく指摘してやって下さい火野。

「やっぱりムリだったんだ。このイタリアでプロのサッカー選手になろうだなんて。最初からムリなことをできると勘違いしてたんだ。これからおれはどうしたらいいんだ……!」

新伍にしては珍しくシリアスに落ち込んでいます。
ちょうどテレビではどこぞのサッカー中継が流れています。

「さぁ、この試合全得点を叩き出しているツバサ・オオゾラにボールが渡りました!」
「!? 翼さん!?」

翼と聞いたとたん新伍ががばっと飛び起きます。
テレビ画面を食い入るように見つめていると、翼が相手のスライディングタックルをあっさりかわしてゴールを奪いました。

「ゴール! ここで試合終了! サンパスFC優勝です! そしてツバサ・オオゾラのハットトリック達成です!」
「す、すごい!」
「まさにミラクルボーイ、ツバサ・オオゾラひとりの活躍でサンパスFCを優勝に導きました!」

あいかわらず翼のサッカー無敵超人ぶりは健在です。
どこに行っても挫折を知らない男、その名は大空翼。
なおサンパウロFCがサンパスFCなのはたんなる大人の事情です。

「中原中の12番!」

またもや翼の幻聴です。
新伍はコインを手のひらに載せてつぶやきます。

「そうだ、おれはこのコインに誓ったんだ。このイタリアで頑張るって。そしていつか翼さんと一緒に日本代表としてワールドカップに出場するって!」

続いてジノとカリメロの言葉が心に蘇ります。

「お互い頑張ってセリスAを目指そう」
「イタリア人以上のプレイを見せてやるんだ。そうすればきっとみんなもお前を見直してくれる」

なんか憧れの翼さんよりフレンドリーで情のありそうなジノとカリメロです。
彼らの言葉を胸に新伍は手の中のコインをかたく握りしめました。
なにやら決心した様子。

新伍は日本人よりイタリア人のほうが波長が合ってるような気がしてきました。
いっそイタリアに永住帰化したほうが幸せになれそうです。
全日本メンバーのポジションもひとつ空きますし。

新伍(FW)―コンティ(MF)、マッティオ(MF)―ジェンティーレ(DF)―ジノ(GK)で真イタリア代表といきましょう。これで日本とも互角に戦えます、たぶん。
火力が足りなきゃストラットかコンティーニも追加しましょう。
そうそう、新伍必殺シュートを習得するのも忘れずに。新幹線シュートは断固却下。

翌日のインテーナ練習場。バッシ監督がユニオーレスメンバーに演説してます。

「いいか、みんなも知ってると思うが、明日はユニオーレスの北西地区優勝を決める大事な決勝戦だ! ここを勝ち抜いた者が全国大会へと駒を進めることができる。対戦相手はあのACミラルだ!」

なんかみんな真剣な表情です。
ユニオーレスとはいえミラノダービーはやはり別格なのでしょう。
新伍はユニフォームの上に見慣れぬ白い上着を着込んでいます。

「そこで明日のミラノダービーに出場するメンバーを発表する。……ダリオコーチ」
「では発表する。キーパー、ジノ。次、DF三名。ジョヴァンニ、ゴメス、レント」

用具を抱えてカリメロが練習場に入ってきました。

「おっ、いよいよか」
「次、FW四名。サムエーレ、ニコーラ、フランコ、ヴィットーレ。次、MF。ミケーラ、オテッロ、そしてマッティオ。以上だ」

新伍は選ばれませんでした。その割に冷静な表情です。
そんな新伍をカリメロが心配そうに見ています。

「なお、リザーブのメンバーは当日発表する。選手にもれた者もコンディションを整えておけ! 以上だ、解散!」

他のメンバーはあちらこちらに散っていきますが、ジノひとりその場に留まって新伍に気遣わしげな視線を向けます。

「シンゴ……」

気遣われてる本人はぜんぜん気づいてないっぽいですが。
ジノも素直に声かけりゃいいのに。さすがに昨日の今日では気まずいのでしょうか。

目の前を通り過ぎるバッシ監督をカリメロが呼び止めます。

「監督」
「なんだ、カリメロ?」
「わしはあんたをもうちょっと見る目がある人だと思っとったんだが、どうやら買いかぶりすぎたかな」
「それはどういう意味だ」
「新伍のはいているスパイクですよ」
「スパイク?」

カリメロの言葉に監督がピッチを見やります。
新伍のスパイクシューズに注目したとたん、やけにシリアスな効果音が響きます。
予告無しに不治の病を宣告されたり、アウトバーンを最高速で走行中ブレーキ不能に気づいた時に流れそうなサウンドです。
なんでそんな大げさに驚いてるんですか、バッシ監督。

「あれは……!」
「あんたが若い頃はいてたヤツさ。スランプに悩んでいたあんたに、わしが特別に細工して作ったあのスパイクだよ」
「あれをシンゴがはいているというのか!?」
「もう一週間以上にもなるかな。お前さん以外にあれははかせないつもりだったんだが」

そういってカリメロはニヤリとします。
なんとカリメロシューズ初代使用者はバッシ監督でした。
ていうか監督、もとインテーナ選手だったんですか。
現役時代の監督のプレイスタイルがノンストップ青信号だった疑惑がにわかに浮上。

「そうか、そういうことか!」

監督が嬉しげにガッテンしたところで視点はピッチに移ります。
新伍とマッティオが併走してます。

「邪魔だ、どけェ!」
「うわあっ……!?」

マッティオに乱暴に突き飛ばされて転倒してしまいました。
厳密には反則だが審判のフエは鳴らず。

「なにするんだよっ!」
「ほぅ、オレ達にそんな口をきいていいのか?」
「なにィ!?」
「お前は補欠にもまだ選ばれてないんだぜ」

フランコに指摘されて思わず言葉に詰まります。
トドメとばかりにマッティオが追撃をかましてくれます。

「練習がしたかったらグラウンドの隅で屈伸でもやるんだな」

新伍は憤りに肩を震わせてます。
見るからにマジギレ富士山大噴火5秒前といった雰囲気です。

「どうした、邪魔だと言ってるのが聞こえないのか!?」
「わかったよ、マッティオ」

新伍は突如すがすがしい表情で言いました。さっさとグラウンドを出て行きます。
なんなんですかこの物分かりのよさは。薄気味悪いです。はっきりいって。
もしや通りすがりの岬太郎の生き霊にでも憑依されてしまったんでしょうか。

反対にその様子を逐一見ていたジノがついにキレてしまいました。ものすごく怖いです。
イタリアJrユース時代の冷徹なる裏番ぶりを思い返すと、マッティオ達の今後の安否が気遣われてなりません。

ジノはさっそくクラブハウスで三人をひっ捕まえて説教を始めました。
唐突に殴りかからないぶん若林より冷静です。かわりに壁を激しく叩いてますが。クラブハウス全体が揺れた気がします。左腕でこれです。黄金の右腕だったらどんなことに。

「いい加減にしないか、マッティオ」
「お前の説教なんか聞きたくないね」
「なにィ!?」
「言っておくがみんなオレの味方さ。あのジャポネーゼがいて喜んでいるヤツはひとりもいないぜ」
「そうそう。お前以外はな」

マッティオはともかくゴメスの分際で態度がでかいです。
尻馬に乗るとはこのことでしょうか。

「お前たち!!」

ジノは翼のドライブシュートを片手で止める驚異の握力の持ち主ですよ。
マッティオはスイカ割りのスイカみたいに頭を割られる前に謝った方がいいと思います。

ここでタイミング良く後ろのロッカールームから新伍が出てきました。
あれ〜みんな、なに騒いでんの? と首を傾げて、

「えへへへ! そんじゃみんな、お先に!」
「シンゴ!?」

新伍は軽く手を振ってさっさと帰ってしまいました。
一番怒ってしかるべき当人がなぜこんなにカラ明るいのでしょう。
予想外の展開にジノは二の句が継げない様子。

「明日は出場できないかもしれないのに、気楽なもんだぜ」
「そろそろ覚悟を決めたのさ。今日あたり帰り支度でもするんじゃねえのか?」

なんだかみんなすごく嬉しそうです。オレたちのイジメ作戦大成功って感じ。
まったくもう、どうしようもない連中ですね。

ジノは当惑を隠せない様子で新伍が去っていった方角をぼんやり見ています。
マッティオたちはジノの気がそれたおかげで命拾いしました。

さて帰り道。
とっぷり日の暮れた人気のない路地を、ジノが心持ちうつむき加減にとぼとぼ歩いてます。
原作では一足先にプリマヴェーラ昇格が決まってうきうき足取りも軽いのですが、アニメの彼は新伍のことで頭がいっぱいなのでそれどころじゃありません。

「シンゴ。一体どうしたんだ? 本当にあきらめて帰ってしまうのか……?」

道々、「帰る」「帰らない」と花占いでもやってそうなたそがれっぷり。
そんな新伍に帰って欲しくないのか、お前。

でも人間的にはアニメのジノのほうが好感が持てます。

ふいにボールがバウンドする音が路地に響き渡りました。ジノが顔を上げます。
どうやら横の塀の向こうから聞こえてくるようです。
塀の穴から中を覗くと、なんと新伍がガモウ式トレーニングに勤しんでるじゃありませんか。

「シンゴ!?」

新伍は塀にボールをぶつけ、それをトラップする練習をしています。

「えぇい! ――こっちか!?」
「あんなでこぼこの壁じゃあ、どこにはね返ってくるかわからないのに! なんて反射神経だ!」
「よぅし、次!」

釣鐘を横に倒したみたいな筒にボールをけり込んで、再びそれをトラップする練習を始めます。

「うまい! 筒に入れて戻すだけでも容易ではないのに、あれだけ鋭い回転をトラップするとは!」

ジノはしきりに感心してますが、筆者の興味は変な筒に注がれっぱなし。
形状は西洋のカリヨンではなく日本の梵鐘に似ています。
つーかそもそもこれ何さ。最初からここに設置されてたっぽいけど。
工事現場の建築資材? ガウディみたいな変人建築家が心の赴くままに作った奇形オブジェ? まさか………不発弾!?

変な筒の正体はさておき、お次はドリブルスラローム練習に移ります。
赤いパイロンだけでなく木箱もあちこち置かれててます。テンポ良く跳び越えてドリブル。
変な筒が不発弾だとすればこの木箱もたぶんダイナマイト木箱ですね。
なにこの危険地帯。ここはミラノ市街地のはずですが。


「すごい、なんてスピードと跳躍力なんだ!」

なんでそんな嬉しそうなんですかヘルナンデスさん。
新伍ウォッチングに夢中で不発弾や爆弾木箱など眼中にないのですか?


最後に新伍はボロ布を巻き付けた木のもとへ走ります。
原作では木の棒に体育館マットを巻き付けたダミー人形でした。
どっちもどっちですが、敢えて言うなら木の方がいくぶんマシです。

木の幹に体当たり。ショルダーチャージされた時に耐える特訓です。たぶん。
そして木のほぼ根元付近から不自然な感じに生えている枝(これにもボロ布が巻いてあります)めがけて思いっきり右足を振り抜きます。敵DFのタックルに競り勝ってシュートする練習です。たぶん。

新伍は肩で息をしながら、

「ジノ、カリメロ。おれはやるよ。ジャポネーゼ=サッカーの下手なヤツという意味を変えてやる! そしておれはみんなに認めてもらうんだ! よーし、もう一丁!」

そう叫んで練習を再開します。
ジノは安心したようにフッと微笑んで静かに立ち去りました。

翌朝。

「シンゴ! 今日は試合だってのにそんなにのんびりしてていいのかい?」
「……ん? はァ? でええぇぇぇッ! しまった寝過ごしたぁ!? うわっ!?」

目覚まし時計の針は9時7分。
あわてて飛び起きてベッドから盛大に落っこちます。ガラスケースに頭から突っこんだみたいな派手な物音がしたんですが、いったいどんな落ち方をしたんですかね。

新伍は赤いチャリを飛ばしてミラノの街を疾走します。

「ごめんよォ!」

途中で何度も通行人を轢きかけつつ、さらに速度をアップ。

「くっそう、間に合ってくれぇ!」

トップスピードで曲がり角に突入したその時、またもや前方より人影が。
ものすごい勢いで変なおっさんに激突してしまいました。

「いってぇ……」
「君ぃ、ちゃんと前を見て運転しなきゃ駄目じゃないか!」
「おじさんこそ、よそ見して飛び出してくるんだもん!」

ゴミ箱の間からよろよろ立ち上がる賀茂に新伍が言いかえします。

「君、日本人か?」
「おじさんも、そうみたいだね?」
「いやぁ、ちょうどよかった。道を訊きたいんだが」

なりゆきで賀茂を自転車の荷台に乗せて試合会場に行くことになりました。
激突時に受けた衝撃のせいか、荷台のネジがギチギチ不吉な音をたてています。

「それじゃおじさんは日本のサッカー協会の人なの!?」
「ああ、世界中のジュニアチームを見て回るのがオレの仕事さ。イタリアの次はブラジルに行く予定だよ」
「ブラジル!? じゃあ大空翼さんに会うんだね!」
「ああっ君、前、前!」

危うく車に衝突しかけますが間一髪で回避しました。

「ふう、もちろんだよ。今や翼君はサンパウロの英雄だからね。しかし君も相当なサッカーマニアだな。わざわざジュニアの地区大会を見に行くなんて」
「ブーッ、ハズレ。見に行くんじゃなくて出るの。飛ばすよ〜〜〜!!!」
「!? ああぁぁぁッ〜!?」

新伍が一気に加速した瞬間、ついに荷台が分解しました。
抜け落ちたネジと荷台ごと賀茂は路上に転げ落ちます。

「おいっ、君〜!?」
「やるぞぉぉぉぉ〜〜〜!!!」

いきなり重量がガクンと減ったのにぜんぜん気づいてないみたいです。
ノンストップ青信号はふり向きもせず走り去ってしまいました。
賀茂は腰をさすりつつ新伍の後ろ姿を見送りながら、

「二人乗りは止めましょう、ってか? いてててて……」

腰が痛い賀茂はさておきミラノダービー試合会場です。
賀茂を振り落とした甲斐あって、なんとか新伍は間に合いました。

「さて。それでは控え選手を三名発表する。セルジオ、ヴィットーリオ。そして最後に20番、シンゴ・アオイ。以上だ!」

監督の意外な発表にインテーナユニオーレスの面々は驚きを隠せません。

「おれ? やったぁ!」
「やったな、シンゴ!」

ジノがまるで我がことのように喜んでます。
その他のメンバーはあからさまに憎々しげな表情で新伍をにらんでます。
イタリア人って喜怒哀楽がすごくわかりやすい人たちですね。

後半も残りわずかの時間、ようやく賀茂がスタジアムに到着しました。

「くっそ〜もう後半戦のケツじゃねえか。……! いてててて」

賀茂が痛む腰をさすってるあいだに、

「は、はいったァ!」
「――ジノ!?」

信じられないといった表情で新伍がベンチから立ち上がります。
確かににわかに信じがたい事態です。

「インテーナ、ピーンチ! 残り時間七分と言うところにきてACミラルに先制されました! しかもこの得点、9番ヴィットーレの自殺点です!」
「くっそぉ……!」

ジノは両膝をと両腕をついて悔しそうにつぶやきます。そりゃそーだ。
味方のオウンゴールで失点するなんて予想外にもほどがあります。
あとで体育館裏でシメられてもヴィットーレは文句言えた義理じゃありません。


新伍は監督に向かって叫びました。

「監督! おれを試合に出してください!」
「おい、聞いたかよ。ジャポネーゼはまだ自分の実力が分かってないみたいだぜ」

補欠二人が自らの実力を棚に上げて笑ってます。
少し考えてからバッシ監督が言いました。

「行ってこいシンゴ!」
「は、はいっ!」
「ただし、結果を出せないようなら即座にこのインテーナを辞めてもらう」
「――あ、はいっ!」

監督は立ち上がって指示を出します。

「9番アウト、20番イン!」

ヴィットーレを下げて新伍を入れました。当然の判断です。
監督の選手交代指示にマッティオは驚愕に満ちた顔で叫びます。

「なにィ!?」
「――あ!」

ジノも少し驚いて新伍を見やります。
カリメロが新伍にスパイクを投げて言いました。

「シンゴ! 練習用のスパイクを脱いでこっちのやつに履き替えていけ!」
「うん!」

スパイクを履き替え、ついでに白い上着も脱ぎ捨てます。
意気揚々とピッチに駆け込む新伍に気づいた賀茂が、

「ん? あの少年は……!」
「よーし、頑張るぞ〜!!」
「ほ、本当にインテーナの選手だったのか!」

スタンドの賀茂の驚きはともかく、ピッチ内でもフランコが戸惑い顔で声を荒らげてます。

「くっそう、なんだって監督はこの大事な場面にジャポネーゼなんかを!?」
「チャンスじゃないか」
「えぇっ?」
「監督はこの試合でヤツのクビを決めるつもりなんだ」
「な、なるほど。でもマッティオ、それじゃあ!?」
「監督はもうこの試合を捨ててんのさ。どうせ勝てっこない試合ならここで一気にジャポネーゼを潰しちまおうぜ」

マッティオの言葉にフランコとゴメスは顔を見合わせます。
さすがに二人とも“ええ? そんなことマジやんのかよぉ?”って雰囲気です。

「さあ、インテーナの反撃開始! マッティオひとりミラル陣内へと攻め込みます!」

なにィ、ひとり攻め込みます!?
すぐ後ろを走るフランコとサムエーレは筆者の幻覚なんでしょうか?

それはともかく新伍も追いついてきました。

「マッティオ!」
「来たな。それっ!」

マッティオ至近距離から渾身のシュートパスです。
しかし新伍はあっさりトラップしました。

「ナイスパス!」

ナイスパス! などとイヤミを言う余裕すら感じられます。
いや、新伍はイヤミなんかいう性格じゃないですね。
さして悪気もなく笑顔で相手の心をえぐるストレートな物言いでしょう。

「なにィ!?」
「マッティオ!」

すかさずボールをマッティオに戻します。

「こんな至近距離で……!? くそぅ! だが、これならどうだ!」
「回転をよく見て合わせれば!」

言葉通り「回転をよく見て合わせる」というイマイチ理解不能なことに成功したらしく、新伍は縦に回転するボールも難なくトラップします。
さすがのマッティオも内心の動揺を隠せません。
後ろを走るフランコとゴメスもそろって驚いてます。

「ど、どうなってるんだ!?」
「いつものジャポネーゼじゃないぞ!?」
「行くぞ〜〜!!」
「シンゴ!」

ジノがはるか後方で嬉しそうに叫んでます。見るからにとっても幸せそうです。

快調にドリブルする新伍をACミラルの選手三人が迎え撃ちます。

「20番、チェックだ!」 ←ミラルの8番

新伍はあざやかに三人とも抜き去ります。

「ぬ、抜いた〜!」
「シンゴ!」

叫ぶ声が弾んでます。ジノはあいかわらずとっても楽しそうですね。
カリメロがベンチで大声を張り上げます。

「進め〜! シンゴ〜!!」
「言われなくたって青い信号は進めのサインだぜ!」

トップスピードを持続したままひたすら走り続けます。
後を追うフランコとゴメスは驚いた顔で、

「は、速い!?」
「なんてスピードなんだ!?」

ドリブルしてるヤツに追いつけないお茶目な二人です。
走るより速くドリブルするなんて陽一ワールドでは日常茶飯事です。
翼とかナトゥレーザなんかその典型。

そんなこと言ってるあいだにゴールが見えてきました。
ゴールが見えたら打て、は陽一ワールドの合い言葉。

「もらったァ!」
「そうはさせるかァ!」 ←ミラルの2番

最後に残ったミラルのオッサン顔DFがショルダーチャージで襲いかかります。
このミラルの2番はとてもユニオーレスの選手とは思えません。カルツ並み、いやそれ以上にオッサン臭いです。もしや年齢詐称してませんか?

新伍はひとまわりどころかふたまわりほども違う体格の相手と互角に競り合ってます。
フランコやマッティオたちはウソだろおい?ってな顔で凝視してます。
これもガモウ式トンデモトレーニングの効果ですね。

ジノが叫びました。

「行け、シンゴ!」
「でえぇいッ!」

新伍は気迫のこもったかけ声とともにシュートを放ちました。
キーパーも負けじと気合いの入った声を上げて跳びます。

「きえぇぇぇぇ〜〜〜ッ!」 ←ミラルキーパー

なにこの若島津なかけ声。
ミラルキーパー、もしや若堂流カラテ入門者?

若堂流キーパーのがんばりもむなしく、ボールはゴールに突き刺さります。

「決まったァ〜! インテーナ、選手交代が功を奏し、瞬く間に同点に追いつきました!」
「やったぁ〜ッ!」
「よーし、よくやったシンゴ!」

ベンチでは補欠君たちがカリメロシューズを手に驚きの声を上げています。

「な、なんだこのスパイクは!? 普通のスパイクの二倍の重さはあるぞ!」
「そのうえ皮はガチガチにかたいぞ!? これじゃあボールをトラップするのも至難の業だ!」
「シンゴはこんなものをはいて毎日練習してたのか!?」

そこの二人、わかりやすい説明セリフありがとうございました。

バッシ監督は無言でピッチを見つめています。内心ひそかに「実はオレも昔これ履いてたんだぜ〜」とか自慢げに語ってそうです。
カリメロも新伍の白い上着を広げて呟きます。

「それだけじゃねえ。自ら進んでこんな鉛を仕込んだトレーニングウェアまで作って上半身を鍛えるたぁな。シンゴ、お前ってヤツは……」

なんと白い上着は鉛仕込みのトレーニングウェアでした。
裏に隙間無く鉛板が縫いつけられています。
上半身を鍛えるだけでなく、レントゲン撮影時のX線防護衣としても重宝しそうです。

新伍の得点で1-1の同点。試合の行方はまだまだわからなくなりました。

「マッティオ! もしかしたらおれたち、逆転できるかもしれないぞ!」
「それでもあのジャポネーゼを潰しにいくのか!?」

サムエーレとニコーラの言葉に内心たじろぎながらもマッティオは言い張ります。

「あ、当たり前だ!」
「お前らそこで何をやってるんだ! 試合はもう始まってるんだぞ!!」

試合中なのに呑気に話し込んでる三人にジノの檄が飛びます。
サムエーレは今度はきっぱりと言い切りました。

「おれは今のシンゴのプレイを見ても監督が試合を捨ててるとは思えん!」
「そうだ、おれたちの敵はACミラルだ! シンゴじゃない!」

ニコーラも同調すると前線に向かって二人で走り出します。
サムエーレがミラル選手からボールカット。すかさず前方に走るニコーラへパス。

「ニコーラ!」
「オテッロ!」
「よしっ!」 ←オテッロ

ニコーラのパスがオテッロに通りました。

「オテッロ!」

新伍のパス要求にフランコが叫びます。

「シンゴにパスだ!」
「それっ! ――し、しまった!」

オテッロはうっかり強すぎるパスを送ってしまいました。
原作ではフランコが「あっ、しまった。いつものクセで強く蹴っちゃったよ!」という実に陽一的な迷セリフを吐くシーンですね。オテッロはいらん失言しないぶん優遇されてます。

「おぉっと、これは強い! ラインアウトしてしまうぞ!」

新伍は構わず全力疾走。ぎりぎりでボールに追いつきます。

「よっしゃあ〜〜ッ!」
「ああッ、あのボールを止めた!」

ニコーラ、オテッロ、サムエーレと3人揃って画面横並び状態で驚いてます。

「なにッ!?」

驚くマッティオにフランコが言い放ちます。

「マッティオ。おれはもう止めるぜ。だんだん自分が惨めになってきた」
「ああ。こんなバカなこと続けたって意味がないぜ」
「行くぞ、ゴメス! シンゴのフォローだ!」
「おう!」

「フランコ!? ゴメス!?」

かくてフランコとゴメスも新伍に寝返りました。
ていうかバカなことだとわかってたのなら最初からイジメるなよ、お前ら。

しかしこいつらものすごい勢いで寝返っていきますね。
実は新伍側に鞍替えするチャンスを虎視眈々と狙っていたんじゃないですか?
本気で新伍を追い出そうとしていたのはマッティオだけだったりして。

新伍はボールを持って走り出そうとします。
しかし年齢詐称疑惑のミラルの2番に行く手を阻まれてしまいました。
気がつくと他の敵にも四方八方囲まれているじゃありませんか。

それを見てマッティオが息を呑みます。

「――!?」
「行かないのか、マッティオ! 逆転のチャンスなんだぞ!」

ジノがマッティオの背中に厳しい声を浴びせます。

「マッティオ! お前は知らないだろうがシンゴは規定の練習を終えた後も、お前らの悪質なボールに対処するために秘密の特訓をしていたんだ! 自分の力をお前たちに認めてもらいたくてな!」
「それがなんだってんだ……! あいつのおかげでロマーノは!」

とは言いつつ顔には心理的葛藤の色が表れてます。
どうやらジノの巧みな精神攻撃がじわじわ効いてきたみたいです。

新伍は囲まれたまま必死にボールキープしています。
パスを出そうにもいかんせん味方まで遠すぎます。

「ダメだ、どこにもパスが出せない!」

マッティオはロマーノとの別れのシーンを思い起こします。

「じゃあな、マッティオ。お前と一緒にセリスAでやりたかったが、オレには運がなかったようだ」
「ロマーノ……!」
「だが、お前なら大丈夫だ。オレの分も頑張って必ず夢を叶えてくれ」

そういってロマーノは去っていきました。
えらく潔いヤツですね。道具を大切にしない白ビブス9番と同一人物と思えません。
惜しい人を亡くしたものです。←勝手に殺すな

「――ロマーノ」

ぽつりと呟いたところで新伍の叫びが響きます。

「誰か、誰かフォローに来てくれ――!」
「―――ッ、ええいッ!」

マッティオはようやく現実に立ち戻りました。間髪を入れずに走り出します。

「マッティオ!」

ジノは会心の笑みを浮かべて見送ります。精神攻撃は見事に成功しました。

「シンゴ、お前に許しを請おうとは思わない。だが、オレもサッカーに夢を持っている!」

この期に及んでなんか言い訳してますが、とりあえず新伍が見えてきました。
次の瞬間ミラル選手のタックルを受けて、新伍のボールコントロールに乱れが生じます。

「――ッ! しまった!?」
「シンゴ!」
「マッティオ!」

絶妙の位置に走り込んでくるマッティオを見て喜びの声を上げます。
新伍はすかさずヘディングでボールを奪い返し、そのままマッティオへパス。
マッティオは敵ゴールに向かって走り出す新伍へセンタリングを上げます。

「決めてくれ、シンゴ!」
「マッティオがくれたこのボール、ムダにしてだまるかぁッ〜〜!」

そのままノートラップでシュート。
ミラルキーパーを吹っ飛ばして、ボールはゴールネットに突き刺さります。
どうやら彼は若堂流と森崎を足して二で割ったキーパーのようです。

「やったぁぁ〜〜!!」
「ここで試合終了! ユニオーレスイタリア北西地区大会決勝は見事インテーナが制しましたァ!」

カリメロが大はしゃぎでベンチを飛び出します。

「シンゴ〜!」
「シンゴ!」

ジノも負けじとゴールマウスから駆け出します。
しかし新伍の現在位置は敵ゴールペナルティエリア内。
真逆に位置する自ゴール前からのスタートという距離的不利もあって、不覚にもカリメロに先を越されてしまいました。

「やったな、シンゴ〜!」
「カリメロ!」

新伍は大喜びでカリメロに飛びつきます。
横からだと小猿がヤシの木にしがみついているようにしか見えません。
背後からインテーナの仲間達も近づいてきます。

「カリメロのスパイクのおかげだよぉ〜」
「いや、あれをはきこなしたお前のガッツが今のプレイを呼んだんだ。もう誰にもサッカーの下手なヤツ、ジャポネーゼとは呼ばせねえよ!」
「カリメロ……」

感動しすぎてつい鼻が垂れてしまいました。
さいわい仲間達に背を向けていたのでカッコワルイ姿を目撃されずにすみましたが。
フランコが口ごもりつつ話しかけてきました。

「シ、シンゴ……おれたち…その……なんていったらいいか」
「フランコ」

新伍が次の言葉を待っていると、横からマッティオが割り込んできました。

「シンゴ」

なにやら真剣な顔です。

「ありがとうシンゴ。オレのパスを決めてくれて」
「……マッティオ」
「お前のプレイを見て目が覚めた。お前もオレも、同じ夢を目指す仲間だってことをな!」

めでたく新伍はイタリアでの相棒ゲットです。
今後マッティオとはプリマヴェーラ卒業までコンビを組むことになります。
それどころか原作の「ジノとマッテオとおれ」なる写真から察するに、マッティオの奴、いつのまにか新伍と仲良しトリオの如き間柄にまで昇格しています。あっぱれな変わり身の速さです。

フランコとゴメスがマッティオの言葉に便乗して言いました。

「そう、それだよ。オレが言おうと思ったのは。シンゴ、オレ達と一緒に夢を掴もうぜ!」
「ああ、お前となら全国大会優勝も夢じゃないぜ!」

なんか今までとは手のひらを返したセリフですね。
でも陽一ワールドではよくあることです。気にしない気にしない。

「み、みんな……! おれ、おれ……」

ここでようやくジノが到着しました。ピッチの端からお疲れ様です。
カリメロだけでなくマッティオたちにまで先を越されてしまった悔しさなどおくびにも出さず、いやにハツラツとした声で、

「さあ、みんな! ここはシンゴに敬意を表して日本式に胴上げといこうぜ!」
「おう!」 ←全員
「ふえ? あ、ちょ、ちょっと待ってよ!?」
「ブラボー、シンゴ!!!」 ←全員

みんなによってたかって天高く放り上げられます。想像を絶する高さまで飛んでます。
仲間の手が滑って地面に落下した場合、まちがいなく物理的に地獄に落ちるでしょう。

スタンドでは賀茂がなんか勝手なことほざいてます。

「み、見つけたぞ! 俺の探し求めていた選手がこんな所に。翼や日向たちと組めばまさに最強無敵のチームが出来る!」

変なおっさんに見込まれてしまったとも知らず、脳天気に新伍がのたまいます。

「翼さん! おれは今やっと本当のインテーナの一員になれた気がします。まだまだこれからだけど、いつの日かきっとあなたに追いつきます! そして二人で日本をワールドカップへ連れて行きましょう!」

翼に追いついたうえ、二人で日本をワールドカップへ連れていきましょう! ときましたか。
これはまた大きく出ましたね、新伍。
他の全日本メンバーもこれくらいでっかい大志を抱いて欲しいものです。
翼に追いつけ追い越せのガッツがぜんぜん足りません。

かくてインテーナユースの常勝無敗伝説?が始まりを告げます。
原作曰くプリマヴェーラ時代はイタリア最強を誇っていたそうです。
少なくともアニメ第40話ではユヴェントスプリマヴェーラにボロ勝ちしてました。
ここはひとつジェンティーレは急性虫垂炎のため入院中…と脳内補完しておきましょう。


最後ですがキャスト一覧

大空翼:佐々木望
葵新伍:菊池正美
ジノ:小野坂昌也
マッティオ:三木眞一郎
フランコ:関智一
ゴメス:高木渉
サムエーレ:上田祐司

なにこのむやみやたらに豪華なキャスト。


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