■ キャプテン翼J 第36話 新伍・鮮やかデビュー | 戻る ‖ 2006.10.23 |
ホイッスルと同時に紅白試合再開です。 マッティオがドリブルで敵陣へ攻め上がっていきます。 ちなみにマッティオは赤ビブス組です。 「さすがインテーナユニオーレスだ。いい動きしてるぜ。でもおれだってスピードとテクニックじゃ負けないぜ!」 ボールを奪うべくマッティオに向かって走る新伍。 でも後ろから来たフランコに背中を突き飛ばされてしまいました。 視界をチョロチョロ動き回る小猿が邪魔でしょうがないといった感じです。敵よりむしろ味方にヒドいことされてます。 「チビはおとなしく引っ込んでな!」 「勝手にチョロチョロ動き回るんじゃねえよ!」 「なんだとぉ!? くそっ!!」 新伍は起き上がって再び走り出します。 その間にフランコがマッティオにスライディングタックル。 マッティオからボールを奪うと味方選手と共に攻め上がります。 「よーし、おれにパスだ!」 「ケッ、誰がお前なんかにパスを回すかよっ!」 あいかわらずフランコはパスを寄こしてくれません。数合わせに入ってきた得体の知れないジャポネーゼなんぞに渡すパスはないといったところなんでしょう。 さすがの新伍もムッとした様子を隠せません。 ライン際でフランコはゴメスと二コーラに二人がかりで囲まれてしまいました。 ボールキープしつつパスを出せる相手を探していると、いいタイミングで新伍が走ってきます。 「こっちだ〜!」 でもパスしません。挙げ句、タッチラインを割ってしまいました。 フランコはどこまでも新伍を無視する構えのようです。 スローインのさいも白組選手は、有利な位置の新伍を無視して遠くのフランコに送ります。 新伍はゴール前で囲まれたフランコにセンタリングを要求しますが、これまた華麗に無視されてしまい、フランコはややムチャな位置から強引にシュート。 こんなものがユニオーレス最強GKジノ・ヘルナンデスに通用するはずもなく、ど真ん中で軽々とキャッチされてしまいます。 ゲーム再開後、新伍は味方に突き飛ばされてひっくり返ってしまいました。 「くっそぉ!」 転んだはずみに転がり落ちた三つのコインを拾い上げます。 脳震盪でも起こしたのか幻聴だけでなく翼の幻影まで見えてしまいます。 「サッカー好きならあきらめるなよ!」 「そうだ、きっと翼さんならこんなことぐらいで! よーし、おれだって負けてたまるか!」 そう叫ぶとボールを持つ味方のもとに走り、すかさずボールカット。 そういえば新伍は中原中時代もヘボい味方からボールを奪ってましたね。 ボールが欲しけりゃ自分で奪え。陽一ワールドの格言です。 「なにやってんだ!? 味方のボールだぞ!!」 ←ゴメス 「んなこたぁわかってらい!」 わかってて凶行に及ぶ者を「故意犯」と呼びます。 新伍は味方のブーイングなどものともせず快調にドリブル突破をはかります。 「おれは負ける訳にはいかないんだ。たとえセリスAを目指すエリート達が相手でも! おれが人一倍努力してきたのは、イタリアで認められて翼さんとW杯へ出場して、日本を優勝させるためなんだ!」 「なめるなよ、ジャポネーゼ」 「おれが得意なのはリフティングだけじゃねえ! スピードもテクニックも誰にも負けやしねえぜ!」 迫り来る敵を次々かわして高々と大ジャンプ。人としてありえないほど跳んでます。陽一ワールドでは日常茶飯事ですが。 「おれは走り出したら止まらないぜ!」 ブレーキが壊れた暴走車まがいのセリフとともにペナルティエリア内まで突入しました。 敵側DFが詰め寄ってきます。次いで追いついてきたフランコが、 「パスをよこせ!」 新伍はパスを出しました。フランコの顔面に。バウンドを利用したワンツーリターンです。 背後でマッティオたちが口をぽっかり開けて「そんな!?」と驚いてます。 一方やらかした本人は1ミリグラムも罪悪感を感じてない顔で、 「へへん。さっき突き飛ばしてくれたおかえしだ!」 「顔面パスか。フッ、面白いヤツだ。ようし、来い!」 ジノは不敵な笑みで新伍を待ち受けています。顔面を強打した仲間への気遣いなんて1グラムの1000分の1ほども感じられません。いっけん好青年に見えて新伍と似たり寄ったりの精神構造の持ち主のようです。 「もらったァ!」 新伍がシュートを放ちました。 しかしジノは即座にシュートコースを読み、フィスティングでクリア……かと思われましたが、なんとこぼれ球に新伍がすさまじい勢いで反応します。 「くっそぉ、逃がすか――!! チャンスは自分の手でつかみ取るんだ!!」 ゴールバーに当たってはね返ったボールめがけて空中に身を躍らせ、オーバーヘッド。イタリアでいうところのロヴェッシャータ。つまり翼が良くやるアレです。 ボールは体勢を崩したままのジノをかすめてゴールに突き刺さりました。 我が目を疑うようにダリオコーチが叫びます。 「し、信じられん。ユニオーレスのナンバー1キーパー、ジノ・ヘルナンデスがゴールを割られるなんて!?」 「なんていう反射神経、なんていうジャンプ力をしているんだ! こいつはまるであの全日本の10番と同じだ!」 国際Jrユース大会で戦った大空翼を彷彿させる新伍のプレイに、ジノも呆然としています。 「いやったぞォ〜〜〜!!」 「あのチビめ……!」 異様なまでに腫れた頬を押さえてフランコが苦々しげに吐き捨てます。 彼の右頬は冬眠前のリスの頬袋、もしくはC3虫歯を長年放置した結果シャレにならんほど腫れ上がってしまった人のそれによく似ています。 ちょっと突き飛ばしたお返しがこれです。新伍はやられたら三倍返しが基本みたいです。 試合終了後、バッシ監督が新伍に言います。 「シンゴ、私と一緒にクラブハウスへ来てくれ」 「えっ……じゃあ!」 「今日から君はインテーナユニオーレスの一員だ」 「どうしたシンゴ、嬉しくないのか?」 「カ、カリメロ。おれのほっぺをつねってよ……」 「? ああ」 「いってててて………夢じゃない! やったァ〜〜〜!!」 飛び上がって大喜びです。まったく喜怒哀楽が激しいコザルです。 クラブハウスで正式契約を終えて鼻歌まじりに廊下を歩いていると、むすっとした顔のマッティオとフランコ、その他1名に遭遇します。 「一点取ったくらいでいい気になるなよ、ジャポネーゼ」 「えっ?」 「イタリアはな、ワールドカップで三度も優勝しているんだ」 「一度も出場したことがない日本とはレベルが違うんだよ、レベルが!」 「どうせ俺たちの練習についてこれっこないんだ。泣きを見る前にとっとと日本に帰ったほうがいいんじゃねえか?」 レベルが違うという割に一点も取れなかったのはどこのどなた様ですか? ジノ相手じゃ分が悪いのもわかりますが。 「な、なにィ!」 「しょせんお前はジャポネーゼなんだよ。――行こうぜ」 「あばよ、ジャポネーゼ!」 言いたいことを言って三人は立ち去りました。 こんな負け惜しみのようなミットモナイことを言うために待ちかまえていたんでしょうか。 まあどこにでも心の狭い輩はいるものです。 「なんだよ、ジャポネーゼジャポネーゼって! 馬鹿にしたようにいいやがって! くっそぉ〜!?」 新伍がひとりプンスカ怒っているとふいに後ろから肩を叩かれます。 ふり向くとジノ・ヘルナンデスが立っていました。 「気にするな。彼らはシュートを決めた君がちょっと癪に障っただけなんだ」 点を取れなかった連中の憤りはまあ理解できます。 ですがゴールを奪われた当の本人がここまで愛想がいいのは解せません。 ジノは呆れるほど友好的なんです。な、なにを企んでいるんだ!? それ以上に彼が絶妙のタイミングで登場したことも気になります。 まさか物陰から出る機会を窺っていたんじゃないでしょうね? 「ジ、ジノ・ヘルナンデス!」 「僕のことを知ってるのかい?」 「知ってるさ! 二年前のパリの国際Jrユース大会で――」 ここで新伍の回想が入ります。 翼が放ったドライブシュートをジノがワンハンドでキャッチしたあのシーンです。 「大空翼さんのドライブシュートを最初に取ったキーパーだもん!」 「ツ、ツバサ・オオゾラ!? 彼の知り合いなのか? もしかして君もあの時の日本代表?」 なんか妙に嬉しそうにジノが尋ねてきます。 一度対戦した相手の顔くらい覚えていてもよいでしょうに。 でもまあ陽一先生のキャラ判別に並々ならぬ努力と根性が必要なのも事実です。 「いやぁ、おれはテレビで見てただけさ。でも翼さんはおれの目標だし、おれは翼さんと約束したんだ。一緒にワールドカップに出て日本を優勝させようってね。えへへへへ〜」 嬉しそうにでっかい夢を語ります。 平成版アニメのようにインターナショナルカップなどと改変されていないので一安心。 『日本のワールドカップ優勝』 言葉にしただけで気が遠くなる見果てぬ夢、これぞまさにロンゲストドリームです。 でも陽一ワールドでは確実に達成されるであろう予定調和の未来ですが。 「へぇ、ツバサはブラジルに行ったのか。彼のプレイスタイルにはブラジルサッカーが合っているかもしれないな」 立ち話もなんだし場所を移そうか、とジノが言ったかどうか知りませんが。 場面は夕日に染まるスタジアムです。 「でーも驚いたな。ジノと同じチームになれるなんて! なんたってあの若島津さんさえ止められなかったドライブシュートを止めたキーパーだもんな!」 嗚呼、若島津犬。イタリアでもかませの一例として引用されてしまうなんて。 新伍は思ったことを素直にサラっと述べただけなんでしょうけど。 コドモって時々すっごく残酷。 「たまたまその前に見ていたからさ」 「えっ?」 「全日本Jrユースチームがヨーロッパ遠征に来た時にね」 「あ、それって翼さんがケガで途中から参加した時だろ、違う?」 「ああ、彼抜きの全日本は連戦連敗でね。うちは弱い日本と戦っても意味がないってことで、親善試合をキャンセルしたんだ」 「そ、そりゃあんまりだ」 「たしかに失礼なことをしたと思ってるよ。でも、その時だった」 ジノが遠い目で当時の様子を語り始めます。 「待て、イタリアJrユース! 全日本をなめるな! 俺と勝負だ!」 ←翼 「おいおい、勝負だってよ」 「面白い。誰か相手をしてやれよ」 「よーし、オレが行くぜ!」 ←コンティ 自信満々といった面もちでコンティが名乗りを上げました。 イタリアJrユースでは指折りの実力者のコンティ君ですが、あっさり翼に抜かれてしまいます。 ていうかイタリアにはジノ(ぎりぎりコンティも)以外まともな選手がいない印象です。 原作でイタリアの監督も嘆いていましたね。「うちにいいFWが一人いればもっと楽に試合を進められるんだが」と。 「なにィ、あのコンティが!?」 「そんな!?」 「は、速い!?」 翼の背中を見送りながらコンティが叫びます。 それを見た他のイタリア選手達が次々と出てきました。 「よーし、今度は俺たちが相手だ!」 コンティをやすやすと抜いた相手をこいつらが止められるはずもなく。 残るはGKジノ・ヘルナンデスのみ。 「来い!」 「はぁぁぁぁ―――ッ!」 気迫のこもった叫びと同時にゴール左隅に翼のドライブシュートが突き刺さりました。 ここでジノの回想が終わります。 「あまりのすごいシュートに俺は一歩も動くことができなかった」 「さーっすが翼さんだ!」 「正直言ってすごいショックだったよ。それまで僕は練習試合も含めて一年間、無失点記録を続けていたんだからね」 「へぇ〜」 「それから僕は国際Jrユース大会までドライブシュートを止める特訓をしたんだ。だが結局翼に1ゴール1アシストを許して負けてしまったよ」 なんとジノはドライブシュートを止める訓練をしていました。 例の「さァ、キミのドライブシュートをうってきたまえ」は地道な努力に裏打ちされた挑発だったんですね。 ジノクラスのキーパーなら練習次第で翼のドライブシュートも止められるのです。 なんだかますます若島津の立場が微妙になってきました。 「決勝点は日向さんのシュートだったっけ?」 「コジロー・ヒューガか。彼もいい選手だ。それに翼と絶妙のコンビプレイを見せたタロー・ミサキもね」 「松山さんや三杉さんもいるし、翼さんの仲間には世界に通用するすごい選手が他にもたくさんいるんだぜ!」 はて。いま名前の出た連中以外に世界に通用する選手なんていましたっけ? …………………………………新田!? 「シンゴだって彼らに負けないいいものを持ってるよ。今日のプレイはまるで翼を見ているようだった」 「いやぁ、そんな〜」 足をジタバタさせてやたら嬉しそうです。つくづく単純な小猿です。 ジノがここまで新伍に肩入れする理由ってもしや、イタリアJrユース時代からの命題であるいいFWの確保なんでしょうか? なんたってパーフェクトキーパーの自分からゴールを奪えるほどのFWです。まさにコザルがネギ背負って現れたって感じ。「ねんがんの いいFWを てにいれたぞ!」 そこまで腹黒い計算はしていないと願っていますが。 ジノは他者の優れた点を素直に認められる度量の広い男なんです。……たぶん。 「あの調子で頑張ればすぐにレギュラーになれるよ」 「ホント!? ありがとう、ジノ!」 「お互い頑張ってセリスAを目指そう」 「うん」 二人はかたく握手し、共にセリスA入りを誓います。 あっというまにキミとボクは親友です。 うっかり岬の唄う友情フォーエバーの幻聴まで聞こえてきそうな雰囲気です。 イタリアJrユースといい現在のインテーナといい、他の仲間からひとり飛び抜けた存在であるがゆえにどこか浮いた存在であったジノ。 そんな彼が初めて出会った自分と同等の力を秘めた仲間。 それが新伍だったのかもしれません。 翌朝。インテーナユニオーレス練習風景から始まります。 ジノはセービングの修練に励んでいます。キーパーなので別メニューみたいです。 新伍とその他のメンバーはドリブルスラローム……工事現場に良くある赤いパイロンの間をドリブルですり抜ける練習をしています。 「どうしたどうしたシンゴ! もっとピッチを上げろ!」 ←バッシ監督 「はいっ!」 何度もドリブルスラロームを繰り返します。なかなかハードなトレーニング内容です。 ガモウ式トンデモトレーニングほどではありませんが。 「さすが本場イタリアの練習は厳しいぜ」 「もうバテたのかよ、ジャポネーゼ」 「このくらいの練習量についてこれないようじゃ、早いトコ国に帰ったほうがいいんじゃねえの、ジャポネーゼ?」 「くっそぉ〜〜〜! おれは負けない、絶対負けないぞ!!」 新伍はムキになって怒鳴ります。 今度の周回はフランコと一緒になりました。二人とも相手を引き離そうと必死です。ラストスパートでフランコを振りきったのは新伍でした。 「くそっ、ジャポネーゼめ!」 「へへ〜んだ!」 まったく単純な奴らです。ペース配分とかまるで考えちゃいません。 この後、夕方までえんえんとドリブルスラローム練習が続くというのに。 「よーし、今日の練習はここまで!」 バッシ監督の言葉と同時に選手達がピッチにへたり込みます。 まるで賀茂監督にシゴかれた後みたいです。 疲労困憊の仲間を後目にひとり異様に元気な新伍です。この頃からむやみやたらと豊富な運動量を誇っていたんですね。 それからジノと合流して一緒に練習場を後にします。 すっかり仲良しさんですね。なんたって友情フォーエバーの間柄です。 「だいぶここの練習に慣れてきたようだね、シンゴ」 「うん。ちょっときついけど、へっちゃらさ」 「――あ」 ジノがふと足を止めました。つられて新伍も視線をやります。 クラブハウスから出て行くあの姿はたしか見覚えがあったようなそーでもないような。 そうだ、カリメロの呪いに倒れた白ビブス9番だ。 「あいつはこの前の紅白試合でケガをした……」 「ロマーノはクラブを辞めさせられたんだ」 「ええっ!?」 「ジュニアチームだろうとプロになれないと判断された者は、次々に切り捨てられる。それがセリスAの掟なんだ」 「厳しい。でもこれがセリスAの……プロの現実か」 ものになる見込みがないなら、早めに切り上げて別の道に行くのが本人のためと思います。 アヤックスみたいに将来の進路変更も見越したジュニア選手養成なんかしてなさそうですし。 「おい! ジャポネーゼ!」 マッティオが妙に殺気立ってます。変なモノでも食ったんでしょうか。 「ロマーノとオレは小学生の頃からずっとこのインテーナで練習してきたんだ! 一緒にプロになろうと誓い合って! だがお前が入ったおかげでロマーノはここをはじきだされちまったんだよ!」 「言いがかりはよせよ、マッティオ」 「ジノ。お前の方こそなんでそんなジャポネーゼの肩を持つんだ!」 「サッカーに国境はないよ。シンゴは実力でうちに入ってきたんだ」 ジノはさらっと言いかえしました。ワールドユース編で松山に「実力勝負のこの世界、それは仕方ないことじゃないかな」と不敵に言い切った岬を彷彿させる言葉です。 「――フン! 必ず追い出してやる! ロマーノの次に辞めていくのはジャポネーゼ、貴様だ!」 マッティオは捨て台詞を吐いて行ってしまいました。 新伍を追い出したところでロマーノが帰ってくるわけでもないでしょうに。 新伍は呆然としています。おれ、なんでこんな嫌われてんの? 戸惑いの色が隠せません。 さて翌日です。今日の練習は紅白試合形式です。 「フランコ!」 「パスだ、ジャポネーゼ!」 フランコはわざとトラップできないような強いパスを送りました。 さっそくいじわるモード全開です。 「ヘーィ、ジャポネーゼ。そんなボールもトラップできないのか」 「そ、そんな。こんな距離で思いきりパスしといて!」 「サッカーは下手なクセに口だけは達者なんだな、ジャポネーゼ!」 「なにィ!?」 「だったらこれはどうだ、ジャポネーゼ!」 そういって今度は変な回転を加えたボールを打ってきます。 他のメンバーも新伍いびりに余念がありません。 「へへへっ、やっぱりダメじゃないか。ジャポネーゼ」 スパイクを磨きながら試合を見ていたカリメロが早くも状況に気づいたようです。 なのに監督やコーチはてんで気づかない様子。 ていうかカリメロがやたら慧眼すぎてそっちのほうがむしろ疑問です。 「走れ、ジャポネーゼ! それっ!」 「強すぎる!?」 フランコのパスに追いつけず、ギリギリのところでラインを割ってしまいます。 「なんだ、そんなタマにも追いつけないのか?」 「くっそぉ、見てろ!」 負けじとフランコのボールをカットしますが、別の選手に後ろからタックルされます。 みんなで一致団結して新伍を追い出そう作戦・絶賛実施中です。 そんなエネルギーがあったらもっと建設的な方向に使った方がいいと思います。 ふと思ったんですがインテルユニオーレスの実質的なリーダー格はマッティオなんでしょうか。 たしかにMFで背番号10番。日本で言うところの翼ポジションです。 キャプテンはジノですが、彼もなんとなく仲間内で敬して遠ざけられている存在なような。 「あいつは俺たちとは別格だもんなー」って風に。 その後もあの手この手とイヤガラセが続きます。 ロッカールームの扉にバーンと日本のW杯予選敗退の新聞記事を貼ったり、新伍のロッカーを荒らしたり等々。 いい加減ブチ切れた新伍が無謀にも叫びます。 「日本人のおれがそんなに憎いのか!? だったらこんなイヤガラセしないでかかってきやがれ! いつでも相手をしてやるぜ!」 「なに怒ってんだ、こいつ?」 「ヘッ、これだからジャポネーゼは参るぜ」 「誰か、やった奴見たか?」 「最初からそうなってたんじゃねえの?」 十中八九こいつらの犯行ですがいかんせん物証がありません。 イタリア人はなかなかの知能犯です。 人気のない練習場で新伍は両膝に顔を埋めてひたすら落ち込んでいます。 常日ごろから明るいヤツがいったん落ち込むと果てしなく暗いです。 隣でスパイクを磨きながらカリメロがなにげない風にたずねました。 「どうしたシンゴ、元気がねえな」 「カリメロ……おれはみんなと仲良くなりたいのに……」 「みんながパスを回してくれんのか?」 「違うよ。わざとトラップできないような強いパスをしたり、おれがボールを持つとすぐに強いタックルやチャージしてくるんだ」 ハンブルグJrユースのイジメに比べればなんてことない気もしますが。 あの時の若林イジメはもはやリンチの域に達していました。 むろん若林もやられっぱなしではいません。 お礼参りのタイマン勝負で敵を律儀に全員ぶちのめしています。これなんて格闘マンガ? 「なーんだ、そりゃよかったじゃねえか」 「ええっ?」 「だってそれだけお前にとっちゃいい練習になるってことだろ」 「で、でもおれがミスをするとそれを監督やコーチに言うんだよ。ジャポネーゼはダメだって! このままじゃあおれ……」 「シンゴ。ジャポネーゼってどういう意味か知ってるか?」 カリメロは澄ました顔で変なことをたずねてきます。 “Giapponese” 英語で言うところの“Japanese”ですね。 日本人とか和風とかまあそんな感じの意味。 「日本人ってことだろ。バカにしたようにジャポネーゼ、ジャポネーゼって言われると、超ムカつくよ!」 「ジャポネーゼには日本人っていう他にサッカーの下手な奴っていう意味も含まれてるんだ」 つまりマッティオたちは「日本人」と「サッカー下手なヤツ」の二重の意味合いで新伍をジャポネーゼと呼んでいた訳です。 イタリアで「サッカーが下手なヤツ」なんてカナヅチのカッパにも等しい印象です。生命体としての存在意義すら危ういです。 むしろ「小猿」「チビザル」と揶揄された方がまだ名誉を保てるかもしれません。 「でもお前はサッカーのうまいジャポネーゼだ。そうだろ?」 カリメロの言葉になんのてらいもなくうなずきます。 新伍の辞書には謙遜という文字もないようです。 ただイタリアで謙遜なんてものは無用の長物なのでノープロブレムです。 「だったらイタリア人以上のプレイを見せてみろ。そうすりゃみんなもきっとお前を認めてくれるさ」 「イタリア人以上のプレイ……よーし、やってやる! 誰にも負けないプレイをする選手になってやるぞ!」 夕日に向かって力いっぱい誓います。もう立ち直りやがりました。 「その意気だ。ハハッ、やっといつものシンゴに戻ったようだな」 「あはははっ!」 「そうだ、いいものをやろう。さあ、持っていけ」 「ありがとう、カリメロ! こ、これは……!」 受け取ったスパイクシューズを見て新伍が驚きます。 一昔前のスポ根ドラマの鉛入りブラックシューズでも目にしたかのような表情です。 超アヤシゲなカリメロシューズの正体は一体!? |
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