■ キャプテン翼J 第35話 葵新伍登場! 誓いのコイン | 戻る ‖ 2006.10.18 |
ミラノ国際空港に飛行機が到着。 空港ロビーは黒山の人だかり。やたらめったら白熱しています。 「まもなくW杯予選を終えたイタリア代表の選手達が出てきます。ロビーは英雄達の凱旋を待ちわびるサポーターたちでパニック状態です」 観衆が凱旋を待ちわびているってことは予選通過したってことですね、イタリア代表。まあ当然といっちゃ当然でしょうが。 居並ぶ全員が彼らの到着を今か今かと待ちわびています。 なのに扉から現れたのはコザル一匹でした。 泰山鳴動してネズミ一匹並みの衝撃です。 フラッシュに目が眩みきょとんとする葵新伍。 なにをどうカンチガイしたんだか小脇にボールを抱えてポーズを取り、 「イェーイ! ……あれ、どうしたの? おれを迎えてくれたんじゃないの?」 んな訳ねーだろとばかりに憤るサポーター達からの激しいブーイングを喰らっていると、後ろから真打ち登場。イタリア代表の一団です。もう周囲の視線は彼らに釘付けです。 新伍は代表のもとに殺到するサポーター&報道陣にもみくちゃにされてしまいました。 「な、なんなんだよ〜あいつら? もーう頭にきた! このヤロー!」 思わずカッとなってイタリア代表めがけて渾身のシュート。現実では到底許されない短絡無謀な行為ですが、キャプテン翼では日常茶飯事の光景です。陽一ワールドではこれしきの攻撃、軽く避けられない方が人として間違っているのかもしれません。しかしこのボールはイタリア代表選手に難なくトラップされてしまいます。 「――あ」 「やい、ジャポネーゼ! ボッジョがケガでもしたらどうすんだ?」 「ボッジョ? ひょ、ひょっとしてロベルト・ボッジョ!?」 「ジャポネーゼ。いいシュートだったぞ」 ボッジョは新伍にボールを蹴り返して立ち去りました。 サポーターもボッジョも新伍がジャポネーゼだと看破しています。恐るべきイタリアンの眼力。背中にメイドインジャパンとでも明記されていたんでしょうか。 つーかロベルト・ボッジョって唯一無二のファンタジスタのパチキャラですか? 「イタリアについた早々、セリスAのスーパースター、ロベルト・ボッジョに会えた!? 超ラッキー!!」 新伍は脳天気に飛び上がって喜びます。 見ず知らずの人間の後頭部めがけてシュートを放ったことなんざ綺麗サッパリ忘れてます。 なおセリエAではなくセリスAなのはたんなる大人の事情です。 「おれ、葵新伍。世界一のプロサッカーリーグといわれるセリスAに入るため、イタリアにやってきた」 車窓を流れゆくミラノ市街を眺めながら視聴者のために自己紹介してくれます。 セリエ…でなくセリスAに入るためにイタリアにやってきたとか脳天気なことをほざいてますが、下宿についたとたん問題発生です。 「ええぇ〜〜〜!?」 「とってもいい人だったんだけど三日前にポックリ逝っちゃったんだよ」 「そ、そんなぁ……おれ、新之助じいさんしか頼る人いないのに。ああ…これからどーすりゃいいんだよぉ……」 原作同様、親戚の爺さんは無責任にポックリ逝ってました。 さすがの新伍も大ショックで落ち込んでしまいます。親切にも下宿のオバサンが、 「そう嘆くんじゃないよ。家賃さえ払ってくれればあんたが新之助の部屋に住んでもいいんだよ」 「ホント!? ありがとうおばさん!」 「でも家賃が払えないんならすぐ日本に強制送還だからね」 「うん!」 あっという間に立ち直りやがりました。 どうやら住居の確保>身内の不幸なようです。 「とりあえず住むところはなんとかなったぞ。よーし! 明日からはサッカークラブに売り込みだ!」 コザルの辞書に下調べという文字はないのです。 考える前に走り出す脊髄反射タイプにありがちな行動ですね。 イタリア語に関しては事前に独学でマスターしたっぽいですが。回想シーンで「イタリア語らくらく4週間」まがいのテキストで自学自習しています。弱冠15歳にしてヒアリング・会話・読解ともに苦労している様子はありません。新伍はアホの子に見えてじつは語学の天才なんでしょうか。 そういえば翼はポルトガル語習得のためネイティヴの家庭教師を雇ってました。ずいぶん後の話ですがRoad to 2002の日向もイタリア語習得のさい、私は兎が好きだとかなんとか「I am a boy」並みに阿呆な例文相手に苦労してます。「私は兎が好きです。」愛玩動物としてでしょうか、それとも食材としてでしょうか。謎は尽きません。 それはともかく翌日。宣言通りサッカークラブに売り込みにいきましたが、 「だめだだめだ。さっさと帰るんだ」 「待ってくれよ! おれ、せっかく日本からやって来たんだ。入団テストくらい受けさせてくれよ!」 「日本だって? フン。W杯に一度も出場したことがないサッカー後進国じゃないか」 「そういうこと。受けさせるだけムダってもんさ」 すげなくインテーナの職員二名に門前払いを喰らいます。 なおインテルではなくインテーナなのはたんなる大人の事情です。 「くっ、バカにしやがってぇ! 葵新伍サマを入団させなかったことを必ず後悔させてやるからなー! プロチームはここだけじゃないんだぞ!」 威勢のいいこと言ってますがこの時点で新伍はACミラルにも門前払いされてます。 なおACミランではなくACミラルなのはたんなる大人の事情です。 時々考えます。もしも新伍がACミラルに入団していたならば…と。 この場合、ミラルユニオーレス主将テオバルド・コンティーネと最強ツートップを組んでインテーナゴールを脅かしていたのかもしれません。コンティーネとのワンツーで鮮やかにマッティオを抜き去り、むやみやたらに集中線を背負って「よーし! 行くぞ、ジノ・ヘルナンデス!」。妄想の泉は尽きません。 ミラルはキーパーがザルっぽいのが玉に瑕だけど。 ふいにインテーナ事務所から変なおっさんが現れました。 「君。ここのサッカークラブに入りたいのかい?」 「え…? うん」 「だったら私がジュニアチーム、インテーナの監督を紹介してあげよう」 「え?」 「なんだったら明日入団テストを受けられるよう頼んであげてもいいよ」 「ほ、本当!? 頼むよおじさん!」 「明日、昼の一時に入会金と手数料をしめて200万リラを持ってここに来たまえ」 「に、200万リラ!?」 「ああ」 「200万リラを持ってくれば本当に入団テストを受けさせてくれるんだね!」 「私はインテーナの役員をしているものだ。間違いない」 このうさんくさいオッサンにころっと騙されてしまいます。 新伍の辞書には疑うという文字もないみたいです。 根っからの楽天家はひと味違いますね。 翌日、うさんくさいオッサンの車でインテーナ練習場へ向かいます。 「ここがインテーナの練習場だ」 「すっげえ〜」 次いでバスか到着。中からぞろぞろ選手が降りてきます。 「あのジャケットを着ているのがジュニアチームインテーナの監督ニコラ・バッシだ。話はしてある。挨拶してきたまえ」 「うん」 バッシ監督? でもその人はダリオなんですけど。それとも中の人がバッシなの? 新伍がバッシ監督(外見はダリオ)と話しているスキに、例のうさんくさい男が車を急発進させました。原作同様こいつは詐欺男だったようです。 新伍は唖然として車を見送っていますが、筆者の視線は監督の左後ろに控えるジャージ姿のジノ・ヘルナンデスに釘付け。 「ホントにおれの入団テストのこと、あの役員の人から聞いてないんですか!?」 「ああ。残念ながらうちの入団テストは当分の間ないよ。それにあの男はうちの役員じゃない」 「そ、そんなぁ……」 ようやく騙されたことに気づきますが時すでに遅し。 その後、新伍は噴水の縁に腰を下ろしてどんより落ち込んでいます。 柄にもなくシリアスに鬱ってますね。どうせ長続きしやしないでしょうが。 と思ったところ案の定、盛大に腹の虫が鳴きました。 「は、腹減った……」 「ヘーイ、どうした少年。太陽の国イタリアでそんな陰気な顔は似合わねえぜ。ほらよっ!」 そう言って向かいに座った靴磨きのおっさんがパンを投げてくれました。 まるで公園のリスや鳩に餌をやるような風情です。 今日はミラノの小動物愛護デーかなんかなんでしょーか。 「人間空きっ腹のときほどみじめになるもんだ。遠慮しねえで食いな。そうすりゃ元気が出るって」 「あ、ありがとう!」 靴磨きのおっさんの好意をありがたく受けてひとまず腹の虫は収まりました。 食べてる間にざっと事情説明もすませたようです。 おっさんは新伍の話にいたく同情を示して、 「そうか。そりゃひでぇ目にあったな。イタリアは日本と違ってそういう輩が多いから気をつけるんだな」 「うん。おじさんのおかげで元気が出てきたよ」 「そうか」 とかなんとかやりとりしてると彼方からパトカーの音が近づいてきます。 靴磨きのおっさんが血相を変えて腰を浮かします。 なにか世間に申し開きの出来ないウシログライ所でもあるのでしょーか。 「やっべぇ、ぼうず、またな!」 「――あ、おじさん!?」 「待てぇー!」 おっさんの後を二人の警官がものすごい勢いで追いかけていきます。 あたかもお魚くわえた野良猫を裸足で追いかけるサザエさんのように。 予想外の展開に新伍が呆気にとられて立ちすくんでいると、三人目の警官に詰問口調で訊かれます。 「おいぼうず。お前あの男とどういう関係だ?」 「さっき知り合ったばかりだけど……おまわりさん! あのおじさん何者なの!?」 「指名手配中の窃盗犯だ」 「ええぇっ〜〜〜!? せ、窃盗犯〜〜〜!?」 親切な靴磨きのおっさんの正体は窃盗犯でした。 パトカー三台も乗り付けて追跡するほどの大物には見えませんでしたが。 ケチなコソ泥を捕まえるにしてはやたら気合いが入りまくってますね、ミラノ警察。 「おい、時間がないんだ。早いトコ頼むよ」 「ええっ、おれが?」 「お前しかいないだろう」 「ほ、ほんとだ……ま、いっか。パンをもらったお礼だ」 いつまでも噴水広場でボーっとしてるから靴磨きと勘違いされてしまいました。 そこはそれ、深く物事を考えない新伍です。さほど気にせず靴磨き稼業に専念するようになりました。イタリアでこの商売は存外に儲かるらしく、当初の目的はすっかり忘れて靴磨きに勤しんでおります。 数日後、靴磨き営業中の新伍の足下にサッカーボールが転がってきます。 「お兄ちゃん、ボール取って!」 「やー、なんかボール蹴るのも久しぶりだなぁ」 そう言って得意のリフティングを始めます。 ボール蹴るのが久しぶり? ちょっと待て新伍。サッカーの練習はどうした? お前イタリアになにしに来たんだ? と筆者ならずとも突っこみたくなる発言です。 相当怠けていた割にリフティングの腕は少しも衰えていないようで、 「うまーい!」 「すごいよ、お兄ちゃん!」 「へへ〜! とっておきの大技を見せてやるぜ!」 大空に高く蹴り上げたボールをバク転して追い、見事トラップ。 いつのまにか噴水広場には人だかりが出来ています。どうやら路上の大道芸かなにかと勘違いされたようです。 今さら言うのもなんですが新伍は根っからのお調子者です。観衆の拍手喝采にすっかり気を良くし、さらに気合いを入れてリフティングショーに励んでいると、 「日本人てのはああいう小手先の芸が得意なんだよな」 「いくらリフティングがうまくてもいざ本物のサッカーになるとてんでダメだもんな」 二人のオヤジの心ない言葉が胸にグッサリ突き刺さります。 新伍はようやく当初の目的を思い出しました。 「そうだ、おれはリフティングを見せ物に……こんなはした金を稼ぎにここに来たんじゃない。おれはイタリアに、本場のサッカーをやりに来たんだ。なのに……! こんなみじめな思いをしてまでイタリアにはいたくない!」 「サッカー好きなら諦めるなよ」 落ち込むあまり翼の幻聴まで聞こえてきました。もはや末期症状です。 「翼さん」 お守り袋から三つのコインを引っ張り出して呟きます。 「おれは一度だけ、大空翼さんと試合をしたことがあった。二年前、おれが中学二年生の時に。中学のサッカー選手権でV3を狙う南葛中におれたちは守り中心の布陣を敷いたが、通用しなかった」 新伍が中原中の12番だった頃の話が始まります。 守り中心の布陣、それはFWの新伍のみ前線に残して、あとのメンバー全員で猛攻に耐え抜き、かつ隙を見てカウンター攻撃を狙うというものでした。 しかし中原中のヘボい仲間たちは南葛にいいようにあしらわれて手も足も出ません。 待てどくらせど来ぬボールに苛立ち、ついに新伍は猛然と走り出しました。 「こんなんじゃ南葛からゴールを奪えやしない」 「新伍!? 作戦が違うぞ!」 「あんたらに任してたら一生待ってもおれのところにボールは来ないんだよ!」 仲間に怒鳴り返すとあっというまに井沢からボールカット。 正直なところ筆者には新伍と井沢の見分けがつきませんでした。クライフォートとジェンティーレを見分ける以上の難題です。南葛と中原中、ユニフォームが違ってもこのザマ。二人とも日本代表ユニフォームになったらどんなことに。 「よっしゃあ。見てろよ南葛!!」 「井沢の借りはおれが返すぜ!」 ←来生 来生と滝がドリブル突破をはかる新伍の前に立ちはだかります。 気合いは十分でしたがいかんせん実力差は如何ともし難く、二人ともあっさり新伍に抜かれてしまいます。 「なにィ!?」 「ようし、いける! 南葛相手でもおれのドリブルは通用するぞ!」 残る壁は石ザル…ではなく石崎と高杉のDFコンビだけです。 「やるじゃねえかちっこいの! でも守りの要のおれたちを抜けるかなー!」 ←石崎 気合いは十分でしたがいかんせん実力差は如何ともし難く、新伍は余裕の表情でフェイントをかまして二人とも抜き去ってしまいます。 陽一ワールドでDFがただの背景と化すのは日常茶飯事です。 「なにィ!?」 「しまったぁ〜!?」 ←高杉 「マズい、キーパーと一対一に!?」 ←来生 確かにマズい。超マズい。だってキーパーは森崎です。 ここで新伍にシュートされたら失点は確実。 誰もがあきらめかけたそのとき、ふいに翼が現れて新伍の前に立ちはだかりました。 「南葛中キャプテン大空翼さん。あんたを抜く!!」 新伍は逃げもせずかわしもせず翼に真っ向勝負を挑みます。 二人の対決はあっけなく終わりました。言うまでもなく翼の勝ちです。 ボールをキープしたまま翼が南葛メンバーに檄を飛ばします。 「練習試合だからって気を抜くな! この試合、まだまだ点を取るぞ!」 翼は大人げなく虐殺モードです。少なくとも二桁得点は狙っていそうな予感。 「くっそう、このおれが速さで負けるなんて……!」 翼との激突で足を負傷した新伍は途中交代させられた挙げ句、監督の作戦に従わなかった罰として正座を命じられます。 結局試合は11-0で南葛中の大勝利に終わりました。 後のバルサの虐殺を彷彿させるムゴいスコアです。 「今日はありがとうございました。一生の思い出です! 全国大会V3目指して頑張って下さい!」 「いやあ〜ありがとうございました!」 チームメイト達と監督はせっせと想い出作りに勤しんでます。 なんですかこの覇気のなさは。これもゆとり教育の弊害なんでしょうか。 勝てない相手にもとりあえず全力で当たれ、といった熱いハングリーなハートを彼らはどこかに置き忘れてきたようです。 こんなザマでは城陽茜ヶ丘の面々にしばき倒されても文句言えません。 100年1000年たっても意地と見栄は捨てないで〜♪とEDソングも促しているというのに。 ただひとり新伍だけがハングリーハート全開です。 正座させられたまま口惜しさに身を震わせて無様な仲間達をにらみつけています。 「なにニコニコしてやがんだ!? バカたれ! こんな大差をつけられてあんたら悔しくないのか!? やめてやる……こんなサッカー部なんかやめてやる!」 サッカーとの決別を胸に誓い歩き出す新伍の肩を叩いたのは翼でした。 「いい動きしてたぜ12番。サッカー好きなら諦めるなよ」 翼は軽く手を振ってその場を去っていきました。その背中を新伍は呆然と見送ります。 翼は新伍にシンパシーでも感じていたのかもしれません。 「あの時からおれは翼さんのようになろうと思った。日本をW杯で優勝させるためにブラジルに旅立とうとした翼さんを、おれはどうしても見送りたかった」 空港をひとり静かに歩く翼に新伍が叫びます。 「翼さーん! あ、あの、ブラジルへ行っても頑張って下さい! ――それじゃあ!」 「中原中の12番! 君も頑張れよ!」 翼はたった一度会っただけの新伍のことを覚えていました。 サッカーのことしか頭にないサッカー馬鹿の翼にしては上出来です。 よほど新伍の印象が心に焼き付いていたのでしょう。 東邦学園との死闘のさなか「ああ、ここで井沢と中原中の12番をトレードできたらどんなにラクに……!」とかフトドキなことを考えていたに違いありません。 「それっ!」 翼が新伍になにか放り投げます。受け取るとそれは三つのコインでした。 「アメリカの25セントとフランスの10フラン、それに日本の100円硬貨だった。それは94年のアメリカ、98年のフランス、そして2002年のW杯開催を目指している日本。翼さんはこの三つのコインにW杯で優勝しようというメッセージを込めておれに投げてくれたんだ」 なんともまあ都合良く三種類のコインがポケットに入っていたものです。 翼自身、日本のW杯優勝を誓って常に携えていたのかもしれません。そのお守りを新伍に渡したってことは、一緒に同じ夢を見ようぜってことなんですかね。 新伍は手のひらのコインを見つめながらあらためて自分に誓いました。 「翼さん。諦めないよ。おれはあなたと一緒にW杯の日本代表に選ばれるためにこのイタリアに来たんだ。夢は捨てない。おれは太陽の国イタリアで頑張るよ! 絶対負けないぞ!」 そして朝靄たちこめる人気のない田舎道に場面が変わります。 たぶんアッピアーノ・ジェンティーレに続く農道だと思います。 新伍はミラノからインテーナ練習場までドリブル疾走してきたようです。 「今日は誰も練習してないや。ん?」 開いている柵を見つけて中に入ります。 一人のおっさんが玄関先の階段に腰を下ろしてスパイクを磨いています。 新伍はあわてて物陰に隠れて様子を窺います。 「うわぁ、選手のスパイクをあんなに磨くのか〜」 「な、なんだてめぇ!? どっから入ってきやがった!?」 「いや、あははは。おじさん、手伝おうか?」 「コラァ勝手にさわるんじゃねえ!」 「おれ、靴磨き得意なんだよ」 「ん?」 用具係らしいおっさんは新伍の足に視線をやると、 「おめえ、サッカー選手になりてえのか?」 「う、うん」 「ふぅん、そうか。お前なかなかいい足してるぜ。何人もの有名なサッカー選手を見てきたオレが言うんだから間違いねえ。その足はサッカーのできる足だ」 「ほ、ホント!?」 「ああ」 足を褒められて大喜びです新伍。 サッカーのできる足……って具体的にどんな足なんですか? 大腿四頭筋が異様に発達しているのですか? それともここは理屈ではなく魂で感じろということなんですか? 「おーい、カリメロ! ちょっと!」 「わりぃな、少し待っててくれ」 ここで用具係のおじさんの名前が判明します。その名もカリメロ。 筆者の頭を卵の殻を被った黒いヒヨコがよぎりました。 「よーし、おれの足を褒めてくれたお礼だ!」 カリメロの不在をいいことに新伍はスパイクを磨き始めます。 「て、てめぇ!? 勝手に触るなと言った………お? なんだおめえ。スパイク磨きもなかなかいいスジしてるじゃねえか」 「えへへへへ〜」 いつのまにか靴磨きの腕もアップしていたようです。 一時はサッカーも忘れて没頭していただけのことはあります。 「ほれ駄賃だ」 「いいよいいよ。今日はおれの足を褒めてくれたお礼だよ」 「それじゃあこのオレ様の気持ちがおさまらねえ。いいからとっとけ!」 「だったら明日から毎日スパイク磨き手伝うから、インテーナの練習、見学させてもらえないかなあ?」 「そんなことでいいのか?」 「うん」 「わかった。じゃあ明日から来な」 「やったあ!ありがとうおじさん!」 「おいおい、おじさんはねえだろ。カリメロと呼んでくれ」 「おれ新伍。葵新伍ってんだー!」 「シンゴか。よろしくな相棒」 めでたく新伍はカリメロの助手ポジションをゲットしました。 靴磨き→大道芸人→用具係助手と日々着実に?ランクアップしています。 練習場の脇でスパイク磨き手伝っているとカリメロが教えてくれます。 「あれがうちのユニオーレスの選手達だ」 「ユニオーレス?」 「ああ、15歳から17歳のセリスAを目指すジュニアサッカーのエリートたち」 新伍と同年代の選手達です。興味津々の眼差しで見ていると一人の選手が近づいてきます。 「おい、カリメロ。スパイクが壊れちまってよぉ! これ借りるぜ!」 白ビブスの9番はカリメロの手からシューズをひったくって行ってしまいました。 「なんだあいつ。態度が悪いヤツだなあ!」 「気にするな。あいつはたいした選手じゃねえ」 「え?」 「いいかシンゴ。これだけは覚えておけ。一流選手ほど道具に気を遣い、大事にするものなんだ」 妙に楽しげに語るカリメロの顔つきが気になって仕方ありません。このおっさん一体なにを企んでいるのでしょう。 紅白試合が始まりました。 さっそく白ビブス9番が何かに足を取られて転んでしまいます。見たところたいしたケガじゃなさそうなのに、ものすごい痛がりようです。 「あいつが慌てて持っていったスパイクは、ポイントが完全に付いていなかったんだ。これでヤツも少しは道具の大切さがわかったろうよ」 カリメロはそのことを知っていてあえて黙っていたのです。軽い意趣返しというところですか。 用具係にも五分の魂。ゆめゆめ甘く見てはいけません。 9番が担架で運ばれていきます。ピクリとも動きません。意識がないなんて重傷にも程があります。やはり道具係のウラミは恐ろしいです。 バッシ監督がダリオに言います。 「誰か代わりの選手を白組に」 「それがあいにく今日はメンバーぎりぎりなんです」 「うーむ、しょうがない。じゃあこのまま11人対10人でやるか」 バッシがダリオで、ダリオがバッシ。 やはり『おれがあいつで、あいつがおれで』並みにキャラと名前が入れ替わってます。原作のバッシ監督がダリオに、そしてダリオがバッシ監督になってますよ。ふとしたはずみに二人の身体が入れ替わってしまったんでしょーか。 カリメロが立ち上がりました。 「さあ、出番だぞシンゴ」 「ええ?」 「ヘーイ、バッシ監督! 代わりの選手ならここにいるぜ!」 「カ、カリメロ!?」 「シンゴ! チャンスを生かすかどうかはお前の腕、いや足次第だ」 「……カリメロ。ありがとう、カリメロ!」 白ビブスを着けスパイクを履きながら新伍は心の中で叫びます。 「やる! おれはこのチャンスを絶対に掴んでみせる! 見守ってて下さい、翼さん!」 あいかわらず翼しか眼中にないようです。 サッカーのことしか眼中にない翼よりは人として幾分マシかもしれませんが。 試合再開です。新伍はピッチに駆け出しました。 「よーし、行くぞ〜!!」 |
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