! WARNING !

話の都合で新伍が太陽王女です。苦手な方は回避お願いいたします

ギャグなのでたいしたことはありませんが念のため。




























  偵察に行こう! 2008.09.11

パスカルは目前で繰り広げられる試合内容に首を捻らずにはいられなかった。

ハンブルグJrユースの動きに精彩がまるで無い。
明らかに格下の相手、日本Jrユース相手に攻めまくられて防戦一方とはどういうことだ。

「……あれがバルバス監督の言ってたヨーロッパナンバーワンのチームなのか? とてもそうは思えないな」

そう呟いてフェンスの近くに立つ木を見上げた。
樹上ではディアスが足をぶらつかせながら試合見物している。

ディアスは昔から高い場所が大好きだ。
ナントカと煙が高所を好むのは古今東西変わりない。

「遊んでるのさ。まあ見てなって」

やけに自信ありげにディアスが言った。

そうか? と内心首を傾げつつピッチに視線を戻す。
ほぼ同時に日本の背番号12番がシュートを放った。
やたらに低い弾道のボールはあたかも地面を這うようにゴールに突き進んでいく。
やれやれ。これで今日何本目のシュートだろう。

ザルに等しいハンブルグのDFの守備陣のせいで、ペナルティエリア付近は日本のシュート打ち放題スペースと化している。なのに未だハンブルグは失点ゼロ。
日本がシュートを打ちまくっても涼しい顔で全てキャッチしてのけるGKがいるのだ。

さっきの超低めのシュートもこいつの横っ飛びでキャッチされてしまった。
並のキーパーならゴールを決められていただろう。あのハンブルグのキーパーも日本人みたいだが、意外とやるもんだな。そう思ったとたん、

「なかなかやるなあのキーパー。だが俺ならあの程度のシュート、全部正面で取ってみせる」

自信に満ちたイタリア語にふと横を見る。

いつのまにか隣に背の高い茶髪の少年が立っていた。
見るからに育ちの良さそうなお坊ちゃん風で、こいつ本当に今のセリフを吐いた本人なのかと一寸考えたが、もう一度横目でさりげなくチェックして合点がいった。

彼は凪いだ海のように穏やかな表情で試合を観ていた。
大言壮語でもなんでもなく事実をありていに述べただけ、と言うような不敵な笑みを浮かべて。

ふと思った。自分は確かにどこかでコイツを見たことがあるような無いような。
しばらく考えてみたが思い出せない。

「――なあディアス、ちょっと」

問いかけるように見上げた樹上には影も形もない。
ディアスの奴どこに行ったんだ?

「イエーイ、そこのちょー可愛いカノジョ! こんなつまんない試合観るの止めてオレとどっか遊びに行こーぜ〜!」

パスカルは脱力のあまり危うくその場につんのめって倒れるところだった。
こ、この聞き慣れたバカっぽい陽気な声は……!

「ちょ、ディアス―― !? オレたちは偵察に来てるんだぞ! なにのんきにナンパなんかしてんだよっ !?」

ディアスを大声で怒鳴りつけてからふと気づく。

あ、ホントに可愛い。

「ほえ? カワイイ? わーい、嬉しいな〜!」

ツインテールの長い黒髪に大きな黒い瞳が印象的な可愛らしい少女だった。

南国の太陽のように輝く笑顔には一点の曇りもない。まるでゴールを決めた時のように両手を広げ、軽やかに飛び跳ねながら体全体で喜びを表している。
陽気なアルゼンティーナだってここまでテンション高い奴は滅多にいない。

流ちょうなイタリア語喋ってるから東洋系イタリア人あたりか。
アルゼンチンにもイタリア系移民はいっぱいいるけど、さすが本場イタリア人のネアカっぷりは常軌を逸してるってかひと味違うな。

パスカルが変なことに感心している間も会話は続いていた。

「あたしはアオイよ! あなたは〜?」
「オレはファン・ディアス。十年にひとり出るかでないかの天才……うぉわっ!?」

調子よく軽口叩いてたディアスが突然すっとんきょうな声をあげた。

何事かと目をやって唖然とする。
なんと背後から伸びた両手がディアスの顔を挟み込み、ものすごい力でぎゅうぎゅう圧迫しているではないか。正面からだと日系人がライスボール握ってるように見える。

「ははは。新大陸の天然アミーゴ君はムダに元気で陽気だねえ」

押さえつける手にさらに力を込めて、茶髪の少年がにこやかに言った。

いっけん爽やかな笑顔だが目がちっとも笑っていない。
それどころか静かな怒りが透けて見える。
まさかディアスが声を掛けた女、こいつのツレか?

アオイと名乗ったツインテールの少女がパッと顔を輝かせてのたまった。

「きゃ〜オニギリみた〜い! カワイ〜!」

茶髪も大概ヒドいがこちらも負けちゃいない。

おいおい。カワイイっていうかむしろ可哀想だろ。そこの好青年の皮を被った茶髪の鬼畜と知り合いなんだったら、ヤツの暴挙を止めてくれよ、頼むから。

しかしアオイは興味津々の眼差しで、今やシュールな梅干し風味のライスボールと化したディアスの顔を楽しげに眺めている。無邪気は時に残酷だ。

ため息をひとつ漏らすとパスカルは口を開いた。

「あのさ、そこら辺で勘弁してやってくれないか」

ディアスはバカで人騒がせなヤツだけど悪気はないんだ、と付け加えようとした時、周囲からひときわ大きな歓声がわき起こった。

反射的にピッチに目をやると、日本の9番が天高く吹っ飛んでいた。
吹っ飛ぶというのは言葉のあやでもなんでもない。実際色黒でガタイのでかい袖まくり兄ちゃんが地球の引力を無視して垂直方向にぶっ飛んでいるのだ。

こんなのアクション映画の爆発シーンでしか見たこと無い。単発ギャグにここまで体を張るとは、さてはヤツは筋金入りの芸人か?

と思ったら残念ながらそうじゃなくて、ハンブルグの10番カール・ハインツ・シュナイダーが真上に蹴り上げたボールが腹に直撃して、そのまま一緒に宙を舞ったらしい。

9番は背中から地面に落下した。ハンパなく痛そうだ。
フツー死ぬぞこんな落ち方。ていうかこれ思いっきり反則だろ?

だが茶髪の見解は違った。

「反則なんて審判のフエが鳴らなきゃ問題ないさ」
「そーそー! あんなファウル喰らうほうがマヌケなんだって」

ディアスも小馬鹿にした口調で偉そうに言ってのける。

にわかに改心した茶髪が手を放したのか、それとも自力でおにぎり地獄から脱出したのかは定かでないが、どっちにしろ両頬にクッキリ残る茶髪の手形の跡がマヌケな感じ。

またもや大歓声がこだまする。
パスカルがディアスの頬を観察していたわずかの間に、いともあっさりシュナイダーがゴールを決めたようだ。

「ほえ〜マリーのお兄さんってば相変わらずいろいろスゴイねえ〜」

アオイが独特のホニャララしたのんびり口調で言った。

スゴイってのはわかるが、いろいろってのはどういう意味なんだ?
妙に気になってアオイに尋ねようとしたら、ディアスがぶーたれた顔で割り込んできた。

「なんだよ〜あんなんよりオレのがずっとスゴイんだぞ!」
「うんうん。アンタもすっごくステキよね」

ディアスの頭の天辺からつま先まで値踏みするように観察してからニッコリ笑う。

「でもね。あっちの背番号10番の彼はもっとステキ!」

アオイはうっとりした表情で日本側のベンチを指さした。

「は? 日本の10番? そんなのいたのか?」

パスカルは面食らった様子で首を傾げた。
日本ベンチを眺めやると確かにいた。背番号10番の少年が。

曲がりなりにもエースナンバー背負った選手がなんでベンチウォーマーなんだ?
ハンブルグに押しまくられてるこの状況で温存策のワケないし、だとしたら故障か。その割に見た感じ元気そうだけど。

考え込むオレの横でディアスが叫んだ。

「なんだってぇ !? ……よーし、そんならオレとあいつのどっちが上か白黒ハッキリさせようぜ! そこの日本の10番! 一対一で勝負だ――!」

宣戦布告するやボールを小脇に抱えてフェンスに手を掛ける。パスカルは真っ青になった。

「ちょ、ディアス、試合中だぞ落ち着け―― !? どうしてもってんならピッチを横断するのだけはやめろ! おとなしく迂回して日本ベンチに行ってくれ!」
「えーそんなのメンドーじゃん。ここ一気に突っ切った方がずっとイイって!」

顔だけ振り向いてニッと笑う。ああダメだこりゃ。

ディアスがそのままひらりとフェンスを飛び越えようとした瞬間、背後から伸びてきた手に襟首をむんずと掴まれた。茶髪は網戸に爪を立ててへばりついた子猫をはがすみたいに、フェンスからべりっと引っぺがす。

茶髪の右腕一本で宙づりにされたディアスは足をばたつかせながら叫んだ。

「うおわっ、なにすんだこのヤロー!?」
「やれやれ。ホント考えなしのおバカさんだね君は」

茶髪は呆れたようにかぶりを振って、もう片方の手でディアスの首の後ろに一撃喰らわせた。
アオイはピクリとも動かなくなったディアスを不思議そうにまじまじと見つめて、

「あれあれ? ねえジノ〜この子アタマがカクンてなっちゃったけど大丈夫?」
「心配ないって。彼、小柄な割に頑丈だからこれくらい問題ないよ」

もの凄い爽やかな笑顔でアオイにうなずいた。

いや、頑丈だとかそーゆー問題じゃないだろ。ヘタしたら死ぬぜこれ。
一連の非常識な光景を呆然と眺めながら心の中でツッコミを入れるパスカルだった。

ふいに思い出したように茶髪が言った。

「――もうこんな時間か。そろそろ行こうアオイ。急がないと間に合わない」
「え〜もう? つまんな〜い」
「君も試合があるんだろ」
「ほえ? あ、そーだった! コロっと忘れてた。てへっ」

アオイがなんの選手かは知らないが、そうあっさり忘れられては試合も(競技によってはチームメイトも)泣くだろう。
つい最近パスカルもディアスに同じコトやらかされてえらい目にあったものだ。

嫌な記憶を思い出して眉をひそめていると、茶髪がこっちに来いと手招きした。
あまり深く考えずに近づくと、茶髪の奴、こともあろうにパスカル目がけてディアスを放り投げた。とっさのことに受け身も取れず、ディアスに押しつぶされる形で地面に尻餅をついて倒れ込んでしまう。

茶髪は二人を見下ろすと口の端に笑みを浮かべて言った。

「―― 脳天気なディアス君によろしく。アラン・パスカル君」
「バイバ〜イ! じゃ、またね〜! チャーオ!」

最後まで騒々しいアオイの手を引いて、茶髪は振り返りもせず急ぎ足で立ち去った。
パスカルはしばらくぽかんとした顔で立ち尽くしていた。

「……あいつ、なんでオレの名前知ってんだ?」

誰にともなくつぶやく。

近日開催されるフランス国際Jrユース大会で彼らと再会することになるなんて、この時のパスカルは夢にも思っていなかった。




>あとがき
サイト開設二周年記念・企画モノ。アルゼンチン編。+ジノ&アオイ

あんな扱いで説得力の欠片もありませんが、私は南米キャラではディアスが一番好きですよ。
たとえアタマの中身がアオイたんと変わらないレベルでも。そこがいい。
この時点で翼と1対1対決したらディアスが勝ちそうですが、「へッ、どんなもんだい」と勝ち誇ったところでボールに躓いて転んで気絶して、結果翼の勝利になりそうな気も。

※アオイの試合=イタリア女子Jrユースとドイツ女子Jrユースのテストマッチ
試合をすっぽかされたマリーたんは烈火の如く怒り狂ってるでしょうね。


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