2002/10/9

呼び方






「ねえビッキー?」
「なあに、リウさん?」

いつもの笑顔
いつもの声で
彼はこんなことを言った。

「その『さん』はいつになったらとってくれるかな」

「・・・・・・・・・・・・ほえ?」
さんをとる…?
「ん?」

ほええええええ??

「つまり。『リウ』って名前で呼んでくれないの、ってこと」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
え。

「ええええええええええええええええええええっ!?」

びっくりして、手の力が抜け落ちた。その弾みでワンドが転がる。

「り、リリリリリリ、リウ・・・・さん?突然どうしてー…」
「突然?そうでもないんじゃないかな。だって、僕はずっと君のことを名前で呼んでるんだし。好きなひとに名前だけで呼んで欲しいってのは当然のことだと思うけれど」

それにしたって。
私にとっては突然だよ…
だってずっと『リウさん』って呼んでいたのに
いきなり呼び方を変えるのは、難しいよ。

「り・・・・り、リウ・・・さん」
「なんだい、ビッキー?」

にっこり笑う彼のことを、ほんの少しでも怖いと思ったのはこれが初めてだった。

うぅ・・・。
どうすればいいのかなぁ?



++++++




滅多に見られない、心底困った表情を浮かべる少女をみて
僕は「やりすぎたかな…」と少し反省をした。

別に困らせたかったわけでも、いじめたかったわけでもないんだけど…ね

「ごめんね」

どんな顔をしたら良いのか判らずに、すこしだけ俯き目をつむる。

正直に言うと、少女のいろいろな顔を見るのは楽しい。
だけど・・・名前で呼んで欲しかった、本当の理由は

すっと、顔を上げて真っ直ぐに彼女を見る。

僕は…本当は。
「僕の、さ。大切な人は皆名前で呼んでくれたから。だからビッキーにも呼んで欲しかったんだ。父さんとか…僕の親友のテッド・・それに、時々だけどグレミオも。」

成長するにつれて、グレミオが名前で呼ぶことはあまり無くなったけれど。
それでも、呼んでくれた時が有るのは確か。

「今も、呼んで欲しいなって思うよ。だけど…無理強いすることじゃなかったね。」


名前で呼んで。
それはあくまで僕のワガママだから
君の思いを捻じ曲げてまで呼ばせるなんて、卑怯だよね

「時間はまだいくらでもあるから。ビッキーが自然に名前だけで呼んでくれるまで待つよ、いくらでも。だから。いつかは絶対、リウって呼んで貰うよ?」

自然と、いつもの自信が帰ってきた。
そういつかは絶対呼ばせてみせる。
時間はきっと、たくさんあるから…



++++++




じかん…。
『時間はまだいくらでもあるから。ビッキーが自然に名前だけで呼んでくれるまで待つよ、いくらでも』

リウさんはそう言うけれど
でも

でも…

本当に、そうかな


彼にとっての時間は、私にとっては一瞬かもしれない
なのに、今言えなくていつかは言えるだなんてこと…あるの?

「僕、ちょっとトランに戻るよ。たまには顔を見せないと心配されるしね」
「ん…」

どうしよう
このままじゃあ行ってしまう
どうしよう・・・っ



「待って…」
オネガイ

「リウっ!」

どくん!

心臓がばくばくしてる。

今、今いまいま…私、自分から彼のこと名前で呼んだよ
うわわ・・・なんか、もう必死で呼び止めようとして。
やだ・・・顔が熱いよ。穴があったら入りたい〜。

「ビッキー…」

まじまじと視線を注がれているのが判る。
「ううっ・・・見ないで・・・恥ずかしいよ〜」

くすくすと、涼やかな笑い声が響く。
「うん。見ないからさ、もう一度・・・呼んでくれる?」

もうっ。
「まだ…あんまり呼びなれてないんだよ・・・?」

そっと盗み見た、彼の顔はとても楽しそうな笑顔。
「うん。嫌ならいいけど?」

意地悪。
そんなことないって、知らないのかなぁ?

でも、仕方がないよね。
私はきっと、彼には敵わないから

「・・・リウ」

甘く甘く。ささやくその愛しい名。
その響きに目を細めながら、彼は。

「・・・有難う」

吐息を感じるほど間近でささやき返す。

「ビッキー」



今までで一番あまい声だった。












                                        END


■ネコヤさんのひとこと■
食中りに注意。甘すぎで胸焼けしたかた、ごめんなさい。げほげほ。(逃走)
ちなみにグレミオが坊を名前で呼ぶなんて聞いたことないですね〜。ドリームです、私の。


■石猫のタワゴト■
祝・「さん」づけ撤廃宣言。
本当にカワイイですね〜ビッキーv
ついついイジメたくなるリウさんのキモチがわかります。←オイオイ?どうやらわたしも根っからイジメっこ気質らしいです(苦笑)。


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