2001/11/11
自由落下の法則
それはいつも、突然やってくる。 「ねぇ、ビッキー。聞いてもいいかい?」 僕がそう口を開くと、魔法使いの少女はきょとんとした顔をした。 「なぁに、マクドールさん?」 ビッキーが首をかしげると、彼女の黒髪がさらりと揺れる。 彼女の揺れる髪がくすぐったくなるぐらい、僕と彼女の距離は近い。 僕は何とか気を静めようと、時間をかけて一つ呼吸をする。 そして、口を開いた。 「どうして君は、いつも僕の上に落ちてくるんだい?」 気をつけて気をつけて、非難がましい口調にならないようにする。 それでもビッキーと僕の間には、白々とした空気が流れた。 なぜなら、今この場所で、空から降ってきた彼女は僕を下敷きにしているだから。 僕の背中に座ったまま、さすがのビッキーも乾いた笑いを浮かべた。 「ほんっとうにごめんなさい、マクドールさん!」 僕の背中から下りたビッキーが、慌てふためいた口調で謝ってくる。 大きな瞳で心配そうに僕を覗き込んでくるビッキー。 僕は土埃をはたきながら、体を起こす。 「マクドールさん、大丈夫?どこか怪我とかしていません??」 「大丈夫だよ。バランスは崩したけど、受身は取ったし。それにもう慣れたしね」 実際ビッキーが全体重をかけてきたって、そんなに重くない。 空から落ちてきた分勢いがあって、その分だけ軽く衝撃があった程度。 僕がそう言うと、ビッキーの表情に明るさが戻る。 「良かったー、マクドールさんに怪我が無くて」 無邪気にほほえむビッキー。 その安心しきった表情を見せられると、どうにもこうにも強く出れなくなってしまう。 そして僕は、いつものように小さく溜め息をついてみた。 「うーん、どうして失敗しっちゃうのかしら」 少しだけ落ち込んだ様子でつぶやくビッキー。 彼女の本来の目的地はティント市だと言う事。 僕がいるのがバナーの山の中だから、かなりの距離を間違って飛んでいることになる。 「疲れているんじゃないのかい?最近、結構失敗続きみたいだし」 なんとなくビッキーが落ち込んでいる様が居心地悪くて、気遣う口調になってしまう。 すると、ビッキーが不思議そうな表情をする。 「そうかしら。でもこの頃、そんなに失敗してないのに?」 この頃上手になったね、って皆から言われるのよ、と続けるビッキー。 「でも最近、僕はよく空から落ちてくるビッキーを見ているんだけど」 この間も、その前も・・・。 思い出すまでもなく、落ちてくるビッキーを受け止めるのが日課になっているほどなのだ。 僕が苦い表情をしていると、ビッキーがさらりと笑った。 「それはきっと、私が失敗するとマクドールさんの所に飛んじゃうからだよ。他の時はちゃんと、成功しているのよ」 妙に自信たっぷりに言い切るビッキーに、僕は肩の力が抜けてしまう。 「なんだって失敗すると僕の上に落ちてくるんだい?」 もう溜め息しかでて来ない状態で僕がそう訊ねると、自分でも原因を深く考えた事はなかったらしい。 ビッキーは小さく首を傾げて考え込んだ。 すぐに、何かがひらめいたように両手を叩いた。 そしてにっこりと笑う。 「きっとマクドールさんのいるところなら安心だって知っているからだよ。だって、マクドールさんなら、私が間違って落ちてきても絶対に受け止めてくれるんだもの。今日だって、今までだって、ずっとそうだったでしょ?だからだだよ、きっと」 眩しいほどの純粋な信頼。 理由にもなっていない理由には、全く迷いがない。 人の気も知らないで笑う、おっちょこちょいな魔法使い。 こんな調子だと、彼女はあと何回僕の上に転がり落ちてくるんだろう。 そう考えて、僕は小さく笑った。 それが嫌じゃないことに気がついたからだ。 「マクドールさん?」 真っ直ぐに僕を捉える大きな瞳。 その瞳に、笑いかける。 「努力するよ。でも程々にね」 「ありがとう、マクドールさんっ」 ・・・嬉しそうに飛び跳ねた彼女が、また魔法を暴発させたのはお約束というものなのかな? END |
■ あとがき ■ なんというか・・・空から落ちてくる美少女って、ベタなネタですか? ■石猫のタワゴト■ いえいえ、決してそんなことはございませんとも! ビッキーってば毎日、坊の上に落っこちてきてるんですかー!ステキv 失敗したらとっさに好きな人のトコロに跳んでしまうんですね〜vvv 無茶苦茶、カワイイです。さすがです、紀野さん! ん?毎日受け止めてるとゆーことは、毎日失敗してる? ビッキー……もしや、無意識にわざと失敗してるとか?(笑) それもこれもみんな愛のせいね。 |