2001/11/11


カノン









「マクドールさん、これ見てっっ」




 テレポートを頼もうとした僕に、ビッキーが嬉しそうに両手を差し出した。
 そこには両手のひらで包み込めるほどの、小さな箱がのっていた。



「これ?」



 彼女の真意がわからなくて、首をかしげるとビッキーが僕の手にその小箱をのせた。
 大きさに似合わないしっかりとした質量が、これが金属でできている事を教える。



「これね、おるごーるっていうんだだって。アレックスさんが掘り出し物で売っていたの。とっても綺麗な音がするのよ」



 心底嬉しそうな笑顔を僕に向けるビッキー。
 僕も彼女につられたように、ゆっくりと笑う。



「ねぇねぇ、蓋を開いてみて。とっても綺麗な音だから、マクドールさんもきっと気に入ると思うの」



 彼女の言葉に促されるように、蓋を開けてみると。
 こぼれだすように流れてくる音。それは遠い昔に聞いた、懐かしい旋律。





「カノンだ・・・」





 気がつくと唇から曲名がこぼれていた。




「マクドールさん、この曲知っているの?」



 ビッキーがちょっと驚いた顔で、僕を見返してきた。




「知っているって言っても、昔聞いただけだよ」



 オルゴール特有の柔らかい音で奏でられるカノン。
 淡い音色が僕とビッキーを包み込んでいく。




「でも、曲名を知っているなんてすごいよ。わたし、この曲の名前ずっと知りたかったんだもの。『カノン』っていうのね。不思議な言葉。ねぇ、『カノン』ってどういう意味なの?」




 いつもと変わらない明るい好奇心で瞳を輝かせるビッキー。





「たしか・・・繰り返すっていう意味らしいよ」




 うろ覚えの記憶でそう答えると、ビッキーは笑った。
 そして大事そうに僕の掌とその上に載ったオルゴールを、その手で包みこむ。




「素敵な意味なんだね」
「そうかい?」





 ビッキーの言葉が理解できない僕。
 『繰り返す』と言う言葉をそんな風に考えた事は、今まで一度もなかった。
 そんな僕をしっかりと見据える、大きな双眸。





「だって、繰り返すって事は、もう一度って事でしょ?だったら、もしまたマクドールさんと離れ離れになっても、また出会えるんだよ。私おっちょこちょいだから、いつまたテレポートに失敗するかわかんないもん。だからこの曲みたいに何度でも何度でも、マクドールさんとの出会いを繰り返せたら、素敵だと思うの。ね?」





 真っ直ぐな、真っ直ぐな言葉だった。
 欠片ほどもそのことを疑っていない彼女の綺麗な笑顔に、僕は目を細める。





「そうだね。・・・そうなるといいね」
「うん、きっとそうなるよ」





 確信すら滲む、明るい声。
 その声と笑顔があれば、きっと繰り返す事もうまくやっていけると思った。











                                                END 


■石猫のタワゴト■

カノン=輪唱曲ですね〜v
追いかけっこしながら、くりかえし繰り返し、重なる未来。
二人とも幸せそうで私もシアワセですvvv

しかし。
カノンと聞いて真っ先に思いついたのが
“ Three Blind Mice, See How They Run ! ”
だった石猫って一体……
マザーグースメロディですな。ははは。
肉切り包丁を振り回しながら3匹のネズミを追いかけるおかみさん。
坊とビッキーがにこやかに聴いてたのがこの曲だったなら!(笑)
結構、おもしろいかもしんない……。←阿呆



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