2001/10/24
降り積む時を超えて
気が付けば、私は其処に立っていた。 見慣れない木々の中、一人きりで。 ――――私は貴方を置いてきちゃったのかな。 「わー!ビッキーちゃん久し振り〜!!!」 「久し振りだな。そうか、お前もまた108星か」 「もう!ビッキーってばパーティの時どうしちゃったんだよ〜。突然いなくなるから心配したんだよ〜ッ!」 見たこともない、湖の辺に居を構える城でビッキーを迎えてくれたのは、メグやテンガアールたちだった。 ―――あれ?どうしたのかな。さっきまで一緒に居たのに、メグちゃんもテンガアールちゃんも、凄く凄く大人っぽくなってる。…あれ〜?? ビッキーの周りに輪を作って“彼ら”にとっては懐かしい少女を迎える。 しかし、“彼女”にとってはそうではなかった。 連続した一枚の記憶に収めるには、今の状況は何処か不自然なものを感じる。 今、周りに居るのは、変わらない、大切な仲間である筈なのに。 「あっ!初めましてっ!!貴方がビッキーちゃんね??」 「初めまして〜」 元気良く輪の中に飛び込んだ少女がぺこりと頭を下げるのに習って、ビッキーも同じように挨拶をした。初めて見る、笑顔。 「そっか。ナナミちゃんはさっきリーくんと一緒に行ってなかったから、ビッキーちゃんとは“初めまして”なんだね」 「うん。そうなの。これからよろしくね〜!」 ナナミと呼ばれた少女が両手でビッキーの手を取り、ぎゅ、と握手をする。 その元気良さが嬉しくて心地良かった。 一通り挨拶を終えて、ビッキーは辺りを見回した。初めての人も、見知った人も居るけれど、探しているたったひとりが見つからない。 「………あれ…?……」 どうして“みんな”此処に居るのに。 “その人”は此処に居ないんだろう。 「あ!ビッキーちゃん、早速だけど後でテレポートお願いすると思うの!よろしくねっ」 「何?リーくんてば帰ってきたばっかなのに、また行くの?」 「うん。でも大丈夫よ!今度は私も一緒に行くから!」 「ナナミちゃんもなんだ。頑張ってね!」 「でも大変だよね〜。同盟軍の仲間探しくらい私たちも手伝ってあげたいけどね〜」 ――――あれ? 彼女たちの会話から、ビッキーは疑問符を覚えた。 聞きなれない言葉。覚えのない状況。 繰り返されている……わけではないのに。 「あの、メグちゃん、聞いて良い?」 「ん?なになにー?何でもどーんと来い!よっ!」 「………あのね、……ユクさんは、何処に居るの?……ここって解放軍じゃないのかな」 ――――私は今、何処に居るんだろう。 メグに何度も々聞かせてもらった話は、実感こそ出来なかったけれど、どうにか納得は出来た。 メグもテンガアールも。ルックもシーナも。皆居るのに、ユク・マクドールだけが居ない理由。 今、自分の居る場所は、あの頃の解放軍ではなく、同盟軍である理由。 全ては、消えてしまった3年に。 早速、第一回目のテレポートを見事に失敗してしまってから、また月日は流れた。 少しずつ、また此処に人は増えて。 毎日のように“初めまして”を言うこともあった。 けれど、一番会いたい人には会えないままで。 「どうして3年も飛んじゃったのかなあ」 自分に向けて、ぽつりと呟いてみる。 ―――けれど、答えは返って来ずに、そのまま泡のように消えてしまった。 一人きりではないけれど、気持ちだけが淋しくて。 会いたい人は、思い出の中にしか、居ない。 ビッキーの飛び越えてしまった長い間、それから今も。 ユク・マクドールは行方が分からない、と誰しもが告げた。 奇しくも、彼女が時間を超えるという荒業を披露してしまったその夜、彼もまた、その場所から姿を消したというのだ。 「どうせ、皆の前から消えちゃうなら、ユクさんと一緒が良かったなあ」 こつん、と頭を壁に預けて。 一人きりではないけれど、拭いきれない一人ぼっちの淋しさを。 まだ、ココロに残していた。 ――――私にとってのほんの少し前まで。ユクさんと一緒に笑っていたのに。 何処までも続いて行く筈だったフィルムは、途中でぷつん、と途切れてしまった。 私一人を、残して。 「ビッキーさん!」 「あ、リーさん、お帰りなさい〜!」 ふわり、と薄い光に包まれて大鏡の前に突然姿を現したのは、この同盟軍の主、リーであった。 数日前にテレポートを頼まれてから、ようやくの帰還、と言ったところか。 疲れを感じさせない笑顔は、見ている者の心まで和ませてしまう。 「何処まで行ってたの?お疲れ様だね」 「トランまで行ってきたんです。もう凄くびっくりしちゃって!」 「……トラン?」 聞き慣れた国の名前を聞いて、少しどきりとしてしまう。 ―――あ、シーナさんだって仲間なんだし、トランまで行くのは別におかしいことじゃないよね。 そう思い直して、自分を納得させて。 「そりゃもう。凄いヤツに会ってさ〜。ビッキーにも会ってもらわなきゃって早速連れてきたんだよ。な、リー」 「あ、シーナさんも一緒だったんだ」 「………………………………………………………………………うん、まあそれは良いんだけど。………と、あ、ユク、こっちこっちー!」 「――――え?」 シーナが手を上げて、一番向こうに居る人の名を呼んだ。 少し。 少しずつだけれど、見える姿は。 間違いなく、“ひさしぶりだね”を言いたかった人で。 「ユクさん…………?うわあ、ユクさんだ〜!お久し振り〜!」 やっと言いたかった言葉が言えて。 ずっと呼びたかった名前を呼べて。 覚えている姿そのままで、彼は彼女の前に現れた。 「凄いね、ユクさんも仲間なの?一緒に居てくれるの??なんだかあの時みたいだね〜!」 嬉しさが口を突いて出てくるけれど、彼は驚いたように彼女を見ているだけで。 ビッキーと言えど、流石に戸惑ってしまう。 「………あれ、ユ、ユクさん……???どうしたの?ユクさん???」 「…………………ビッキー…………だよね……?」 恐る恐る投げかけられた言葉に、ビッキーは「え??うん、そうだよ?」と分からないままに頷く。 と。 突然ユクは目の前で笑い出した。 珍しく声を上げて笑うユクに、周りに居た誰もが驚いて目を見張る。 肩まで震わせている彼に、ビッキーは一体何がどうしたのかと困惑の色を隠せずに。 なんとか笑いを押さえて、ユクは続ける筈だった言葉を続けた。 「ごめんごめん。シーナやビクトールが年を取ってるのに、ビッキーはあまりにあの時のままだったから、びっくりしてさ。ホントにゴメン」 まだ少し肩が震えている。放っておいたら、まだしばらく笑い続けそうに。 困惑は驚きに変わって。 それから、安堵に形を変えて。 「だって、私、ユクさんに会うために時間だって超えて来たんだから〜!」 無意識に。 口を突いて出た言葉は。 「……ビッキー…?」 目の前の人も驚かせてしまったけれど、でもそれ以上に。 何より、自分が納得した。 「ユクさんに早く会いたかったから、飛んできたの」 そうだ。 私、きっとユクさんに会いたかったから、3年も飛び越せた。 「ホントだよ」 信じてもらえないかもしれないけれど、でもそれは真実。 ユクさんに、会いたかったから。 びっくりしたような顔をして。 でも、その瞳は、そっとそっと、細められた。 嬉しさを、潜めた瞳で。 私に、いつもみたいに挨拶を。 「ビッキー…?」 「なあに?ユクさん」 「ただいま」 「おかえりなさい」 時間なんて関係ないよね。 いつもと変わらない。 ユクさんを迎える言葉。 私は貴方を置いて来ちゃったんじゃなくて。 私は貴方に。 ――――――会いに来た。 END |
■石猫のタワゴト■ 「置いていっちゃった」のではなく「会いに来た」 時間と空間を飛び越えたのは すべて貴方に出逢うため。 うきゃーvvvステキです、ふよさん!!! 静かに淀みなく流れゆく時の川。 縦に時間軸、横に空間軸を引いて。 重なる座標は坊そのもの、ですね!←意味不明 世界の終わりまでずっと追いかけっこして欲しいモノですv なんのてらいもなく、 互いに自然な目線で見つめ合える世にも稀なる二人。 ある意味、究極のカップリングですよね、坊ビキv |