2001/10/08

基本設定
坊ちゃん:ルキア・マクドール
主人公:ゴクウ

Time Paradox ……虹色の少女 篇……








 泣いてる声が、聞こえたの。
 だから、行かなくちゃって思ったの。
 だって、私だけが、行くことができるから………。



 気がついたら、まわりは色とりどりの花でいっぱいだった。



「???……ここ、どこぉ??」



 花の絨毯の上に尻餅をついてる私。あれ、さっきまでなにをしてたんだっけ?
 ふと首を後ろに向けると、驚きで目を瞠る黒尽くめの服を着た少年がいた。



「ビッキー?!」
「ルキアさん!!」



 トレードマークのバンダナもなく、いつもの紅い服でもなかったけど、彼は間違いなくルキア・マクドールさん。



「ここ、どこ………」



 ルキアさんのほうへ向き直った私は、質問を最後まで言えなかった。言葉の途中で、思いっきり強く抱きしめられて、固まっちゃって。
 だけど、肩に顔を埋めたルキアさんから、低く嗚咽の声が聞こえてきて、やっと気がついたの。
 まわりには整然と立ち並ぶ墓標。そして、喪服を着たルキアさん。



 ……あぁ、誰か、とても大切な人が、亡くなったんだね………。



 私は、かける言葉も見つけられなくて、優しく背中を撫でることくらいしかできなかった。
 そして、私はもう一つの事実に気づく。
 私をここまで呼んだのは、ルキアさんのとてもとても深い哀しみだったんだ……。





 やがて、ルキアさんは落ち着いたみたいで、顔を上げた。



「……ごめん、ビッキー、驚かせたね……」
「うぅん、良いの。……もう、大丈夫?」
「とりあえずは、ね」


「………私を呼んだのは、ルキアさんなんだね……」



 泣きはらした目許が痛ましくて、私はそっと、涙の残る頬に触れた。



「…………声、聞こえた……?」
「うん、聞こえたよ。だから、行かなくちゃって思ったの」



 私の手に、ルキアさんは自分の手を重ねてやんわりと笑った。



「証が、欲しかったんだ」


「……証?」
「そう………。……時がめぐれば、また、逢えるっていう証………」



 ほんの少し首を後ろに向けた。
 ありとあらゆる花々を捧げられた、真新しい墓標。花に埋もれて、刻まれた銘が見えなくて良かった。それを知ることは、私にはとても怖かったから。



「私で、その証になったのかな……?」
「もちろん。……その時まで、待つ勇気が湧いてきたよ……」



 そう言って、ルキアさんが本当に穏やかに笑ったので、私も嬉しくなって自然と笑みが零れた。



「良かった……」
「うん、ありがとう」
「……じゃあ、私、戻らなくちゃ………」
「あ、待って、ビッキー」
「え……?」



 ルキアさんは、立ち上がりかけた私をつかまえる。
 額に、柔らかく、温かい感触。



「…………ル、ルキアさん……!」



 額にキスをされたとわかって、身体中が一気に熱くなった。ルキアさんは慌てふためく私の手を取って立ち上がらせ、にっこりと笑う。



「無事に帰れるように、お呪いだよ」
「あ、ありがとう」
「それから、ビッキーに一つ、約束してほしいんだけど……」
「なぁに?」
「私に会ったことは、誰にも言わないでくれないかな。私自身も含めて」
「……うん、ルキアさんがそう言うなら………」
「ありがとう。こんな思いがけない再会は、内緒にしておいたほうが、喜びも倍増するからね」



 そう言って、ルキアさんは悪戯っぽくウィンクした。



「そっか……そうだね」



 私もにっこりとうなずいた。
 それから、顔の火照りもなんとか静まって、転移魔法を起動するため、自分の元いた空間を思い浮かべようとしたの。



「…………。あれ……?」
「どうしたの、ビッキー?」
「デュナン湖のお城が、わからないの……」



 城に置いてある、帰還魔法用の大鏡を目印にして帰るつもりでいたのに、その魔力の存在を見つけられないなんて……!



「………デュナン湖の城って………。……あぁ、そうか………あの時……だから………」



 一人、なにかに納得してうなずくルキアさん。



「ごめん、ビッキー。その時からね、ここは、かなりの年月が流れてるんだよ」
「えぇ、そうなの?! ど、どうしよう……」



 お城に大鏡がなくなるほどの時間が流れてるなんて、どうやって帰ったら良いんだろう……。
 帰る方法がわからなくなって涙ぐむ私に、ルキアさんは大丈夫だから、と優しく頭を撫でてくれた。



「心配しなくて良いよ。私も手伝ってあげるから」
「うん……」
「じゃあ、まずは目を閉じて……」



 私は言われたとおりに目を閉じる。



「思い出して。ここへ来る前に、ビッキーはなにをしてた?」
「……うんとね、お城の庭で、巣から落ちた小鳥を見つけたの。それで、帰してあげようと思って、木に登って、そうしたら、ナナミちゃんやメグちゃんたちが来て、危ないよって言われて……」
「小鳥は、巣に帰してあげられたの?」
「うん! それで、良かったねって笑って、木から下りようとして……」
「それから?」


「………それから………誰かに、呼ばれた気がしたの……」
「私だね………」
「うん……。その時は誰だろうって思って、そうしたら、足が滑って……私、木から落ちたんだ!」



 すっかり思い出して、私は目を見開いた。



「はい、良くできました。じゃあ、もう一度目を瞑って、その時の様子を良く思い出してごらん」
「うん」
「それから、額のお呪い、わかるかな……?」



 額に意識を凝らすと、ルキアさんがキスを落とした場所に、微かな魔力が感じられた。



「……わかるよ……」
「そのお呪いと、一緒の気配がお城にもあるはずだから、よぉく探してみて」
「………うん」



 庭の木、鳥の巣、戻してあげられた小鳥、下から心配そうに見上げるみんな。その中に、同じ魔力の気配があった。



「……見つけた……」
「じゃあ、それを目がけて、あとは行くだけだよ」



 ルキアさんの声と同時に、軽く肩を押された。





 落下する感覚のあと、背中と足に軽い衝撃があった。



「ビッキー!!」
「ルキアさん?!」



 木から落ちた私を、ルキアさんが両腕に受け止めてくれたんだ。



「大丈夫かい、ビッキー?」
「ここ、デュナン湖のお城?」



 縋りついて問いかけた私に、ルキアさんはちょっと驚いたようで、でもすぐにいつもの調子で答えてくれた。



「そうだよ。……木から落ちたとき、一瞬、どこかにテレポートしちゃったみたいだけど、無事に帰ってこれたね」
「…………良かった〜……」



 ちゃんと戻ってくることができて、身体中から力が抜けてしまう。そんな私を、ルキアさんはよいしょと抱え直した。
 トレードマークのバンダナに、お気に入りの紅い服。時間を止められてしまっても、穏やかに笑うことのできる少年。
 あの時のルキアさんと、言わないって約束はしたけれど、でも、どうしてもなにか言ってあげたい。



「………ルキアさん、あのね」
「なんだい?」


「……私が、『約束の証』だからね。だから、忘れないで、ね」



 ルキアさんは最初キョトンとしたけれど、とてもとても優しく笑ってくれた。



「うん、わかった。覚えておくよ……」



 私もにっこりと笑うと、遠慮がちな声をかけられた。



「あ、あの〜、ビッキー? ルキア?」
「え?」



 すぐ隣りに、ゴクウさんやルックさん、ナナミちゃん、メグちゃん、トモちゃんがいた。……みんな、なんだか呆れてる。



「いつまでそうしてるのさ」



 ルックさんの声はいつにも増して不機嫌そう。



「ご、ごめんなさい、私がしがみついちゃったから……!」



 慌てて手を放したんだけど、ルキアさんが私を抱き上げた両腕をおろしてくれないんだよ。



「このまま、さらっていきたい気分」



 そう言って、本当に綺麗に艶やかに笑うの。トランでも一緒だったルックさんとメグちゃんは、その無敵の笑顔にお手上げ状態。ゴクウさんたちは、茫然と見惚れてしまっている。



「ビッキー、出かけようか」



 もちろん私だって、ルキアさんのその笑顔に勝てるはずがないんだから。



「私、レイクウエストに行ってみたかったの」
「じゃあ、決まりだね」
「うん!」



 茫然としてるみんなを後目に、私は転移魔法を起動した。









■石猫のタワゴト■

開口一番に「素敵です、ルキアさん!」。
ほどよく練れた良家のご子息サマ風な余裕がこれまたツボv
彼の笑顔に勝てるモノなどなにもない。

永劫の時の闇のなかの一条の光。
ビッキーが約束の「証」であり希望でもあるのですねv
彼女とはきっといつかまた逢える、その日を思って歩いてゆける。
ああ〜ステキv
メイマオさん〜!素晴らしき研究論文、ありがとうございましたvvv



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