2001/07/28
■beginning■
坊ちゃん=神愛(カナイ)、2主=神意(カナイ)』です
「え?カナイ居ないの?」 『ウチの湖でも結構良いものが釣れますから、気が向いたら来て下さいね』 ほんの偶然から出逢った、不完全な真なる紋章を宿した少年にそう誘われて、彼の城に足を運ぶようになってから、しばらく後の事。釣竿を手にした少年は、がっかりしたようにそう言った。 彼の名は、神愛(カナイ)・マクドール。3年前の解放戦争時の解放軍リーダーにして、真なる27の紋章のひとつ、ソウルイーターをその身に宿している少年である。そして、その目の前で、ほよほよした笑顔を見せて応対しているのは。 「明日の朝には帰ってくるって言ってましたよ〜」 3年前も現在も、城の名物、うっかりテレポート娘のビッキー。黙っていれば、この城でも五指には入るだろうこの美少女は、そのおっちょこちょいの性格とその身に宿した瞬きの紋章の絶妙な組み合わせにより、3年前と同じ姿でこの城に居た。 つまり、時を越えてしまったのである。 しかし本人にとっては良くある事らしく。3年前と何ら変わらぬ笑顔で、城に来る彼を迎えてくれた。 「うん?どうかしたんですか?マクドールさん?」 黙りこくるマクドールを、きょとんとした顔で見る。マクドールはかろうじて笑顔を作り、 「いや、何でもないよ。 「えっっVVVじゃあじゃあ、晩御飯一緒しませんか?メグちゃんも、マクドールさんと一緒したいって言ってたし♪」 「………ああ、いや…今日はちょっと早いけど食べて来たから……また今度ね」 「そうですかぁ、残念。 「うん。 「はいっVVV」 ビッキーの笑顔に見送られ、マクドールはその場を後にした。 |
× × × × × |
「ついてないときは何処までもついてないもんだね」 マクドールは、同盟軍盟主殿のダブルベッドに、大の字に寝転がった。 ビッキーと別れた後に宿屋に立ち寄ったのだが、あいにく予約が満員で。けれど、時の流れを得た旧知の人間の所に泊まるのは嫌で。仕方なしに、この城の影のリーダー・シュウ軍師に相談したところ、空き巣 ( この部屋は、他のそれらとは隔離されていて。宿屋の時のように、旧知の輩の頻繁な来訪を気にしなくても済む。 どこか安心できるよね、そう思ってしばし後、思わず苦笑する。怯えている、自分に。 (やっぱり、駄目だね…) あの時も。 理性では分かっていたつもりだったけれど。メグも一緒に、と言われた瞬間に、つい嘘を吐いてしまった。3年という時の流れを、幾度も突きつけられるのが怖くて。 あの当時には、分からなかった事。身近な物を失う悲しみではなく、世界から置いていかれる痛みと恐怖。 自覚してしまった今、僕は何処まで、そして何時まで、その状況に耐えられるのだろう? この時を、共に歩いてくれる友も無しに。 あのルックでさえ、時を刻んでしまって。ほんの少しだけど、期待していたのに。真の紋章を持つ者達を、他に幾人か知っているけれども、欲しいのは継承者として充分な、自覚や時を重ねた者たちではないから 「………君は、傍に居てくれるかな…?」 今は居ない、この部屋の主、真の紋章の片割れを持つ少年へ向けて、ポツリと呟く。 彼の友の事、彼らの持つ紋章がどういうものかは、ビクトールに聞いた。そして、聞いた上で願ってしまう。 彼が、その紋章を完全なる物にして、傍に居てくれればいいと。 そうすれば、自分の欲するものは現実となる。真なる紋章を宿す身ならば、そう簡単に己の宿す紋章に喰らわれることもないだろう。その見返りに、失った悲しみは永い時をかけて自分が癒してあげるから。 「だから……傍に居てよ」 呟くようにそう言って、マクドールは瞳を閉じた。 |
× × × × × |
ソバニイテ。 『だめよ、望まない人なのに』 ソレデモボクガサミシイカラ。 『どうして?私たちが居るわ』 キミタチハゲンジツニイナイカラ。 メヲトジテイル、ホンノミジカイアイダダケノ、キセキ。 『じゃあずっと眠り続ければ良いわ』 ソレハデキナイ。 イキテイクトヤクソクシタカラ。 ダカラ。 ボクガホシイノハ、トモニイキテイッテクレルヌクモリ。 『そう、じゃあ願えば良いわ』 カレノフコウヲ? 『いいえ、あなたの幸せを。強く、願えばいいの』 ソレダケデネガイガカナウナラ、ボクハココニハイナイ。 『だから、もっと強く。他の全ての願いが、色褪せるくらいに』 たった、ひとつの願いを。何よりも、強く。 『貴方の望みは、何?』 ボクノ、ノゾミ。 ボクノノゾミハ |
× × × × × |
ズン。 鈍い衝撃に、マクドールは目を覚ました。何時の間にか、部屋の中はすっかり闇に包まれている。何時の間に、寝てしまったのだろう。 いや、それよりも そろり、と異常な圧迫を感じる己の体に視線を向けてみる。と、腹の上に何やら白い物が鎮座ましましている。 そんなモノが出るなんて話は聞いてない。それでも一応、何種類か経を唱えてみるが、案の定効き目はない。マクドールはまだ寝ぼけている体を叩き起こした。 (手は、何とか動くな 腕を伸ばして、その物体を思い切りよく引っ張る。ぼすんとベッドに倒れこんだそれをよくよく見てみれば 「ビッキー!?」 「…ふぁ……????ふぇ? まだ寝ぼけた眼を必死に瞬かせて、うにゃうにゃ言いながら、ぼんやりとマクドールを見る。 「んん〜〜…テレポート、ですか……??」 「いやそうじゃなくて…君が僕の所に来てるんだけど……どうしたの、寝ぼけたの?」 「ふにゃ……??あ、れ……ん?でもさっき呼びませんでした…???」 大分目が醒めてきたようで、目をこすって眠そうにしながらも、次第に口調がはっきりしてくる。マクド−ルは、え?と訊き返した。今度はビッキーがきょとんとして。 「え???だって、マクドールさん、さっき私を呼んだでしょう???」 それは、夢と現の狭間で聞こえた呼び声。 とても強い力で紡がれた願い。他の全ての呼び声を、かき消すほどの。 だからすぐに行かなくちゃと思っていたのに…違ったのだろうか? 「え…いや、あれは……」 『貴方の望みは、何?』 問われた瞬間に思ったのは、彼の不幸なんかじゃなくて。この永い自分の生を共に歩いてくれる、癒してくれる 「あ、もしかして私また間違えちゃったのかな?」 そう、きっと偶然だ。だって、彼女はきっと真の紋章を持ってないから。 ずっと自分と生を共にしてくれるなんて…不可能なはずだから。 「ええと…じゃあ、もしも寂しくなったりしたら呼んで下さいね?すぐ来ますから♪」 じゃあ私、お部屋に帰りますね。そう言って、呪文を唱えようとしたビッキーの唇をそっと指で押さえる。 「?マクドールさん?????」 3年の時を跳んだからって、また出逢えるわけじゃないのに。寂しくて求めたって、いつも来てくれる筈ないのに。 強く願えば、叶うかもしれないなんて。 彼女なら、叶えてくれそうだなんて。 そんな事を考えるなんて、我ながら馬鹿げてるとは思う。けれど。 「 「はいっVV」 笑顔でビッキーはそう答えて。 「じゃあ、手繋ぎましょう♪その方が、もっと寂しくないですよ♪」 「うん。ありがとう……お休み」 「はいっ、おやすみなさい♪」 そして二人は互いの手を重ね、再び眠りの闇へと落ちていったのだった。 |
× × × × × |
翌日の朝。 「ああ、ルック。戻って来てたんだ?お勤めご苦労様」 何やらご機嫌な様子で階段を下りてきたトランの英雄殿は、ルックの嫌そうな視線をものともせず、その肩を軽く叩いた。 「何?何なの、その上機嫌は」 気色悪いんだけど。叩かれた肩をはたきながら訝しげに問うと、マクドールは『内緒♪』と笑みを崩す事なくそう言ってから、 「ああ、そうだ、ルック」 「何?」 「まだ分かんないけど……一応宣戦布告しとくから」 「は?」 「じゃあ、ね」 意味深に微笑んで、マクドールはビッキーの元へと駆け下りて行った。 そして |
■石猫のヒトコト■ まこたろさん。素晴らしい小説、ありがとうございました vvv なのに、これまたヘボいレイアウトにしてしまってごめんなさい。ぺこり。 PS: 夢の中の声はオデッサさんですか〜? |