2001/07/26
■ 台所の怪事件 ■
坊ちゃん=リアン、本拠地名はマーシア城。
頃は深夜。草木も眠る丑三つ時。解放軍の本拠地マーシア城は静かな眠りについている 「じゃあ、みんな。開けるよ?」 一行の先頭に立つリアン・マクドールが声をかけた。しかし。対する残りのメンバーの反応はあまり芳しいモノではなかった。 「リアン殿・・・やはり考え直された方が・・・・・・」 「こればっかりは、僕も同意見だね」 「な?やめとけってば、リアン〜〜〜」 「 上から順に解放軍軍師マッシュ、性格に問題アリな風使いの少年、レパントさん家のバカ息子、そして最近、めっきり不幸ぶりが板に付いてきた青雷のフリックによる発言である。リアンは口々にウシロムキな見解を申し立てる四名をふり返った。 「そぉ?みんなそう思う?」 いっせいに四つの頭が大きくうなずき返す。なんだか一列に並んだ大リーグ特製首振り人形を見ているようで、妙に笑いを誘われる光景だ。『もしかしたら思いとどまってくれるかもしれない!』 淡い期待が彼らの顔によぎる。 しかし。リアンはその様子を楽しげに眺めたあと、ニヤリと笑ってのたまった。 「でも。僕の好奇心を満たすのが最優先!」 思わず顔面蒼白になる面々を完全に無視して彼は扉に手をかけた。奥からは依然とコツン、カサカサというアヤシくも軽快な音が漏れ聞こえてくる。 「さーて。どんな愉快なモノが見られるのかな?楽しみー!」 じつに脳天気かつ確信犯的なセリフのあと、リアンは不吉な軋み音とともに扉を豪快に開けはなった。 ここで時は少し遡る。コトの起こりはマッシュの報告であった。 「リアン殿。最近、深夜になると厨房からなにやら尋常でない物音が響き渡るとの噂が城内に流れているのですが・・・・・・」 「ふーん、それはとってもおもしろそうだね」 「・・・・・・何を考えていらっしゃるんですか、リアン殿?」 「やだなぁ、マッシュ。もうわかってるんだろ?ふふふ」 「私は今ほど自分の洞察力を恨んだことはありませんよ・・・・・・」 報告書を片手に、知謀にかけては天下に並ぶモノ無しと称される解放軍名軍師は大きなため息をついた。 解放軍リーダーと軍師の密談の数刻あと、真夜中の執務室前には実に不機嫌顔のメンバー三名が立っていた。 「なんで僕がそんなことしなきゃなんないのさ?」 「リアン〜オレ、眠いんだけどー?」 「こんな深夜にいきなり呼び出すなよなぁ・・・・・・」 夜の静寂を不平たらたらの声が響き渡る。寝入りばなを叩き起こされたのかいつも以上にトゲトゲしい態度をとるルック、半分寝ぼけマナコで上着のボタンを一つとばしに掛け違えているシーナ。同じく寝不足兼二日酔い気味のフリックに至ってはどこでどう間違えたモノか、トレードマークの青マントのかわりにアレンの赤マントを身につけていたりするていたらく。 リアンは三人を静かに見つめ、彼特有の柔らかな、しかしどこか含みのある笑顔で言った。 「真夜中のミステリーハンターとミルイヒからもらったキノコの実験台・・・・・・みんな、どっちがいいかな?」 一瞬、あたりを奇妙な沈黙が流れる。ここ数日リアンが実験室で怪しげな研究に没頭していたのは周知の事実だ。ゆえに彼らが前者と後者の危険率を脳裏で計算したうえで、迷わずリアンの真夜中ふしぎ発見隊計画を支持することに決定したのも仕方ないことであろう。 「うんうん。人間、素直さが一番だね?それじゃ、出発!」 満足そうにうなずくとリアンは暗い廊下を歩きだす。その後ろ姿をうんざりとした様子で眺めながらルックは隣に立っているマッシュに視線を向けた。 「あんたもさぁ。あの非常識人間を少しは取り締まってくれない?」 「リアン殿を止めることなど、私如きの力ではまず無理ですね」 「・・・・・・無能」 「自らの首を絞めるようなマネなど下策中の下策です」 ルックの冷たい視線にもメゲずに、首をふりつつ言い切る軍師。どうあっても万事ことなかれ主義を貫くつもりのようだ。 「おいおい〜!早くしないとリアン、見失っちまうぞ〜〜〜!!!」 あせりまくったシーナの声に二人ははっと我に返る。確かにキノコ実験の被験者だけはごめんだ。軽くため息をつくと一行は「キノコ・・・キノコ実験・・・・・・」とうわごとのようにつぶやき続けるフリックを引きずりながら、慌ててリアンの後を追いかけた。そして前述の厨房前にたどり着いたという訳である。 扉を開けるとそこはまさしく異次元だった。といってもそれはもちろん文字通りの意味ではなく、むしろ目の前の信じられないような光景に思わず約一名を除く全員の思考が停止したと言い換えることができる。 「なぁ。オレ今、夢見てんのかな?」 「いえ・・・残念ですが、これは現実のようです」 「・・・・・・気持ち悪い」 「俺は・・・まだ酔いが醒めてないのか・・・・・・?」 誰が想像し得たであろう。異国風の白い装束を身にまとい美しく長い黒髪を背中になびかせる楚々とした美少女が、台所でゆで卵をまる飲みしている光景など。 「あれれー?リアンさん!それに、みんなも揃ってどぉしたの???」 ザル一杯のゆで卵を片手に件の少女・・・ビッキーはあくまでもマイペースにのほほんとした声をかけてきた。彼女の背後にあるグラグラ煮立った讃岐うどん専用・巨大大釜が、これまた眼前の非日常的空間に花を添える役目を果たしている。 「 茫然自失の極地にある一同のなかで唯一リアンのみが、少し目を見開いて驚きの仕草を見せただけでいち早く気を取り直し、何気ない口調で尋ねた。さすがはふてぶてしくもシタタカで知られる解放軍リーダーの面目躍如といったところ。 「えへへへーv・・・リアンさん、怒らないー?」 「もちろんだよ」 いかにも誠実そのもの、という表情を浮かべながら穏やかに答えるリアン。しかし。心の中で彼がセリフの語尾に「話の内容にもよるけど?」とヒソカに付け加えていたことは言うまでもない。そしてこれまたいつものようにビッキーはそのコトバにまんまと乗せられた。 「あのねあのね。わたしここでつまみ食いしてたのー!」 「・・・・・・つまみ食い?」 それにしては卵の数が多い・・・・・・いや多すぎる。ザルの中にはざっと30個は入っている。さらに大釜の中ではそれに倍する量の卵がポコポコと奇妙なリズムで浮き沈みしているのだ。 「でもなんでゆで卵なのかな?」 「わたしの一番の得意料理なのー!スゴいでしょ 胸を張って自信満々に答えるビッキー。 ここで一同の前に根元的かつ難解なひとつの命題が提示された。曰く「ゆで卵ははたして料理と称し得るのか?」。焼かない・揚げない・蒸さない、ただ熱湯にブツを放り込むだけの3ナイ調理法を誇るゆで卵。一般的に「料理」とカテゴライズするには少々というかだいぶ難があることは否めない。 以上のような思考をしばし脳裏にさまよわせる一行。だがリアンはニッコリ笑い、他の者が口にしたなら容赦なく皮肉の集中砲火を浴びせること間違いなしの問題発言に対し、それ以上に問題ある感想を述べた。 「そう。それはすごいね、ビッキー」 「でしょ、でしょー!!!」 『おいコラ!ちょっと待てぃ!?』 と心の中でそれぞれ叫ぶは他の4名。その際ウカツにもシーナはその思いをつい口に出してしまった。 「・・・・・・お前さぁ、その白々しいまでの態度の差は何なんだよ〜?」 「みんな愛のせいだね」 「ああ、そーかよ・・・聞いた俺がバカだったぜ・・・・・・」 この時シーナは痛切に思った。俺なんかよりこんなコト真顔で言い切るリアンの方がよっぽど恥ずかしいヤツなんじゃないのか!? 一方、周りの緊迫した雰囲気に気づくはずもないビッキーは、自分の意見に同意してもらえたことに手を打ってはしゃぎ回っていた。今まで『ゆで卵=料理説』に賛成してくれる者が殆どいなかった分、喜びもひとしおというところか。だがしかし。事態は脳天気かつ危険な一言によって急転直下を迎えた。 「で〜やっぱり卵はまる飲みに限るのー!みんなもどぉ?」 周囲を尋常ならざる戦慄が走る。やはりあれは見間違いではなかったのか!?一同のバッドステータス状態は今まさに、パラライズから石化へとさらなる進化を遂げた。だが、そのような緊迫状況にも慌てず騒がず、ついでに顔色一つ変えず彼女の肩に手を置いて、リアンはいけしゃあしゃあとのたまった。 「残念だけどビッキー。ゆで卵のまる飲みはマクドール家の家訓・第3条1項で固く禁じられているんだよ」 『ウソつけ 「えー、あの。私も職業柄、まる飲みはしてはならないことになっておりますので」 「・・・・・・レックナート様に禁止されてるから無理」 いち、にのさん!で受付終了。残念ながらシーナとフリックは出遅れ組に決定。思わず互いに顔を見合わせて総毛立つ二人。顔色は青を通り越して紙のように真っ白だ。 「それじゃ、シーナさんとフリックさんだけねー?」 綺麗な顔に満面の笑みを浮かべながら二人に近づいてくるビッキー。足取りは妖精のようにとても軽やかだ。 「あははは!良かったね、シーナ、フリック。とっても得難い経験が出来て」 「お気の毒ですが・・・お二人とも、私の分まで頑張って下さい」 「・・・・・・ま、好きにしたら?あんたたち」 その背後では実に自分勝手な感想を述べる三人。我が身はすでに安全圏にある、と確信した上での身勝手発言である。人間関係なんてしょせんこんなモノ。 「はい!遠慮なく一気にまる飲みしてねv」 ビッキーは花のように愛らしく可憐に笑ってザル一杯のゆで卵を差し出した。 「でもさ。なんで卵はまる飲みに限るの?」 「えええ?うちの国の人たち、みんなこぉして食べるよー?」 「ふーん、そっか。それは興味深い習俗だね」 真夜中を数刻ほど過ぎた城内通路をてくてく歩きながら、とんでもない話題をなんでもない口調で話しているのはもちろんリアンとビッキー。 「あんたさぁ・・・興味深いなんて簡単な言葉ですますんじゃないよ」 「ルック君。あの二人には何を言っても無駄だと思いますよ・・・・・・」 どこまでも脳天気な会話にウンザリとした様子でコメントを挟むルックと、それに対して諦め顔で返すマッシュ。手にはそれぞれHP1で瀕死状態なシーナとフリックを引きずっている。 ちなみにシーナは不器用にも一個目からゆで卵をタテに飲み込むという、これまた彼らしいウカツぶりを遺憾なく発揮して脱落。一方、驚異の低LUCK値を誇るフリックは、13個目の卵を気管に詰まらせてあえなく撃沈。どちらがより不幸なのかについてはにわかに判断し難いモノがあるが、少なくとも両方とも幸せでないことは確かだろう。 「まあ、いつもよりずっと少ない被害でコトが丸く収まったのです。これで良しとするべきでしょう」 「・・・・・・善人ヅラしてあんたも結構、悪人だね?」 「いえいえ。私はあくまで客観的見解を述べただけです」 はっきりきっぱり言い切った後、マッシュは前方を歩く脳天気二人組に視線をやる。城内でも有名な名物バカップルは実に独特なオーラを発していて、なにやら凡人には近づきがたいモノがある。 しばし黙って二人の後ろ姿を眺めたあと、解放軍軍師は客観を装いつつもあくまで主観的見解あふれる感想をポツリとつぶやいた。 「 この場合、神といってもタタリ神ですが、と付け加えることも忘れない。 不覚にもルックはそのあまりに当を得た格言に、我知らず思わずうなずいてしまった。そしてしみじみと心の中で思った。レックナート様の言うように世界は案外広いのかもしれない。なぜなら確信犯的悪魔リアンと台所妖怪天然少女を筆頭に、目の前の軍師も含めて世の中は想像を絶する変な奴で満ち満ちているのだから、と。ほんの少しではあるがこの世の不条理をかいま見たような気がするルック14才の夏だった。 END |
毎夜のように厨房から響くアヤシげな怪音。その正体は如何に!?・・・・・・とゆー訳で世にも稀なるバカ話をお送りいたします。実はこの話、しきさんから頂いた素敵ビッキー絵を小説化したモノだったりします(爆)。あの素晴らしいイラストからここまで妄想を発展させる石猫。ここんとこ暑かったからねぇ・・・・・・暑さのせいにするな。 あいかわらずゴチャゴチャ登場人物多くてうっとーしいです。はい。一応、コンセプトは坊ビキなんですが。笑えないギャグと化しています、はい。それにしても私が幻水1の話を書くのって初めてかも?しきさん。こんなんでよければ持って行っちゃって結構です。ま、いる訳ないか。 |