2001/02/14
■ You're the One ■
現在の時刻は午前2時。人々は安らかに眠り、城全体は静寂に包まれている。 しかし。丑三つ時の厨房ではまさに異様な光景が繰り広げられていた。薄明かりのなか、少女はひたすら真剣な眼差しと手つきで、とてつもなく大きな鍋から焼き串をゆっくりと慎重に引き上げる。 純白の衣の裾は動きやすいようにたすきがけし、艶やかな長い黒髪は後ろできっちりひとまとめにし、さらに額に白いハチマキまで巻いた姿はまさに真剣そのもの。鍋に差し込まれた温度計の針は1500度を指している。鉄の融点に達するのも時間の問題と思われる。グラグラと怪しく煮立つ茶色い液体の底から現れたものは、これまた不吉なまでに巨大な楕円形の奇妙な物体。 少女は串に刺したままの例のブツをタテ・ヨコ・ナナメからためつすがめつチェックしたあと、大きくうなずいた。 「やた 少女――ビッキーは歓声をあげた。予想以上の出来映えに思わず笑みがこぼれる。 「喜んでくれるかなぁ、リアンさん〜〜〜」 世にもシアワセそうな声を漏らした。どうやらココロは完全にドリームモードに入っているようだ。しばしそのままビッキーは先程引き上げたばかりの「何か」を胸に抱きながら、いつにも増してボケボケ〜っとした様子で佇んでいる。突然、柱時計が3回鳴った。 「あやや〜もうこんな時間〜?急いで準備しなくっちゃ」 はっ、と現実に立ち返る。あたふたとテーブルの上に置かれた大きな袋を開けた。すると中にはもう少し小さめの同じく楕円形の塊が所狭しと詰め込まれている。ビッキーは中央部分をかき分けて場所を空け、手にしたブツをそうっと大事そうに袋に入れた。 「これでよ〜し v」 そばにある椅子にストンと腰掛け、頬杖をつきながら目の前のピンク色の袋を眺める。にこにこ、ニコニコ。なんともゴキゲンな様子で笑み崩れている姿はとてつもなくも愛らしい。だが今は午前3時過ぎ。1日がかりの大仕事からくる疲れが睡魔を伴ってじわじわと押し寄せくる時刻。早く明日になぁれ〜♪とかなんとか、鼻歌交じりにつぶやいているうちに次第にビッキーの目がトロンとしてきた。 「ふにゃ〜おやすみなさ〜い〜〜〜リアンさ〜ん……」 一言つぶやくとビッキーはテーブルに突っ伏して眠り込んでしまった。世に言う爆睡状態である。こうなったら生半可なことでは目覚めないだろう。 ややあって音もなく前方の扉が開いた。そっと息をひそめてテーブル脇で眠る少女に近づいてくるのは、しなやかな黒髪に映える黄の瞳が印象的なひとりの少年。彼はのぞき込んだ少女の寝顔があんまり幸せそうなので、思わず笑みを漏らす。 「おやすみ、ビッキー。良い夢を……ね」 そう言って少女の額に軽く口づけを落とす。その直後の「……ふにゃにゃ〜〜もうおなか一杯で食べられないよぉ〜〜」なる寝言に、またリアンは吹き出した。ホントにこの少女は見ていて飽きない。 「さて……と。そうもしてられないか」 リアンはさっと室内に視線を走らせ、中央付近が妙なカタチにふくらんでいる大きな袋に目を留めた。我が意を得たりという風情でニヤリと笑う。 「 どこまでも底の見えない穏やかな笑みを浮かべながら、リアンはつぶやいた。 「リアン様〜コレ受け取ってくださ〜いv(×2)」 「やあ、二人とも。ありがとう」 リアンは差し出された包みをにこやかに受け取った。もちろんその整った顔に天下無敵の営業用スマイルを浮かべながら。そのイツワリのホホエミにうっとりと立ちつくす解放軍所属の少女たちをその場に残して、再び軽い足取りで歩き出した。後ろに約1名の従者を引き連れて。 「おい待てぃ……誰が従者だ 「ああ、間違えた。シーナは僕の手下2号だっけ」 「ち〜が〜う〜っつーの!」 「それじゃあ僕のココロの友2号のほうがいい?」 「……手下2号にしといてくれ」 手下2号……いやシーナはガックリと肩を落としつつ背後を振り返った。視線の先には彼が苦心惨憺して引っぱっている最中の、5台の超大型リヤカーが一列に連結して並んでいた。それぞれの荷台の上に山のように積み上げられているものは、綺麗にラッピングされたチョコレートに他ならない。恐ろしいことにその積載量は300キロは軽く超えているだろう。 そう、今日はオトメたちの祭典……聖バレンタイン・ディであった。 「それにしても、なんでオレがお前の貰ったチョコレートを運んでるんだよっ!?」 忌々しげに吐き捨てる。自分宛ならまだしも何がウレシクて他人の荷物持ちなんぞしたいものか。 「えー?だってシーナ、今日すっごくヒマそうだし」 「ヒマそうで悪かったな〜」 「やっぱりこーゆー日にひとりでいるのはとっても寂しいだろーなぁ、という僕のアタタカイ心配りを理解して貰えないなんて哀しいね」 「大きなお世話だっつーの!!!」 思わず拳を固めてリアンを仰ぎ見る。どこまでも余裕綽々の不敵な笑みがこれまた憎らしい。 「なーんでまた、こんな性格破綻者がモテるんだろーなぁ……」 「それは勿論、僕の溢れるばかりの輝かしい人徳に決まってるじゃないか」 「自分で言うな、自分で!」 ああ言えばこー言う。権岸不遜に傍若無人というコトバは目の前の解放軍リーダーのためにあるといっても過言では無い。まぁ生まれも育ちも極上で、かつ容姿端麗・才能の方は天才で天災と謳われしリアン・ルーグナー・マクドールに勝てるモノなどこの地上に誰もいないというのがより真実に近いといえる。 シーナが半ば諦めにも似たため息をついていると、前方からパタパタと軽い足音が近づいてくるのが聞こえた。 「あれあれ?ここにいたの〜リアンさ〜んv」 駆けてくる黒髪の美少女は距離5メートルの位置でいきなりパッと消えたかと思いきや次の瞬間、リアンに飛びついた格好で現れた。その背中にあるサンタクロースの爺さん、もしくは大黒サマの背負ってるようなショッキングピンクの大袋がやたらと目を引く。念のために蛇足するならば、サンタ爺と大黒サマが背負ってるのは桃色袋ではなくフツーの白い袋だが。 「やあ、ビッキー。いつも元気だね」 腕の中の少女を大事そうに抱きしめたまま、リアンはにこやかに笑みを返す。もはや解放軍の本拠地マーシア城内においては日常茶飯事の感も否めない、実に非日常的光景がシーナの眼前で繰り広げられていた。はっきり端的に言うことが許されるならば、バカップル2名による愛の劇場といったところ。 「あのねあのね。今回はね、すーっごく上手に出来たの 「僕はビッキーがくれるモノなら何でも嬉しいよ」 「えへへへ〜ホント?うれしいな〜〜〜v」 このまま放っておくと、いつまでも脳内糖度飽和状態のバカ会話をエンドレスで聞かされ続けるのは必至。シーナはおそるおそるバカップラーに声をかけた。 「あ、あの〜そこのお二人さん……?」 「……なに、何か用?」 「ほぇ?あれあれ〜いたの、シーナさん?」 リアンからは即座にルックばりのツメタイ視線と言葉が、ビッキーからは3テンポほどずれたタイミングで、考えようによってはリアン以上に痛いセリフが返ってきた。予想していたとはいえ、存在すら認識して貰えていなかったとは。オレってそんなに印象薄いかなぁ……しばしタソガレるシーナであった。 「あ、そうそう。コレあげるー!」 シーナの落ち込み具合など一切頓着せず、ビッキーは例の袋からなにやら取り出してニッコリと差し出した。その笑顔につられてシーナが反射的に受け取ったものは、武器レベル15は確実な切れ味鋭い錬鉄の串に深々と突き刺さった、鶏の卵より少々大きめの茶色い楕円球……思わず目が点になる。 「ビ、ビッキーちゃ〜ん?これ、いったい何なのかな……;;;」 「ムササビの卵のチョコレートかけ〜!」 「ム 「隠し味はひいらぎジジイのみじん切りなの〜!ねねね、美味しいそうでしょ〜〜?」 ムササビって卵産むのか 「良かったね、シーナ。義理とはいえ素敵なプレゼント貰えて」 「一気に丸飲みしてね〜」 夢想より立ち返ってみると目の前には、リアンの実に悪意に満ち満ちた視線と、ビッキーの純粋な期待に満ち満ちたマナザシが。哀れシーナの運命や如何に!? 「リアンさんにはねぇ……あれ、あれれ?」 袋に手を入れたビッキーの顔に当惑の表情が浮かんだ。慌てて中をのぞき込み、必死でなにかを探している。 「?どーしたの、ビッキーちゃん?」 危ういところで難を逃れたシーナは内心胸をなで下ろしつつ、尋常でない雰囲気のビッキーにたずねた。シーナは元来、存在自体が規格外であるとはいえ彼女のようなとびっきりの美少女が大きな瞳に涙を溜めて困っているなんて、到底見過ごせないタチなのである。ビッキーはふにゃー、っと通路にへたり込んで茫然とつぶやいた。 「……リアンさんにあげるチョコレートが無いのぉ〜〜〜」 「へ?無いってその中に一杯あるじゃん?」 ビッキーの言葉に首を傾げて袋を指さす。開きっぱなしの袋の口からは、さっきシーナが貰ったモノと同型の茶色い串刺し卵がうじゃうじゃとひしめいているではないか。これが全部ムササビの卵(仮) 「これじゃないの!あのねあのね。大きさはこれぐらいで……」 ビッキーは宙に直径30センチはあろう大きな楕円を描いて見せた。シーナはすんでのところで「それってもしかしてホークマンの卵!?」と聞き返すところであった。危ない危ない。 「グラスランド産のテンプルホークの卵なの〜〜〜」 「え!?マジー!?ホークマンじゃなくて良かった 「そうだよね。ホークマンの卵は不味いもんね」 「イキナリ問題発言をするなリアン 「 「た、頼むからそれ以上言わないで〜〜〜ね・ね・ね!?」 「えー?つまんない」 リアンとシーナの馬鹿話はさておき、ビッキーはガックリとうなだれたまま地べたに座り込んでいた。ほっそりとした肩を震わせて、半泣き状態で鼻をかんでいる。あんなにあんなに頑張ったのに……びっくりするほど大成功だったのに。頭のなかではただひたすらこの言葉だけが、ぐるぐると回り続けてる。もう、どうしたらいいのかわかんないよぉ……。 そのとき何かがコツンと頭に当たった。驚いて顔を上げると目の前にあったのは、可愛らしいリボンで綺麗にラッピングされた細長い箱。リアンは笑いを堪えながらその箱をビッキーの頭に乗せていた。 「はい、プレゼント」 「……え?ええええ 「僕、ヒトと同じコトするの大っ嫌いだもん。たまには男の子が女の子にプレゼントしたっていいんじゃない?」 どこまでもアヴァンギャルドな、かつ「僕が法律」的思考を多大に有するリアンに相応しい発言ではある。“なるほど、それは確かにリアン的な考えだ!”シーナは心の裡で思わずへっぽこなトラン語構文のよーな文句を唱えてしまった。 「で…でもでも〜それってなんかヘンな気が……」 「あのね。僕にチョコレートくれる女の子たちは星の数ほどいるけれど、僕がチョコレート渡す女の子はこの世にたったひとりしかいないんだよ。 「そ!?そ、それはやっぱり〜!……た…たったひとりの…ほうかも……?」 ビッキーは真っ赤になりながらもたどたどしく言葉を返した。みんなと一緒なんてイヤに決まってる。誰だって気になる相手の求める「ただひとつのもの」になりたいから。それはまさに究極の願い。女の子の望む全てといっても過言ではない。 「じゃあこれで万事解決だね」 リアンは陽の光を集めて溶かしたような独特の色彩の瞳に、優しげな光を浮かべてささやいた。引き込まれるようにビッキーは、その不思議に美しい双眸に見入ってしまう。 「リアンさん、だーいすきっ!」 ビッキーは泣き笑いの顔でリアンの首に抱きついた。 「僕もビッキーのこと、大好きだよ」 流れる黒髪を愛おしげに撫でながら、リアンは世にも幸せそうにのたまった。ここまでくるともう、幸福な二人の耳には難の雑音も入る余地は無い。よってシーナなどこの世にいないも同然。 「なんでオレ、こんな他人のバカップルぶりを鑑賞してなきゃなんないんだろ……」 ウンザリとつぶやくシーナの頭上が揺れ、突如何もない空間から大砲の砲弾のような大きさの楕円球が重力の法則に従って落下した。狙い過たず、茶色い球は大統領の放蕩息子の後頭部を直撃。ゴツン、というなかなかに聞き応えのある響きとともに、シーナは床に倒れた。 コロコロと通路の隅に転がっていく球は、まさしくビッキーが探していたモノに相違ない。その証拠に直径30センチはあろうかと思われるチョコレートかけ巨大卵には「リアンさんへv」という金釘調の銘文とともに、レベル15の天牙棍にも似た凶器……もとい長い棒が突き刺してある。 「それ、シーナのバイト料だから。嬉しい?」 意識の遙か遠くでそんなリアンのセリフを聞いたように思ったが、いかんせん体が動かない。起きあがれるなら、いやせめて一言でも言葉を綴ることができたなら、シーナはこう叫んだに違いない。 「いらねーよっ!このボケ ……言えなくて幸いだったかもしれない。天才の天災リアン・ルーグナー・マクドールに逆らえるモノなどこの城に……いやたぶんこの広いようで案外狭い地上にひとりもいないのだから。 END |
You're the One, I want. とゆー訳でバレンタインde坊ビキ。あいかわらず気の毒なリアンの手下2号シーナ。1号?もちろんテッド(笑)。丸飲みの恐怖再び。ビッキーの料理?は依然としてタマゴ系なよーです。タンスの裏にはムササビの卵がびっしり……だったらヤだなぁ。茹でただけで殻つきのままのムササビのタマゴ(仮)に底に焼き串を突き刺し、上から1500度の液体チョコをぶっかける。以上、ビッキーの料理講座でした。鉄の融点は1535度なので、まだ鍋が溶ける心配はナッシング〜。 どこまでも前衛的に自分勝手なリアン。好きな言葉は1石3鳥。好き勝手に傍若無人なその態度は人々の気をそらさないミリョクが……あるかどーかは不明。まぁビッキーが喜んでるんだったらそれでいいんじゃないですか〜? |