2002/02/14

Happiness










どんなに冷え込みが厳しくても、白い雪が冷たくても。

今日だけは、全て喜びに変わる日。


小さな包みにたくさんの気持ちを詰めて。

溢れてしまわないようリボンを結んで。



心に秘めた言葉と共に、受け取ってもらえることを祈っている。













もちろんそれは戦乱の最中においても例外ではなく、広い同盟軍城内も、今日は微かに漂う甘い香りが其れを如実に語っている。


























「ビッキーちゃん、それ何?すっごい量だけど」

城内中央ホールにて、既に目的の相手に難なくプレゼントを押し付けて、その上次はプレゼントのお返し、という約束まで取り付けてきたテンガアールが、大鏡の前に山のように詰まれた包みに目を丸くする。

其の中の一つを手にとって、はい!と彼女に差し出したのはビッキーだ。


「だって今日はお世話になった人と大好きな人にチョコレイトを渡す日だって聞いたから。ナナミちゃんと一緒に作ったの。テンガちゃんにもいっつもお世話になってるから。はい!」

「…てことは、そのプレゼントはナナミちゃん特製かビッキーちゃん特製かってトコで半々の確率で凶か大凶ってワケだ…」

「??なになに?」

「いや、何でもないよ。ありがたく気持ちだけ受け取っとくね」

やんわりと笑顔で断れば、ビッキーも「そう?」と素直に引いてくれる。
健康のためにはありがたい。

其処へひょい、と現れたのはタイ・ホーで。

「よぅ、ちょっくらテレポート頼みたいんだが…」

と言った矢先からプレゼントを手渡されていた。
























夕刻。

再びテンガアールが大鏡の前を訪れた時には、朝には其の鏡が隠れてしまうほどだった色とりどりの包みもすっかり消えていた。


「凄い!全部渡し終わったんだ!」


素直に心からそう言って、一人ぽつん、と立っていたビッキーに声をかける。

すると彼女は伏せていた顔を、ぱっと上げた。


―――其の手には、一つの包み。



「ううん、まだ一つだけ残ってるの」



にこり、と力なく笑う姿は彼女らしくない。

其の様子に気付いて、テンガアールは首を傾げた。

何をどう尋ねてよいのか、言葉が出て来ず、視線だけが其のプレゼントとビッキーの表情を往復してしまう。

そんな彼女の気持ちに応えるかのように、ビッキーは言った。



「ユクさん、今日は来てないのかな」



トランの英雄と呼ばれるユク・マクドールがこの同盟軍に姿を現すのは、さほど珍しいことではなかった。

むしろ、最近では此処で姿を見ないことのほうが少なかったと思う。



けれど、今日は。



「………そう言えば、見てないなあ…」


テンガアールも朝から出会った人物の顔を思い返してみるが、彼を見かけたとしたら、忘れている筈などないと思う。

つまり、彼には出会っては居ない。








「そっか。ユクさん来てないんだ。…どうしたのかな」


かさ、と淋しく手の中の包みが鳴った。

落とした視線はその音だけを追いかけて、壊れないように、失くさないようにそっと優しく両手で包む。



「…ユクさん…だって、忙しいよね。毎日なんて遊びに来てくれないよね」



「…ビッキー…」



「だってトランの英雄だもん。仕方ないよね」


「……あ、あのさ!」


悲しく揺れるその瞳を見ていられなくて、テンガアールはがしっ、と彼女の両手を取った。
イキナリの行動に、ビッキーはぽかん、とテンガアールの顔を見たけれど。



「ぼくは、きっとユクさんだってビッキーちゃんに会いたいと思うよ?だから、こっちから会いに行っても、良いんじゃないかな」



「て、テンガちゃん…?」



「折角テレポートだって出来るんだし!それに、今日はバレンタインだし、ユクさんが困るくらいにガンガン攻めてっちゃえ!」




こんこん、と示すように大鏡を小突いてみせて、彼女は小さく片目を閉じた。



「ダイジョーブ!“本日休業”ってぼくが此処に張り紙しといたげるから!」



自信たっぷりに言う彼女は、羨ましいくらいで。



「うん、じゃあお願いするね!」



言うが早いか、その場から、ビッキーの姿は光のように、風のように消えてしまった。

小さな包みと、たくさんの想いを、両手にして。













―――そうだね、いつもはユクさんが来てくれてばっかりで、いつもいつもユクさんばっかり優しくしてもらったけど。



今日くらいは、私も頑張っても、良いよね?





イキナリ押しかけて行って、ユクさんを困らせて、たくさんたくさん「大好き」を言おう。











―――だって、今日はおんなのこの日、だもんね。














■ふよさんのヒトコト■
えー……微妙だな~…(汗)。
ここでこーゆーこと書くくらいなら、もっと本文(?)でちゃんと書けよ!と思われそうですが。
普段は坊ちゃんの方が気持ちをばっちり表していて、ビッキーは「待つ」感じかな、と思ったので、この日ばかりはビッキーが押せ押せでも良いかと!
ていうか坊ちゃん出てないよ。名前だけだよ、これでも坊ビキ?(汗)
すいませんすいません、こんな坊ビキまがいかもなSSですが、バレンタインということで~!(滝汗)
いや…なんていうか、きっと坊ちゃんも「今日くらいはビッキーから会いに来て欲しいしね」とか言って自宅で(笑)寛いでそうだな~なんて思ってたりもしたんですが(笑)。
書いたらごっつい印象変わっちゃったとゆー話もアリ!(大笑)
ラブで締めた次第で御座います。<オイ。


■石猫のタワゴト■
珍しく?能動的に押せ押せムードなビッキーがカワイイですv
でも思い立った日が吉日ってなカンジに思い切りが良いですね、彼女。決心したら即実行!こーゆー所がビッキーのビッキーたる所以でしょうか?
さりげに面倒見の良いテンガちゃんもいい味だしてマス。
自分がシアワセな時は他人にも寛大な気持ちになれますもんね!←だいぶ違う

そーですか!坊ちゃんは家でくつろいでますか!
今日ばっかりは待ちの作戦に出たのですねー!!!←?

最後に……ナナミチョコの犠牲者が誰だったか気になる私。
ナナミ&ビッキーの組み合わせでレストラン厨房を蹂躙!?
ハイヨーの嘆きようが目に浮かびます(笑)。


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