2002/04/12



Small is beautiful -ミラクル2-



何でも出来るし、何でも持っている。
天に輝く星さえもこの手のひらの中に。
人は無邪気に大きなことを求めるけれど。
それがどれほどつまらないものであるか知らない。



退屈な世界に僕がほど良く飽いていた頃。
目の前に“小さな”奇跡が舞い降りてきた。













 強い春風が咲き乱れる桜の枝を揺らし、空高く無数の花びらを舞い上がらせる。
薄曇りの空は鮮やかな薄紅に染まった。時を移さず小さな花弁がはらはらと降りしきるさまは、さながら春の雪のよう。


僕は空を見上げたまま少し笑った。
今ここにいない誰かさんのことを思って。



そしてゆっくりと振り向き、空中に漂う青い奇妙な物体に目をやった。




「フリック……いい加減にしてくれない?これで何回目だと思ってるのさ」
「わははははー!お前も懲りねぇヤツだな、フリックよぉ?」



 笑い死に寸前のビクトールには構わず、僕は全身青ずくめの自称ブルーサンダーにあざ笑うようなマナザシを向けた。雑巾バケツを被せられた挙げ句、リリカルな風船を3つ背中に付けられた青雷のフリックは無言で宙を漂い続ける。

賞味期限切れの元牛乳臭いバケツのダメージが余程大きかったようだ。




「○月×日曇り。哀れなフリックはそのままホークマンに攫われて美味しく食べられてしまいました。終わり」
「バカ野郎〜!?勝手にオレの人生に終止符を打つな、リアン〜〜〜!!!」
「だって最後の針はシーナが使っちゃったし」
「へ?これ、針だったのか!?オレはてっきり爪楊枝だとばっかり……」



 右手に針で突き刺した理不尽なまでに巨大なタコ焼き、左手にバケツ一杯のフライドチキンを抱えながら、シーナは世にもすっとんきょうな声をあげた。


 首にかけられた応援メガホンといい白地に縦縞のハッピといい、これぞカンペキなる野球観戦モード。その上、試合前の球場で仁義無き席取り合戦を繰り広げていたのだから、まったく救いがたいにもほどがある。



……まぁバカはバカでも、戦闘のたびに風船で漂うバカよりはマシかもね。




「見てろよリアン!今年こそミーアキャッツはAクラス確実だぜ〜〜〜!!!」



……やっぱりこいつのほうがバカかもしんない。



 シーナのハッピの背に描かれた、二本足立ちしたバカでかいオコジョのようなイキモノの絵柄を見ながら僕は内心思った。


まぁいいさ。夢見るのは自由だし?
だけどオンチ極まりない“清風山おろし”なんぞ歌い出したら息の根を止めてやる。




「あの……リアン様」



どこまでも控えめな声が耳を打つ。


僕はその「常に三歩下がって師の影を踏まず」的な響きに苦笑しながら振り返った。
「三歩進んで真正面から師を蹴倒す」僕と呆れるほど正反対なので。




「なんだい、カスミ」
「先程、お言いつけになられた通り手配致しましたことをご報告に……」
「ああ、ありがとう。カスミは仕事が速くて助かるよ」



僕は満足げに言った。
すでに習い性となっているいと優しげなホホエミを添えて。
案の定、カスミは白い顔を朱に染めてボーっとこちらを見つめるばかり。
なんとも予想通りの反応に僕は内心ニヤリと笑った。




「リアン〜!もうお昼よ〜!ご飯食べよ      !!!」



 いきなり後ろから飛びついてきたのは爆裂元気娘。この背後からの凶悪ヘッドロックに首の骨を折らなかったのは、ひとえに僕の卓越した運動神経のタマモノである。




「……やぁメグ?さっき僕が頼んだことやってくれた?」



 ゆっくりと顔だけ後ろに向け、こなきジジイのように背中にひっついたままの少女に微笑んだ。




「い!?え〜とその……あははは〜〜〜?」
「働かざる者、食うべからずってコトワザ知ってる?」
「ケチ〜!ちょーっとだけやり残しがあるだけだもーん!!!」
「却下。速やかに持ち場につくこと」



そう言って僕はメグの額を軽く指で弾いた。




「……ちょっとリアン!!何すんのよ      !!!」



依然と僕の背中に取りついたまま、妖怪からくり娘が吠え猛る。
まぁこれもいつものことだけど。笑ったかと思えば怒りだしたり。
喜怒哀楽が150キロ直球勝負なメグは見ていてとても面白い。




「だって正確な座標を割り出さないと危ないじゃないか」



広い範囲を空間反転させるのは結構厄介なのだ。
ただでさえ向こう側とこちら側の質量が均衡してないっていうのに。




「うーん?もう一度、計算し直すしかないかな?」



そんなことを考えながら僕が数式片手に沈思黙考していると、ふと風が凪いだ。




なんとはなしに顔を上げると、舞い降りてきたのは一片の花弁。
手を伸ばして掴むと、ささやくような呟くような声が降ってきた。
大気を揺らし空間を跳び越えて、輝く金色の光のように降りそそぐもの。



それは僕の名を呼ぶ彼女の声。
それは僕が手に入れた小さな奇跡。




「うん。いま行くから待ってて……ビッキー」





僕を呼ぶ小さいけれど確かな声。
そのささやかな響きこそ愛しいすべて。



何でも出来るし、何でも持っているなんて。
それに比べたら何ほどのものだろう。





なんてこともない毎日を一緒に笑って泣いてケンカして。
君の名を呼んで、僕を呼ぶ声を聞いて。
ごく当たり前の日々のなか、いつも二人でいられたらいいね。
終わりのない時のなか、ささやかな幸せを紡いでいけたらいいね。



うっすらと我知らず微笑む。






だって僕はつまらないことが大嫌いだから。
人生は面白いほうがいいに決まってる。




「それじゃあみんな。僕がいいって言うまでここから動かないこと!いいね?」



僕は一方的に言い置くと、そのまま音もなく空間を渡った。
呼ぶ声の軌跡を辿って。
着いた場所は見慣れた地下の薄闇の中。
仄かな虹色の輝きに包まれた鏡の前で膝をついてるのは愛しい少女。


僕は哀しげにうつむいたままの彼女に歩み寄った。




「なんだい、ビッキー?」
         ほぇ?」





そして僕は君と出逢う。














                                        END



 Small is beautiful. ささやかなモノが愛おしい。ミラクルの対になる話。ビッキーが覗いていた鏡の向こう側の情景に音声がつくとこんなカンジ。珍しくリアンが悟りの境地に達したような語りモードに入ってます。ごく当たり前の大きなコトに飽きたので今度は小さなモノに興味が出てきたんですね、ゼイタクな奴。やはり人生は楽しくてナンボです、はい。

 シーナの応援球団はコウアン・ミーアキャッツ。ここのところ万年Bクラス街道をばく進してるとか。決して阪○タイ○ースを暗に示しているワケではありません……たぶん。じゃあライバル球団に帝都プレーリードッグスとかいるんだろーか?



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