2002/03/31



Is it true ?



それは春の日のこと。


花の香りに誘われてか、ふらりと訪れたかの英雄が大鏡の前の少女に一つの提案をした。




「今日が何の日か知ってる?」




にこりと笑って尋ねられれば、少女もこくりと一つ頷く。



「さっきアップルちゃんに聞いたよ。えぇと、今日はエイプリルフールなんだよね?」


「そ。それなら話は早い」




少年は天を指すように、人差し指で示した。







「僕と一つ、勝負をしよう」















一体何が目的でそんなことを言い出したのかは分からないけれど。
もしかすると、単に遊びたい口実が欲しかっただけなのかもしれないけれど。


ユクはビッキーに嘘を望んだ。



「僕を騙せたら、何でも言うことを聞いてあげるよ」





一方ビッキーはというと、朝からエイプリルフールに熱を上げている同盟軍の仲間によっていくつか騙されていたりしたものだから「よーし!」と彼の提案にすっかり乗っていた。

了承を得て騙す側になれることなど滅多にない。

しかも今日一日の間なら、大概の嘘は笑って済ませてもらえるのだから。







それでも、嘘ばかりを重ねていては、直ぐに其れは“嘘”だとバレてしまうもの。

他愛無い日常会話を消してしまうほどは欲しくない。



「…ユクさんはそれをするためだけに来たの?」

「うん。まあね。折角こんなに面白い日があるんだから、どうかなとは思ったんだけど………ここはやっぱり相変わらずだね」


ぼんやりと通り行く人たちを見ればそれぞれに頭を抱えていたり、すっかり気を落としていたり。
一時だけでも“嘘”がブームになっている様子。


「まさかこんなにエイプリルフールが猛威を振るってるとは思わなかった。……ビッキーも騙された?」


とん、と鏡に背を預けて小さく口元で笑って見せると、ビッキーは僅かに頬を染めた。


「だ、騙されてないよ!」


「嘘だね」




ほら、すぐに分かるんだから、とクスクスと声を立てる。

ビッキーは納得いかないように、口をへの字に曲げてそんなユクを見ていた。
コンコン、とワンドで床を叩いてみると、いきなり今度はぱっと顔を上げた。


「あ、あのね、ユクさん知ってる?今日ね、ハイ・ヨーさんのレストランで、小さな火事があったんだよ」


「へえ」


「えっと、ナナミちゃんに聞いたんだけど、お料理してたらイキナリぱーっと火が大きくなって、何にも燃えなかったから大丈夫だったんだけど」


「……それも嘘だね」


身振り手振りで場景を表そうとするビッキーに、さらりとユクは言ってのける。
最初はぽかん、とビッキーも驚いていたけれど。


「え、え、なんで分かるの?」


まさか分かるまいと思っていた“嘘”があっさりと見破られて、少し悔しそうな表情をする。


「まあ“嘘”にしては良い出来だよ。あんまりオオゲサなことじゃなくて、在り得なさそうなことを小規模で語られれば信じることもあるしね」


「…よくわかんない…」


「そんなに簡単に僕は騙せないってこと」



コン、と手にしていた棍を壁に立てかける。

今日はどうやらテレポートを頼みに来る人間も居ないようだ。
もしくは、彼らに気を使っているのだろうか?



「じゃあ、…ユクさんは誰かに騙された?」


「今から騙されようとしてるところ」




自信に満ち溢れたその一言は、言った対称がルックやシエラであったなら、すぐさま怒りに満ちた紋章が飛び交うことであるだろう。
また、シーナだったりなんかしたら、恐れ怯えて秒速10メートルで背後に飛び退る所だろうか。



「そういえば、ニナちゃんがグリンヒルの自分のお家から此処へ通うことになったって、聞いた?」


「引っ越すってこと?」


「うん、そうそう!」





嘘に時々真実を混ぜて。

交互に差し出してゆけば、きっと彼は何処かで躓くだろう。


言葉遊びを楽しむように、そうして時間を過ごしてゆけば。








――――それでも、彼は騙されなかった。




真実だけしか受け付けないのか、それとも見破る術を身につけているのか。



ビッキーの語る嘘も真実も、全て的確に答えてゆく。

相手が他の人間でもきっと彼なら見抜くだろう。


言葉の乗る微妙な空気の温度でさえ、彼には見えているのかもしれない。










「―――それも、嘘だね?」










今日何度目かの“解答”を告げられて、ビッキーは大きな瞳を何度も大きく瞬かせた。



どれだけ巧妙に隠してみても、すぐに見つけ出されてしまうのは何故?




「え、なんでなんで?どうしてユクさんにはすぐ分かっちゃうの?」



「ビッキーは正直だから、全部顔に書いてあるんだよ」


とんとん、と自分の頬を指して、やはり笑う。
それが、ビッキーには悔しかった。


彼には分かっていることなのに、きっと自分なら彼の“嘘”を見破れないだろうから。

其れは、自分だけが負けているような気がして、悔しい。






「ビッキーのことなら、なんだって分かるよ」



「じゃあ、…じゃあ、私が何を考えてるか分かる?ユクさんはそれを当てられる?」



自信に溢れた彼の言葉に、どうにかして負けたくなくて、ビッキーはそんなことを言い出した。

ビッキー自信、ユクの思って居ることは全部は分からない。
自分以外の誰かのことを全て分かる人なんて、正直、何処にも居ないと思う。
人間というのは、そんなに簡単なものではない。


―――だから、彼だけが自分のことを分かってるのは、凄く悔しい。


いつも同じ位置で居たいから、同じだけ、彼のことを分かって居たい。








探るような瞳をするユクをじっと見つめる。


そのまま数秒。



彼はポン、と言葉を放った。




「―――僕を騙したいと思ってるね?」



「そうだよ」





投げられたボールを返すように、有無を言わさずにビッキーは答えた。





「どうにかしてユクさんに勝ちたくて勝ちたくて仕方ないの」




「ふぅん…それで、勝てそうな気は」







「―――なんて、嘘」








彼の言葉を遮るように、ビッキーは変化球を投げる。

何処へ飛ぶか分からない、そんな行方。





「ホントは私の考えてることを当てられるのが悔しくって、私も同じだけユクさんのことを知りたいと思ってたの。同じだけ知ってないと悔しい」







ユクさんだけいっぱい私のこと知ってるのって、凄く悔しい。








真剣な彼女の眼差しに、驚いたのはユクの方で。


全部知っているなんて豪語したものの、彼女がそんな風に思っていたなんて、思いもしなかった。




「……それは、嘘?」



「ううん、ホントだよ。………えへへ、ユクさん、外れたね。私の勝ちだね」



負けでも良いと思えるくらいの言葉を貰った。

―――そんな気がする。








「参ったな。どうやら、君のことは全部分かるなんて僕の思い上がりだったみたいだ」

両手を顔の横で軽く上げて“降参”の意を示す。

それを見て、ビッキーは小さく笑った。








同じだけ。



同じだけ、お互いの事を知りたいね。















「…それで?僕は何をすれば良いのかな」













全部、というのは贅沢すぎるから。


いっぱいすぎて、勿体無いから。



















「あのね、…えぇと、それじゃあ…」







ビッキーがユクの耳元に口を寄せる。

大切な約束を交わすように、小さな小さな声で囁けば。











「――――それは、嘘?」





















「―――ううん、ホント、だよ」











全部は贅沢すぎるから。





少しずつ、知っていきたいね。











■ふよさんのコメント■

時間泣くって突貫作業なのがバレバレ(汗)。
エイプリルフールネタでした。そういや去年はコレ書いてなかったんだなあ。
ラストの「ビッキーが坊ちゃんを騙すネタ」はもう一つ二つあったんですが、書いてる内にコレに納まりました。…まあいっか。
因みにビッキーが語る「嘘」は実際にワタシが騙されたネタでしたー……すっかり信じ込んであたふたしちゃいましたよ、チクショ。やってくれるぜ友人!(笑)
…同盟軍って平和だな〜…。きっとシーナとか格好の餌食になってるんでしょうね、4月1日なんて(笑)。


■石猫のタワゴト■

「今から騙されようとしてるとこ」

相変わらず自信に満ちたユクさん素敵    !!!
でもビッキーもナカナカやりますねぇ v 彼を出し抜くとは。
……しかしユクさん。
アナタ、もしビッキーに勝ってたらいったい何を要求するつもりだったんデスカー?



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