2002/12/24
■ Magic ■
空が重い。 風が冷たい。 もうすぐ雨が降るかもしれない…いや、この寒さなら雪か。 買い物の帰り道。 今晩のおかずの材料を買った。 雪は嫌いだけど冬は好き。 グレミオのシチューが一番美味しくなる季節だから。 と、その時、頭上からぱらぱらと何かが降ってきたのに気付いた。 僕の吐く息で白くなった視界の中に小さな粒が降ってきた。 雪じゃない、土の塊…と言うか何というか? …靴の裏とかに付く、あの小さい土埃に似ている。 …でもどうして? 顔を上げた僕の視界は、次の瞬間真っ暗になった。 「きゃああああああああ!」 「いっ!?」 どさっ。 「うぅ…、いたたた…。」 「…。」 「…ここ、どこぉ…?」 「…おい。」 「まいったなあ…また失敗かなあ…。」 「……コラ。」 「せっかく…良い思い付きだと思ったんだけどなあ…。」 「……聞いて…。」 「ああ!?何でこんな所にジャガイモが散らばっているの!?」 ブチ 「どけよこの野郎!重いんだよ!」 「うきゃあ!」 空から降ってきて、僕の背中に落ちてきたのはかつての戦友、ビッキーその人だった。 前の戦争から3年、今彼女は都市同盟にいるらしい…物好きな。 しかし、その彼女が僕の上に降ってきただけでなく、先に散らばった荷物に気付くとは何事だ! 跳ね上がった僕に飛ばされ、ビッキーはコロンところがった。 「…ああ…?ビックリした…。セネカさんじゃないですか!いたんですか?」 「僕の上に降ってきたクセにそれはどういう意味だ!」 しかし、怒鳴りながら散らばった荷物を回収する僕に対し、あくまでマイペースに、スカートのホコリを叩きながらビッキーは立ち上がった。 「久しぶりですねえ、セネカさん。会えて嬉しいです。」 「この前会っただろ。」 「最後にクリスタルバレーで会ってから、もう一年近く経ちますもんね。」 「僕はクリスタルバレーに行ったこともなけりゃ君に先週、マヨめし城で会ってるんだがね?」 「あ、そうそう、プレゼントがあるんですよ。」 「お願いだから僕と『会話』してくれる?」 半ば泣きたいような気持ちでそう言った。 この娘はいつもそうだ。 どうやっても僕のペースにならない。 そういう意味ではクレオも同じなのだが、僕が敵わない女のひとは彼女だけでいい、これ以上そんなひとがいてたまるか。 そんな僕の心など、君は知らないのだろうけど。 すると、ビッキーはにこにこと笑いながら、僕に大きな紙袋を差し出して言った。 「はーい、セネカさん!プレゼントです!」 「…誕生日は過ぎてるけど。」 「違いますよ!これはクリスマスプレゼントなのです!」 「…くりすます?」 聞き慣れない単語を耳にして、僕は首を傾げた。 きっと初めて聞く単語ではない、けれどどこで聞いたモノなのかは思い出せない。 「…なんだっけ?それ?」 「お祭りですよぅ、西の国に伝わる、偉い人の誕生日パーティーです!」 「…その『偉い人』じゃなくて、どうして僕にプレゼントをくれるのさ?」 西の国、ってどこだろう。 グラスランドより向こうかな。 でも、あっちは確か部族社会だから、そんな発想はあってもおかしくないだろう。 …それが? するとビッキーは大きい目をより大きく開いて、あれ、と首を傾げた。 「えぇ?どうしてセネカさんにあげるかですか?…そう言えばどうしてでしょうねえ?でも、今私のいる所では皆、こうしてプレゼントをあげてますよ?」 「…今君はどこにいるの?」 「ですからー、ここよりずっと遠くの西側でー、あれ?西?うう…でも…裏?じゃあ東?」 「もういい。」 呆れてそう言うしかなかった。 何となくわかったことは、今ここにいるビッキーは僕がこの前会ったビッキーより『先』のビッキーであるらしいと言うこと。 それで今は、ずっと『西』の国にいて、遠い国からやって来たと言うこと。 それは何のために? 「…それ僕にくれるものなの?」 「は!そうなんですよそうそうそう!皆プレゼント渡し合ってましてね!それ見てたら私もセネカさんに何かしたくなって、はるばる来ちゃいました!」 「…そんなことのために、遠くから僕に会いに来たの?」 「はい!いい思いつきでしょ?『急がば回れ』って言うじゃないですか!コレ買ってからすぐに飛んできたんですよう!」 「『善は急げ』の間違いじゃないのかそれ。」 「今回は失敗もしないでまっすぐセネカさんの所に来れたんですよ?褒めて下さい!」 きっぱり、はっきりとしたその言い方に、しばらく唖然としていたが、不覚にも、僕は吹き出してしまった。 『僕に』くれるはずの紙袋を差し出したまま、ビッキーは不思議そうな顔をして僕を見ているが。 「…君って、本当に変な子だよねえ。」 「え?やだ照れます!セネカさんてばもう!セネカさんの方がもっと変じゃないですかあ!」 「否それ褒めてないから。」 ビッキーは本当に照れているらしく、大きく首を振った。 …よく解らないが、やはり彼女のペースに巻き込まれているのは確かだった。 照れ隠しの所為で激しく動く腕が、その手に持っている紙袋をくしゃくしゃにした。 おい、それは僕にくれるものじゃないのか。 「もう、セネカさんてばいじわるですねっ!」 「いや。別になにも。」 「あ。ほらほら、ぼさっとしてないでプレゼントー、早く受け取って下さいよ!」 「…お願いだから僕と『会話』してくれる?」 聞いてない。 全く聞いてない! それがわかっていながらも、ぼやかずにはいられない。 ビッキーはくしゃくしゃになった紙袋を、ぐいっと僕に押し付けた。 なるほど、プレゼントらしくリボンはかかっている…縦結びだけど。 がさがさと大きな音を立てる紙袋から、僕はそっと中のものを取り出した。 毛糸の帽子。 黄色いニットで、暖かそうなふわふわの生地。 そして、正面に大きな目、てっぺんに猫の耳が2つ、後ろには三つ編み形のしっぽの付いた…。 「………………コレを僕に?」 「はい!セネカさんに絶対似合うと思って買っちゃいました!可愛いでしょ?」 「…これを僕がかぶるの?」 「似合うと思いますよ?きっと可愛いです!」 …褒めているのか馬鹿にしているのか。 いや、きっと褒めているのだろう、この娘はそういう娘だよ、僕は知っている。 悪びれた様子もなく、ビッキーはにこにこと笑っている。 まったく、こんな帽子を僕に渡すために、はるばる遠くから来たというのか。 遠い異国の、僕の知らない行事に踊らされて、僕のためにここまで。 「…ありがとね。」 「どういたしまして!気に入りましたか?」 「……ありがとうね。」 素直にハイと言えないのは、まあそう言うことだけど、気持ちとここまで来てくれた手間は、有り難く受け取っておこう。 …やっぱり変なコ。 「…ビッキー、今からウチ来る?この帽子のお礼がしたいけど、今僕は晩のおかずの材料しか持ってないんだ。」 「え。」 「だから、ウチでご飯食べてったら?今日はグレミオのシチューだよ。どう?」 お礼はしたい。 それは僕の素直な気持ち。 ビッキーはキョトンとしてそれを聞いていたが、言葉の内容を理解すると、嬉しそうに手を叩いて笑った。 「うわあ、いいんですかあ?嬉しいなあ…、皆さんお元気ですか?」 「うん、元気だよ。きっと皆も、君に会うのが久しぶりだから喜ぶと思うよ。」 帽子を紙袋に押し込み、僕は家の方に向かって歩き始めた。 ビッキーも僕に合わせて後ろから付いてくる。 「へへー。楽しみです、グレミオさんのシチューかあ…って、あ!」 「セネカさん!雪ですよ!ほら!」 ビッキーが空を真っ直ぐ指差した。 …本当だ。 雪がついに降り始めた。 「クリスマスに雪が降るとねえ、それはホワイトクリスマスって言うんですよ。」 「…雪で白いから?安直だねえ。」 「ええ?でも、バレンタインだって、雪が降るとホワイトバレンタインデーですよ?」 「それも知らないけど…。」 何だか訳のわからない暖かい気持ちを噛みしめながら、僕はゆっくりと歩いていった。 ビッキーはずっと、僕の少し後ろを歩いて来ていた。 別に振り返る事はしなかったが、返ってくる返事と無機質な靴音で、ビッキーが僕のすぐ側にいる事はわかっていた。 雪は好きじゃない、だけど、今雪の中でこうしている事を、僕はきっと、嫌だとは思っていない。 「はい、ここが僕のウチ。」 「わぁ…大きいお家ー!」 いつの間にか、我が家が目の前に来ていた。 他愛ない話をしながら歩いていたので、意外と早く家に着いてしまった。 「じゃ、ちょっと待っててね、グレミオに君が…。」 「…へっくしょん!」 「…来てるこ……あ?」 本当に一瞬の事だった。 「…あれ?」 彼女は行ってしまった。 本当に突然すぎて、本当に一瞬の事で、僕はどうしていいのかわからなかった。 たった今までここにいたんじゃなかったっけ? 僕の後ろにいて、ずっと喋っていたんじゃなかったっけ? …今日は僕の家で、食事をするんじゃなかったっけ? じゃあ、どうして今僕はここに1人なんだろう。 今までビッキーといたことが夢だったんじゃないかと思うほど、あまりにあっさりといなくなってしまった。 「…でも夢じゃないんだよねぇ…。」 手の中にはしっかりと、『クリスマスプレゼント』のあの帽子が残っていた。 残念。 グレミオのシチューはまた次の機会になってしまったね。 でも、これから先も必ず君に会えるという事を、僕は知っているから別に寂しくはない。 その時こそ、この君らしい『プレゼント』のお礼をしなくちゃね。 …そんなことを、僕は空の雪に向かって呟いてみた。 あとで知ったことだけど、『クリスマス』には何か奇跡が起こるんだって。 そんなもの、この僕が信じるわけないだろう? でも少しだけ、今日のことはそれと言ってもいいのかなと、思ってみたりした。 「メリークリスマス!」 END |
■石猫のタワゴト■ ビッキー時空宅急便。お届け先はトランのマクドールさん宅(笑)。相手の話なんかろくすっぽ聞かず、自分ペースでひたすら押しまくるビッキーが可愛くてなりませんv坊もなんだかんだ言って「変なコだけどなんか気になる」みたいでホホエマシイですねっ。←? ネコ耳帽子きっと似合うよ、だから被って頂戴〜! |