2002/01/03
■ 始まりの日■
新しい日が来る時は どうぞ、僕の側にいて。 後数刻で、時間を越える風が吹く。 祝祭に賑わう城内を後にして、数多の手に引かれるビッキーを、彼はそっと連れ出した。 人の声の絶えない城内とは違い、風と月の音しか聞こえない草原は、二人に緩やかな時間を、与えてくれた。 足元で揺らめく草の優しさが、そっと闇を和らげた。 名残惜しそうに、城を振り返るビッキーに、ユクは静かに呼びかける。 「寒い?…戻った方が暖かいかな」 「ううん!ユクさんと一緒だから!大丈夫だよ!」 ひっそりと、誰にも告げずにやってきた。 邪魔されずに、居たかったから。 まだ時刻は新たな年を迎える数刻前。 一番最初の光が大地を染めるにはまだ早いけれど。 「時間には、いつも、最初と最後があるんだ」 ぽつり、と、ユクが呟いた。 いつも見せる、淋しい瞳で。 「…??それって、どういうことなの?」 ブルーグレイの瞳に隠された気持ちの真意は感じ取れたけれど、言葉の意味は分からなかった。 ビッキーは、問いを返す。 「何事にも、終わりと始まりがあるってことだよ」 そうだな、例えば…と、ユクはそっとビッキーの右手を取った。 細く冷たい指に、包み込むように自分の指を絡ませる。 ビッキーは、きょとん、と彼の顔を見上げていた。 闇にも隠されることの無い、彼女の姿。 そんな彼女に教え、諭すように、彼は優しく言葉を紡いだ。 「こうして、“手を繋ぐ”ことが、始まり。…それから、いつかはこの手を離さなきゃならないだろう?…それが、“終わり”」 森羅万象、全てのことには、“始まり”も“終わり”もある。 それは、変えることのできない、永遠不変の原理。 人の命も世界の終わりも、全部その二つで出来ているんだよ。 其れは、彼女には伝えられなかったけれど。 一人、心の中で呟く。 ―――けれど、やはりビッキーは、その言葉の真意に再び気付いたのか。 ぎゅっと、ぎゅーっと、繋がれた手を握り締める。 「大丈夫だよ、この手は、絶対離さないから。離れても、また繋ぎ直すから」 「…ビッキー?」 「だから、そんな淋しいこと、ユクさんは言わないで良いんだよ」 必死な瞳で、そう言われれば、ツライ色も、仄かに彼女に向けられる感情に染まってしまい。 「…そうだね。ビッキーが側に居てくれるなら、もう何も、淋しくなんてないね」 両手で、二人の手を繋ぐビッキーの手に、冷たいままの自分の手を添えた。 「終わってしまっても、もう一度始めれば良い。…淋しいなんて思う暇があるなら、終わらせなければ良い。…それだけのことだね」 二重にも三重にも重なってゆくぬくもりの輪は、凍りつかせるような冬の凍気も、消してしまう。 「もうすぐ、“今”は消えてしまって新しい時間がやってくるけど。…それでも、僕と居てくれる?」 「うん!ずっとずーっと一緒だよ!」 始まりは二人で。 そして、終わりさえも二人で飛び越せたら、良いね。 両手を繋いで、時間の終わりを感じている。 心音に合わせて、吹き流れる風の音に、耳を預けて。 とく、とくと。 終わりの来ない、朝を待つ。 「いつも一人きりにさせてごめんね」 寄り添った黒髪に、聞こえないくらいの囁きで。 「一緒に、時間を飛び越えよう」 “今”という時間の流れから、“新年”という時間の中へ。 まるで、“自然”という名の、魔法のように。 今日だけは、この手を繋いだまま、二人一緒に。 「ずっとずっと。一緒だからね」 飛び越える。 その、時間を。 |
■ふよさんのヒトコト■ 坊ビキ。一応(?)新年SS。 坊ビキ研究所に捧げさせて頂きました。ああ、何だか凄くあっさり加減で塩少なめ。(謎) 書きたかったのは「一緒に時間を飛び越える」。 坊ビキテーマで新年、って言ったら、やっぱこれかなーと思いまして。ありきたりネタで申し訳ないのですが(汗)。 なんていうかもう、ビッキーちゃんてば癒しの人ですね。今年一年、坊ちゃんと一緒にいてあげてください。 そして、彼に安らぎの一時を! 石猫さん、こんなヘナチョコSSですが、どうぞもらってやってくださいまし~! 今年一年、どうぞよろしくですv(笑) ■石猫のタワゴト■ はい~しっかりちゃっかり頂きにあがりました! へなちょこ?とんでもない。素晴らしき作品ですよ。 こっそり本拠地を抜け出す描写がすごいツボですv 真夜中少し前の夜の闇を静かに歩く二人。ああ、ステキ。 物事にはすべて始まりと終わりがあって。 いつか必ず終わりがやってくる。 けれど。 終わりさえも二人で飛び越えられたらいいですねv そして新たなる始まりに着地する? 新年に相応しい最高のプレゼントに感謝v |