2002/06/24
■ 星の休日 ■ |
今日は年に一度の星の大祭。 「雨、雨、降れ降れ〜もっと降れ〜♪」 大陸の南方に位置する赤月帝国一帯は、ただいま雨期まっさかり。よってこの日がカラっと爽快に晴れることなど殆ど無い。だが今朝は奇跡的にしとしとジメジメと続いた長雨が止み、やっと数日ぶりに太陽が雲間から顔を覗かせた。それなのに、 「天の縁から〜滝のように降り注げ〜〜♪♪」 本拠地B1階に朝から延々と響き渡るのは、雨の滴を招く歌。 「あの山こえて1万尺〜♪目指せ雨量2万海里〜〜〜♪♪♪」 なんとも景気の悪い歌は延々と続く。この湿度99%の歌の音源は、天井にまで届く特大青竹の頂上部。ぐらつく梯子にちょこんと腰掛けて例の歌を唄いつつ、ビッキーは篠の葉にせっせと白い奇妙な物体を吊していた。 「お嬢ちゃん……そんなに降ったら大洪水だよ」 とりあえず帰還魔法術士ヘリオンは、ますますナンセンスなトンデモ世界へと広がっていくビッキーの唄にツッコミを入れた。 「今日は星祭りなのに、なんだってそんなの唄ってるんだい?」 「え〜?だからわたし、唄ってるのよ〜雨乞いの歌」 ビッキーは青竹に架けられた梯子の天辺から、顔だけ下に向けて言った。同時にひらひらと四つ折りの紙が舞い降りてくる。 「は?雨乞い? 怪訝そうな面もちで拾い上げ、思わず目が点になる。ゴシック太文字でくっきりハッキリ刻まれていたものは。 “ふるふる坊主設計図” 1:適当な大きさの風呂敷(白以外不可) 2:ムササビの卵(固ゆで・LLサイズ必須) 3:荒縄(極太・神社のしめ縄クラスが望ましい) 4:極太マジック(油性) ● 風呂敷の真ん中にムササビエッグを置いて包む。 ↓ ● 首になる辺りを荒縄で満身の力で縛る。 ↓ ● 全長5メートル以上の青竹に吊す。 注:ムササビの卵はLLサイズでないと頭部が軽くなり過ぎて、てるてる坊主となってしまいます。バランスに注意! 「………………」 無言で視線を上に向ける。そして海よりも深く後悔した。 「……見なけりゃ良かった」 帰還の鏡の前に設置された超特大青竹の枝先には、設計図の挿絵と寸分違わぬブキミなモノが、縛り首状態であちこちに揺れている。はっきりいって青竹と吊された無数の白いふるふる坊主の篠飾りの組み合わせは、非日常的シュールレアリズムを通り越して宇宙人的無常観の境地にまで達していた。 ヘリオンが半ば諦観の念にも似たウツロな気分で白い吊し首の群を眺めていると。 「星祭りって〜お星様の正月みたいなモノでしょ〜?だから〜雨降りじゃないと困るのよねぇ。お星様、お仕事休めないから〜」 いつもながらに気の抜けたほえほえ口調でビッキーはのたまった。 「……そりゃ、一体どこの風習だい」 「えええ?わたしの国では年中行事なんだけど〜〜〜?」 「……ああ、なるほど……そうかい」 ムササビの卵を丸飲みし、桜の下に死体が埋まっている不思議の国では、他にどんな奇妙な風習があったって全然おかしくはない。……おかしくはない……けれど。 異文化コミュニケーションって難しいモンだねぇ……ヘリオンはしみじみ思った。 「そういやあんた、高いところ平気なのかい?」 「ほえ?…………うきゃ〜〜〜!忘れてた〜〜〜〜〜!?」 そう、彼女の高所恐怖症はハンパなものではない。いまさらながらビッキーは、ぐらぐら梯子に青竹のてっぺんという恐怖の事実に思い至ると、あわてて竹にしがみつき声の限りに叫んだ。しかし無情なまでに柔軟性に富んだ青竹が大きくしなった拍子に、ツルっと手がすべった。 「うきゃきゃ〜〜〜ウソでしょ〜〜〜〜〜!!??」 落下の衝撃を予想して思わず目をつぶる。1秒、2秒、3秒。 「あれれ〜???」 恐る恐る目を開けると、真昼の太陽のような黄色い瞳が見えた。 「〜〜〜ほぇ?リアンさん〜?」 「ただいま、ビッキー」 リアンはビッキーを抱きかかえたまま、にこやかに微笑んだ。 「いきなり大雨が降ってきて、参ったよ」 そう言う割にちっとも濡れていない。解放軍リーダーの非常識さ加減は重々承知しているが、これは一体どうしたことだ?ヘリオンがこのもっともな疑問を提示する前に、珍しくもリアン自ら真相を語り始めた。 「仕方ないからシーナを雨よけに使って問題解決」 「あれあれ?じゃあシーナさん、どこ行ったの〜?」 「本拠地の全自動洗濯乾燥機に放り込んでおいたから大丈夫」 「そっか〜なら安心ね〜〜〜」 それのどこらへんが安心なんだか全く意味不明だが、少なくともビッキーは納得したようだ。ヘリオンはHP1状態で脱水される哀れなシーナの姿を思い描いて、いたく同情の念を覚えた。 「というわけで、今日は休み。ビッキーと一緒にいるよ」 「ホント〜?ありがとうリアンさん〜〜〜 v」 「ついでに今ジメジメうっとーしいから、2週間ほど梅雨休みにするかな」 「わーい!嬉しいな〜〜〜 vv」 ヘリオンはいつものように繰り広げられるバカップルな光景を眺めながら呟いた。 「雨降りは星の休日かい。 こっちの大陸では雨が降ると星が逢えないと言うけれど。 晴れてたら星主殿も戻ってこなかったんだろうしねぇ。 なんとも理解しがたい不思議の国のビッキー的風習は、かくも奥が深いものなのだ。 END |
星の大祭=日本国風に曰く「七夕」。 宿星のなかでも坊は総元締めの天魁星だから「星主」。とゆーワケで。ビッキーは朝から彼の仕事妨害に勤しんでたんですね。忙しくてあまり構ってくれない恋人に一服盛って病気にし、動けなくなったトコロを嬉しそうに看病する女ほど極端な手段はとってませんが。……でも根っこの部分は同じような(苦笑)。 全自動洗濯乾燥機に放り込まれたシーナの運命やいかに!? |