2002/11/17
■ 時の約束2 ■ |
晩秋の早朝は少し肌寒く、行き交う人もまばらである。そんな閑静な空気のなか、ドアの軋み音が微かに響く。人気のない図書室から出てきたのは黒髪碧眼の美少女。 小さいビッキーは外見7歳児の少女が読むにしてはやたら小難しそうな魔法書や百科事典を何冊も携えたまま、何気なく階下に目を向けた。 「……なんだ、あれは?」 訝しげにつぶやく彼女の視線の先に写っているのは、世にも巨大なお化けカボチャを抱えながら、いかにも悩みの無さそうな風情で脳天気に歩く黒髪魔法少年の姿。 「また……あやつは何をやっておるのやら?」 ビッキーは長い黒髪を揺らして肩をすくめると、音もなく目の前の階段を下りていく。そして背後から足音を忍ばせて少年に近づき、やおら声をかけた。 「 だがしかし。ロディの返事はない。ビッキーは不審げに眉をひそめるとロディの服をぐいっと引っぱった。上体がわずかに傾いだかと思うやいなや、少年はあまりにも唐突にパッタリ床に倒れた。そのままピクリとも動かない。 「何たわけたことしておる、早く起きんか?」 憮然とした面持ちでロディの腕をつかんで揺すぶる。2秒、3秒、4秒………10秒。いくら待っても少年が動く気配は全く見られない。 「 首をひねりつつロディの顔に手をかざしてからさらに数十秒後、ビッキーの顔がみるみるうちに青ざめていく。なんとロディは脈拍はおろか、呼吸すらしていなかった。ビッキーはロディの胸ぐらをひっつかむと必死にゆさぶった。 「こ、この親不孝者めがっ!子が親より先に逝ってなんとする!?」 可愛らしい7才の少女が発するにしてはあまりに奇妙なセリフを叫ぶと、ビッキーはその場に呆然と座り込んだ。常日頃より冷静かつ明敏な彼女の頭脳もこの時ばかりは動きを止めてしまう。心の裡を足早に過ぎ去ってゆくとりとめのない事象に気を取られたまま、ぼんやり虚空を眺めていると。 「あはは〜びっくりしました〜?」 「 ビッキーは驚きのあまり目を見開いて叫んだ。さっきまで死んでいたはずのロディが体をおこして、普段通りの脳天気な笑顔を見せているではないか。ビッキーの驚愕のマナザシなどお構いなしに、ロディはにこやかに言った。 「ぼく、死んだフリ得意なんです!」 「………なんだと?」 「昔よく父さんと練習したんです〜」 「…………………あの男はまたしてもいらんことを〜〜〜!!!」 ビッキーは静かにして深い怒りにうち震えながら床に散乱した分厚い書物に手を伸ばし、渾身の力でもってロディの頭をぶん殴った。 「この大馬鹿者が〜〜〜〜〜!!!」 「あいたたた……ちょっと小さいビッキーさん!『グレッグミンスター大事典』なんかで殴らないで下さいよ〜!?」 「うるさいわっ!どうせこの電話帳の如く無駄にバカでかい事典とて、お主の馬鹿父が編集したモノではないか!ならばおとなしく責任とって成仏せい!!!」 「ど、どーゆー論理なんですか、それ〜〜〜!?」 ヘタレな口調で反論しつつ顔を上げたロディの目に、なんとも意外なものが飛び込んできた。見間違いかと思い目を瞬くが、どうやらそうでもないらしい。ロディは首を傾げながらビッキーの顔をじっと見つめると、不思議そうな面持ちでたずねた。 「あれ……小さいビッキーさん?どーして泣いてるんですか?」 「なんだと!?この私が涙する理由なんぞ無いわ!!!」 血相を変えてロディを怒鳴りつけてからはっと気づく。ゆっくり指で顔を辿ると、涙が伝ってこぼれ落ちた。 「そうか……私は泣いていたか………涙などとうに枯れ果てたと思うておったわ」 ビッキーはポツリとつぶやくと自嘲気味に笑った。いつも泰然自若に構えたビッキーとはまるでかけ離れた寂しげなその様子に、ロディは目を丸くする。少し逡巡したあと、ロディは先程から抱えたままのお化けカボチャを差し出した。 「あ、あの〜これあげますから、もう泣かないでください」 「 なかば無意識に受け取ってから目を見開く。カボチャのヘタをつまんで上部のフタを開けると、なかにはぎっしりとムササビ卵型サブレが詰まっていた。やけに懐かしくも見覚えあるこのトンデモカボチャの正体は………。 「ムササビバイオカボチャか?」 「はい〜ぼくんちの裏にいっぱい生えてるんです!」 「………そうか。まだあるのか」 我知らず呟いた言葉になぜか胸が熱くなる。 時を経ても変わらぬものが在る、そう思うだけで心が安らぐのはどうしたことか? ビッキー自身気づかぬうちに彼女の濃紺の瞳には優しげな光が瞬きだす。ロディはホッと一息つくと、しげしげとカボチャに見入っているビッキーにたずねた。 「そういえばさっきの“親不孝者め”って、なんなんです?」 「さぁな、空耳だろう」 奇しくもリアンと同じ言葉をロディに返す自分に思わず吹き出す。あの時あやつもこのような気分であったか?くすくす笑いながら巨大カボチャを真正面より見据える。 「のぉ?私は覚えておるぞ。 ビッキーはやけに黄色いカボチャの皮に愛しくも小憎らしい青年の瞳を思いながら、問いかけるようにささやいた。 END |
「時の約束」続編。7歳の母親と15歳の息子のほのぼの話。←どこが? この時点でえらい体感時間差が見られます。手短に述べますと幻水3の時代より小さいビッキーは何百年後?、ロディは約100年後の未来から跳んできております。でも大きいビッキーは15年前から時間跳躍。ああ、ややこしいったらありゃしない。時間跳躍一家はパラドックス説明がツラいね。ま、何百年経って相当フテブテしくシタタカになってもビッキーはあいかわらず死んだフリ攻撃に弱いようで。つーか死んだフリの練習に励む父子つーのもなんかイヤかも。 ちなみにグレッグミンスター大辞典=広辞苑とでもご理解下さいませ。 |