■■ 096: 手紙 ■■






―ビッキーへ・・・


君と出会って、僕は本当に沢山のものを手に入れた。
守りたいと思う気持ち。
大切だという感情。
父を殺め、泣けない僕に流してくれたその涙。
無条件で君がくれた暖かさ。

何気ない景色が、何気ない君の言葉で、急に色をもちはじめたり。
側にいるただそれだけで…世界が僕らごと包んできらきら輝いているみたいで。

「私のこと守ってくれる?」
「私ね…リウさんが大好きだよ」
「お願い、泣いて。そんなつらそうな顔しないで…っ…。
私、私、どうしたらいいのか分からない」
「夜空のお星様って一面の花野原みたいじゃない?
これって、ずっと消えないで春があるってことだよね?」

他にも沢山の言葉があるね。
…いいや、コトバだけじゃあ言い尽くせないほど。
君は瞳を輝かせて、心を宿した表情で。全身で想いを顕わしている。
僕はいつだって君に救われた。
君のお陰で満たされた。
飽くなき日々を過ごせた。

そんな君は今、ここにはいない。
なんだかやっぱり…寂しいね。
だからこうして手紙を綴る。
投函すべきポストは見当たらないけれど、さしあたり想いをしたためるために。
そしていつか君に届けるために。…―


ここまで書いて一度ペンを置く。
まったく。気持ちをいざ形にすると不思議と緊張するものだね。
これだけの文章をひきだすのに一時間二十一分。
いつもはビッキーに「好きだよ」なんて。さらりと言ってのけたのに…。
まああれは、反応を楽しむなんて余裕があったからかな?
今こうして思い出を辿りながら言葉を捜すのは…とても難しい。
あまりにもたくさんの想いが溢れてきて。上手く手紙にならない。

これはもしかしたらビッキーに届くことはないかもしれない。
まあ、それはそれでいいよね?
思いは伝えるためのものだけれど、日々変化するものだし、そうなったらこの手紙は用済みだから。
その時はまた別の手紙を綴れば良い。
会えないぶんの思いは、留まることなく募るから。
直接言葉で言うよりも、ずっとずっと多くのものを詰め込んで。
君に託す手紙にしよう。

そしてまたペンをとる。


―・・・君には誰よりも幸せになって欲しい。
誰よりも幸せを捧げたい。

「ただいま」とそう言える、君の帰る場所がいつも僕の側であるように。
「おかえり」と僕の未来で必ずまた、君を抱きしめれるように。
そう、願っているよ。

どうかこれからもずっとよろしく、ビッキー。

帝国暦314年
リウ・マクドール―…


好きと、愛しているの文字は手紙に書けなかった。
あまりに短い言葉で…そして、いつも伝えている言葉だからかもしれない。
必要が無かったのだろう。

恋文は二晩置いて、かつ読み返して(場合によって書き直して)から差し出すべしと言う。
僕が書いたこれもまあ、恋文と言えるだろう。
でもどんな文章に出来上がっていたとしても、素直なこの想いを恥じるつもりなどないから、さっさと仕舞うことにした。
インクが乾くのを待ち、やがて手紙を丁寧に折りたたむ。
封筒に入れ、蝋で綴じる。
蝋が完全に乾いた封筒を、日記の間に挟んだ。

窓の外を見るとビッキーのように澄んだ青空、暖かな日差し。


君に会う日が待ち遠しいね。










Data
No. 096 :手紙
Update 2003/06/20
Author ネコヤ ナギ


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