■■ 046: 綺麗 ■■





男の人をキレイと思うなんて、不思議。
でも、本当に綺麗なの。

こうして暗闇の中でみていても、月明かりを浴びて艶やかに煌く黒髪。
肌は、日を浴びている割には白くなめらか。
けれど不自然な白さではなく、あくまでも自然。
睫毛も…長いなぁ。いいなぁ。
触れる指も、武道が得意なのに、不思議とごつごつはしていない。
あくまでもしなやか。
声はそれほど大きく出していなくても、不思議と通る澄んだもの。
低すぎず、高すぎず、水を打つかのように耳に心地よい。
仕種はいつも舞うかのような流れ。目を惹かずにはいられない。

本当、綺麗…うん、それで格好いい。

でも、一番綺麗なのは―あの、瞳。
一見琥珀なのに。時々、太陽のように煌く。強い輝き。

「…そんなに見られたら照れるよ?」
「り、リウさんっ!」

驚いて、即座に身を起こす。

「眠ってると思ったのに…」

そう思えばこそ、まじまじと観察していたのだ。

「あんなに見られているのに?」
「意地悪…。いつから…?」

いつから、気が付いていたのか。
いつから、起きていたのか。

「ビッキーが指に触れてきたあたりから、かな」
「やだ…もっと早く、言ってよ」

羞恥に顔が赤くなる。
付き合いは長い相手だけれど・・・・やっぱり恥ずかしい。

「ごめんね。熱い視線の理由を知りたくて。でも、理由が分からないし。あんまり寝たふりもよくないかな、と起きたんだけど。
―で?そんなに見つめてどうしたの?」

うっ。
「それは…」

聞かれたくないことを、尋ねるんだから。
けれど、彼に嘘や誤魔化しは通じない。出来ないし、吐く気もない。

「綺麗だなぁ…って。思って。」
「僕が?」

こくん。
頬が改めて火照るのを感じながら、頷く。

「髪とか、肌とか、指とか、睫毛とか、動作とか。あと、声と…瞳。」
「ふうん?」

じっと見詰める琥珀の瞳は、今は、闇の中に浮かぶ月のようだった。

「綺麗って言うならビッキーの方だと、僕は思うんだけどね」
「えっ…!!」

かわいい、とはからかい交じりによく言われる。
でも改めて綺麗、といわれたのは初めてのような気がした。

「やっぱり女の子だし。綺麗なのはビッキー。まず、肌は君の方が余程綺麗だよ?」
言いながら、頬に手を当てる。

「すごい滑らか。絹みたい。」
綺麗な指が顔をなぞった。

「絹、っていうなら髪の毛もそうだけど。」
そして髪を梳く。
気持ちのよい動作。

「これだけ長いのに、つややかでほら、いい触り心地。癖になりそう」
さらっ…と髪が流れた。

「指も。なんでこんなに長いのか、不思議になる」
手を取り、指になされる口付け。

「あと睫毛、結構長いのに、びっしり生えてるの気付いてる?」
「そうなの?」
「そう」

睫毛が長いとは思ったことがなくて。
それどころか睫毛の長い人が羨ましいな…と思ってたり。
だから密度なんて思いがけなかった。

「瞳は…大きいよね。それで森の湖畔の色。覗き込むのが怖くなるくらい、キラキラして綺麗。」
今度は瞼に口付けがなされる。

「唇も、桃色で、形よくて。声は鈴を転がした感じかな?綺麗で、よく通って…好きだよ」

そして、重なる唇。
しばらくそのまま時間が流れて。
ふっ、と温もりが離れた。

「他にも綺麗っていいたいところあるんだけど…言っていい?」

聞かれて複雑な心境になった。
彼の口から自分の容姿を誉められるのはうれしい。
でも、同時に恥ずかしくもあって。
まして聞きたい、だなんて言い難くて。
迷った。

そんな様子を見透かしてるかのように、答える前に笑って言葉を紡ぐ彼。

「バランスのよいスタイルとか、足とか、横顔もいいな…あとは」
耳元で一言。
「胸」
「りりり、リウさん〜〜〜〜。」

反射的に胸元を抑えてしまう。

「なんでそんな恥ずかしいこと言うの・・・」
「最初に言い出したのはビッキー。僕だって聞いていて恥ずかしかったんだけど?」

にっこりと、とてもそうは思えない笑顔を浮かべる彼。

「それならこっちも沢山、言わなくちゃと思ってさ。…実はまだあるんだけど言っていい?」
「もういいよ〜。恥ずかしいよー!それに私、そんなに言った?」
「いいや?僕が言いたかったから」
「ううっ…」

諦めて、うな垂れて。更に続くやり取り。

「それに、全部本当のことだし」
「本当のことでも恥ずかしいの!」
「うん、恥ずかしいかもね」

絶対、わかっていてやってる。
これじゃあ、言いそびれた他の綺麗なところも言えそうにない。

悪戯で意地悪な表情も。
強い意志と、力を秘めた表情も。
生き生きと変わる、あなたの表情が綺麗だと。

なによりもその魂が、生きざまが。
綺麗で…そんなあなたが好きだということ。

言わなくてもいいかもしれない。
でも、いつか機会があったら。
その時は笑って言おう。
またこの話題を繰り返して、恥ずかしいって思うかもしれないけれど。
いつか、言いたいな。










Data
No. 046 : 綺麗
Update 2004/09/26
Author ネコヤ ナギ


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