■■ 030: 涙 ■■
…父…さん…。 もう動かない父。 それをあざ笑うかのように右手の紋章は父の魂を食う。 そして、少年は肉親を失った。 『今はそっとしておいてやれよ、今日ぐらいはな。』 フリックさんにそう言われたけど。 なんでだろう??私はマクドールさんの部屋の前に立っている。 なんだか、一人にしたくなくて…。傍にいてあげたくて…。 トントン… 思い切って戸を叩いてみた。 しばらくして。 「あれ?ビッキー、どうしたの?」 いつものように、そう、本当にいつもと変わらないように、 マクドールさんは扉をあけ、私に笑顔を向けた。 なんでだろう?? なんだかそのことが無性に悲しくなって…切なくなって…。 涙が溢れた。 おかしいよ、悲しいのは、マクドールさんのはずなのにね?? 私は涙を見せないように、彼に抱きついてこう言った。 「隠さないで…。」 「ふぅ、泣きやんだ?」 私が泣いていたからかマクドールはしばらくの間、私を頭から抱きしめてくれていた。 「はい。…ごめんなさい。」 本当は、私がこうするつもりだったのに…。 馬鹿みたいだね、逆に慰められちゃった。 「ありがとう、ビッキー。」 えっ? 「なんでですか??私、失敗ばっかりで…何もマクドールさんの役に立ってないですよ〜?」 マクドールの目を見つめて言う私の頬に、彼そっと手を当てた。 「ぼくのために、泣いてくれたんだろ? ぼくはまだ為すべきことがある、だから泣かない…。 でも…ぼくの変わりに泣いてくれる人がいるなら、がんばれるから。」 胸が熱くなった。 …そんなのってないよ。 泣けないなんて悲しすぎるよ? でもそれ以上に悲しいのは…。 「それじゃあビッキー、ぼくはそろそろみんなのところに行くよ、ありがとう。」 そう言ってマクドールさんは歩き出した。 「マクドールさん!!」 不意に引き止める自分。 振りかえるマクドール。 『私のまえでも、泣けないですか??』 「ううん、私、マクドールさんのこと大好きだよ!」 胸に浮かんだ言葉に一瞬躊躇しながらも、ビッキーは今できる精一杯の笑顔を彼に向けた。 ありがとう。と言いマクドールはそのまま振りかえらずに行ってしまった。 なんなんだろう私、何か変。 私が泣いた理由ってなんだろう?? マクドールさんが悲しそうだったから? ううん、ちがう、多分、マクドールさんの正直な気持ちが見れなかったから…。 私のまえでは正直になって欲しかったから…。 胸が苦しい。 ねえ、この気持ちって、一体なんなんだろう?? 私は杖を握り締め、マクドールさんが去った方を見つめていた。 |
*Data* | |
No. | 030 :涙 |
Update | 2003/06/12 |
Author | ユウ |